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読書記録001「逃亡くそたわけ」絲山秋子

追っ手は来ない。金もなくならない。飢え死にもしない。ロード・ノヴェルを盛り上げる、「お約束」のハプニングは起こらない。物語を駆動させているのは、主人公の「どうしよう」という不安と、「亜麻布二十エレ...」云々という幻聴だけだ。あまりに潔い。この潔さは絲山小説の美学とも言える。逃亡は明らかに「発作」として始まり、「症状」として続いていく。実際には「追っ手」などいない。「敵」など存在しない。亜麻布二十エレは、上衣一着に「値しない」。自分が作り上げた絵空事からの逃亡は、力尽きるまで続く。あるいは単に飽きるまで。

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