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No.3 『TDK』 戦略の意味を気づかされる

日本企業の場合、アルファベット3文字の社名が英語表記の略称とは必ずしも限りません。TDKの社名は東京(Tokyo)電気(Denki)化学(Kagaku)の頭文字に由来します。電気と化学の要素技術をベースに、TDKはカセットテープやコンデンサ、磁気ヘッドの分野で強い競争力を発揮してきました。社名の由来をひも解くと企業の技術的な淵源にも辿りつくことができます。

TDKの収益構造が変わりつつあることを日経新聞の記事で知りました。コンデンサが収益を支えていると考えていましたが、実は成長を牽引しているのはラミネート型のリチウムイオン電池。電気と化学の要素技術が息づくリチウムイオン電池ながら、この分野についてはTDKがもともと手がけていたわけではありません。香港のATL(こちらの3文字はAmperex Technology Ltd.の略称)を2005年に買収することによって獲得しました。100億円で傘下に入れたATLの売上高は直近で4,000億円を超えるといいます。日本企業によるM&Aの好事例といえるかもしれません。

なぜATLが成長しているか、その背景が少し面白い。ラミネート型のリチウムイオン電池(薄い膜を積層した板状の電池をイメージしてほしい)は小型で軽量なことからスマホに使われています。これだけなら特段に意外性はなありませんが、ラミネート型電池の需要を押し上げているもうひとつの理由がワイヤレスイヤホンの普及のようです。左右のイヤホンと携帯充電器に搭載されるため、ワイヤレスイヤホン1セットにつき電池が3個売れることになります。最近はケーブル付きのイヤホンを装着している人に出会う方が難しくなりつつありますから、ラミネート型電池の成長モメンタムは容易に体感することができるでしょう。

TDKの成功を見るにつけ、戦略とは何か、その意味に改めて気づかされます。戦略とは文字通り戦いを略すこと。他社との違いを作って無益な戦いを回避することを意味します。TDKはコンデンサに強みを持つとはいえ、トップシェアの村田製作所に大きく水をあけられている。競争の位相をずらすためにATLを買収し、村田製作所とは違う場所で成長機会を求める意思決定が奏功した。日経の記事を読んでそう感じました。ちなみに、ATLは携帯用リチウムイオン電池市場でシェアトップの35%を握ります。

ところで、アルファベット3文字の社名といえば、機械メーカーであるTHKの由来は、創業者・寺町(Teramachi)博(Hiroshi)の会社(Kaisha)と聞いて脱力した記憶があります。ところが会社のホームページによると、タフネス(Toughness)、ハイクオリティ(High Quality)、ノウハウ(Know-how)の頭文字を取ったとのこと。いずれにしても社名の由来は興味深いですね。

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