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No.112 『イケてる中計のポイント3選』

新年度を迎えて中期経営計画を新たに発表する企業も少なくないでしょう。コロナの影響が読みづらいと発表を躊躇する企業の気持ちもわかりますが、考えてみれば先行きの事業環境はいつも不透明。クリアに視界が開けていることの方がむしろ稀でしょう。また、先が見通しづらいからこそ、「環境がどうであれ、当社はこの戦略で成長したい!」という力強い言葉を企業から聞きたいものです。

多くの企業の中計にアナリストとして触れるなかで、「この中計はイケてる!」と心躍るポイントは、つまるところ3つにまとめられると気づきました。

(ポイントその1)社長が面白そうに話している
計画を説明する社長の表情に、隠しきれないワクワクを感じ取ると、「これは相当の自信があるのだな」と、聞いているこちらもワクワクしてきます。とはいえ、実際にそんな社長の表情に出会える機会は滅多にないのですが、例えば、日本電産の永守会長は自社の将来を実に面白そうに話してくれる。「あんたらアナリストはEV化に懐疑的だったが、実際にわしの言う通りの世界になりつつあるやろが。EV用モーターの大化けで連結売上高10兆円、必ず達成したるでー」。このセリフにはわたしの脚色が色濃く入っていますが、永守会長が日本電産の成長に一番ワクワクしているのは誰が見ても明らかなように思います。

反対に、つまらなそうな顔で事務局が作った原稿を棒読みする社長に出会うとこちらもゲンナリしてしまいます。「そんなに嫌なら事業をやめればいいのに。誰も強制していないんだから」と心の中でつぶやくことも少なくありません。

(ポイントその2)計画に連続性が感じられる
初めて中計を発表する企業は少ないでしょう。「第○次中計」と謳っている場合がむしろ大半だと思います。「前回の中計で達成できたこと、あるいは課題として残ったことを踏まえて、今回の中計を策定させていただきました」という感じで、ちゃんと後ろを振り返ってくれる企業には連続性が感じられていい。

「バックミラーなんて無視だ。常に前だけを見て走り続けるのみ」。かっこよく聞こえなくもないのですが、中計未達の理由には一切触れることなく、新しく開発したデジカメの話ばかりする初台が本社の元社長には、ワクワクを感じる一方で不安も抱かざるをえませんでした。

さらに最悪なのは、中計を毎年ローリングする企業です。計画の進捗を客観的に評価する術が失われてしまいます。「達成できそうにないから、わざと洗い替えているのか」と勘繰られても仕方のないことでしょう。

(ポイントその3)達成への道筋が具体的に示されている
これはもう説明する必要もないかもしれません。最終年度の数値目標を達成するために、セグメントごとにどのような事業戦略で臨むのか、その思いが中計のなかに具体的に表現されているとアナリストにとって安心感が強まります。かりに期中で計画の軌道から外れたときも、当初の想定との差異を外部から検証しやすくなるでしょう。

これは単に目標数値が細かく設定されていればいいという話ではありません。1つ目のポイントとも関連しますが、どのような姿になりたいか、どのような競争戦略を目指すのか、そのストーリーが細部にまで宿っていることが計画に魂を吹き込むのだと思います。

と偉そうに書きましたが、社内における今期の課題設定で上司から修正を求められるようでは、そもそも企業の中計を評価する資格など私にはないなと反省する今日この頃です。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。


無名の文章を読んでいただきありがとうございます。面白いと感じてサポートいただけたらとても幸いです。書き続ける糧にもなりますので、どうぞよろしくお願いいたします。