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ふしぎな隣人たち

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短編小説、児童文学つめあわせ
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#第1回noteSSF

時間食い虫

時間食い虫

 親愛なるわが友へ

 本当なら拝啓とか時節の挨拶とか書かなくちゃいけないんだろうけど、なにせ手紙なんて久しぶりに書くもんだから細かい書きだしなんて忘れてしまったんだ。許してほしい。僕と君の仲ならいきなり本題に入っても気にしないでくれるだろうと思っているよ。そうだろう?

 僕が慣れない手紙を書こうと思ったのには理由がある。君に知らせたい事があるんだ。

 君は『時間食い虫』を知っているかい? 何

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さいさい

さいさい

 ほおい、ほおい。人の声に似た風が吹いて、彩菜(あやな)はパッと顔をあげた。辺りはもう薄暗くなっている。

「誰もいない山ん中で人の声の聞こえたら、それは人間ばまどわそうとしよるあやかしの仕業やっど」とあやなのばあちゃんがよく言っていた。「そげん時はあやかしに見つかる前に早う山ば下りてしまうんが一番よか」

 急に肌寒くなった気がして、あやなはぶるり、と身をふるわせた。風はもうやんでいたが、木々の

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