相次ぐ募集停止で問われる、私立大学のレーゾンデートル ①
女子大・短大が立て続けに・・・
2023年度の学生募集が終わり、フレッシュマンを迎え入れた各キャンパスは、どこも活気に満ち溢れていることでしょう。
そして、コロナによる規制も緩和されてきていますので、学生たちの賑やかな会話や笑い声が、こちらにも聞こえてくるようです。
いよいよ、本来のキャンパスらしさが戻ってきましたね。
ところが、そうした晴れがましさを吹き飛ばすような衝撃的なニュースが、立て続けに飛び込んでまいりました。
それは、3つの女子大学・短期大学が今年度をもって募集停止とする、
というもの。
発表したのは、恵泉女学園大学(東京都)、神戸海星女子学院大学(兵庫県)、上智大学短期大学部(神奈川県)。
毎年進行し続ける18歳人口の減少、そこにここ数年のコロナ禍が追い打ちし、学生募集において崖っぷちにたたされている大学は少なくありません。
とくに、女子大学・短期大学は、女子受験生の共学志向や女子大離れ、という現象も加わって深刻な事態に陥っていたのです。
しかし、実際に募集停止の報に接すると、改めてこれまで長い間培ってきた私立大学の存在意義=レーゾンデートルは一体何なのか、考えさせられるのです。
ここで、3つのうち最初に発表した恵泉女学園の歩みにフォーカスを当てて考えてみたいと思います。
平和を願う河井道の情熱が生んだ学園
恵泉女学園は、キリスト教徒で、高名な女性教育者であった河井道(1877年―1953年)が興した学園です。
新渡戸稲造から教えを受けた河井は、戦前から平和主義を掲げ、昭和天皇の戦争犯罪訴追回避において重要な役割を果たしたことはよく知られています。
このあたりの事情は、岡本嗣郎著の『陛下をお救いなさいまし 河井道とボナー・フェラーズ』(ホーム社、のち集英社文庫)に詳しく描かれ、その後、『終戦のエンペラー』として映画化もされています。
その河井が、第一次世界大戦後の世界の惨状に深い憂いを抱き、国境を越えた仲間の女性たちとともに活動をする中で、新しい学校を創ることを決意したのです。
恩師・新渡戸の強い反対もありましたが、それを押し切って1929年に設立したのが恵泉女学園でした。
はじめは河井の自宅を教場としたのです。
河井が憂えた当時の世界の惨状。
奇しくも、現在の政界情勢にも通じる、と深刻に受け止めざるを得ません。
いまこそ平和研究が必要とされているはずなのに・・・
1950年に設立された短期大学を引き継ぐかたちで、1988年に開学したのが大学。2005年に人文学部と人間社会学部の2学部体制となり現在に至っています。
特筆すべきは、大学創立時から設けられた講座『平和学』
(のちに『平和研究入門』)。
そして1997年に設立された『平和文化研究所』。
これらの平和に関する授業や研究は、まさに河井が掲げた平和主義を具現化するもので、恵泉女学園の存在感を高めていたのです。
女子大というと、とかく、良妻賢母の育成というイメージがつきものですが、恵泉女学園の場合、女性という視点を大切しながら国際平和や非暴力を希求する研究を積極的に推し進めてきました。
いまこうして、募集停止になってから、このような傑出した取り組みを紹介させていただくことには、つらいものがあります。
しかし、昨今のロシアによるウクライナ侵攻や、世界各地で頻発する紛争を考えると、まさに、こうした研究がとても大切であることを改めて強調させていただきたいと思います。
でも、このような卓越した平和研究をおこなっていた大学であっても、経営難の荒波には抗うことはできなかったわけです。
義務教育以外は、私学がメイン
さて、恵泉女学園をはじめとして、このたび募集停止となった、神戸海星女学院大学や上智大学短期大学部は、いずれも私立の教育機関。
日本全体をみると、義務教育課程である小中学校は多くを地方自治体が設置した学校となっていますが、高等教育(と幼児教育)の世界は圧倒的に私立の学校が多数を占めているのです。
大学については、日本私立学校・共済事業団の資料によると、令和3年8月1日時点で、学校数では77.1%、在学者数では74.0%が私立となっているのです。
私・国・公立学校の 学校数、教員数、在学者数の比較
(令和3年度 学校基本調査による)
つまり、義務教育以外は私学がメインであり、特に大学は私学が支えていると言っても過言ではありません。
私学の募集停止は何を意味するのか
日本の公教育の一翼を担うべく、自らの教育理念を掲げ、私有財産を公に供与・寄附するかたちで誕生したのが私立学校。
ところが、ここへきてその多くが少子化からくる経営難の嵐に見舞われているのです。
果たして、私立大学の募集停止は何を意味するのか?
次回は、私立学校の存在意義にたちかえりながら、
国の方で進められている大学の今後の在り方についての議論を
見てまいりたいと思います。
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