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羽生善治は何故勝てなくなったのか?

(羽生に関する記述は全て無料です)


ゆく年くる年。

直近のnoteの売上が、ユニクロのプレミアムダウンと御年玉ぐらいなら、有に賄えるほど好調でした。感謝感激雨嵐。これで年を越せます。新年も更に質を上げられるように頑張ります。

書くべき題材は無限にあるんだなと思いました。あとは書き手の力量とガッツ。

ところで、最近の麻雀界では、面白いnoteやブログや動画が増えましたよね。ざっと挙げると、うさぎさん、木原プロ、ぽんでらいおんさん、もりもりおにぎりさん、協会の堀プロ、さくらこさん、ふかみさん、フィリアさん、ゼットンさん、ZEROさん、ゆうせーさん、masasioさん、うに丸さん、平澤さん、勿論アサピン神と福地先生…などなど、キリがないんでこの辺にしますが、本当に皆さん面白いです。(名前出なかった方ゴメンナサイ、全く他意はないです。そういえば藍色カエルさんのイラストもだ)

新規参入の増加により、一層お互いに刺激し合って、より良いコンテンツが産まれる流れができていると思います。

一方で、あまりにも見たい読みたいものが増えすぎて、消化不良になってきた人も多いかもしれません。「将棋世界」のように情報が一本化された機関誌が、麻雀界にもあればいいのですが。今は未だ、ネットの海に、てんでばらばらな、過渡期な感じです。天鳳民による、共同執筆の企画とか望まれますでしょうか。

キンマ…? てんで聞いたことないですね…

さて前置きはそろそろ止めにして、今回は箸休みとでも申しますか、傍題として、将棋界の現状と、それに連想する麻雀界の未来を、令和の初の暮に、しみじみと考えてみます。

私は、先に挙げた「将棋世界」を、毎月欠かさず熟読しております。近年は、編集方針が、完全にガチ寄り、ソフト多用、初心者切り捨て、殆どプロ仕様、といった具合になりました。それは結構なんですが、本当に肝心要の、棋士の秘匿は、依然オープンにされることは少ないので、読んでいてモヤモヤすることもあります。

(私は他にも、毎月、いくつかの月刊誌を、購読したり、あるいは図書館で読んでいたりしていまして、ラインナップを挙げると、「中央公論」「文藝春秋」「Hanada」「世界」等々で、あとは時間と気分とで、「週刊文春」「週刊新潮」などが加わり、もっと言うと新聞も一年中、「読売」「朝日」「産経」「毎日」をマジで読んでいます。人生で役にたったと思ったことは、これまで別になかったんですが、まあこのnoteの文章の香り付けぐらいには…)


将棋界のここ数年のトレンドを一言で表せば、明らかに、

「AI」

です。字義通りの、「革命」を引き起こしました。

実力・権力・権威・収益構造・ファンの見方、等々が、全てガラガラポンにひっくり返されたといっても過言ではありません。敗戦時の日本すら思い起こされます。頑迷古老な旧華族が落魄し、逆に進取果敢に富んだ貧困層は、朝鮮戦争特需の荒波に乗りのしあがったように。

ただ、戦後の日本において、依然として戦中派である吉田茂や岸伸介が巨大な権力を維持したことも確かなように、将棋界でも、一世を風靡したあの羽生世代のメンバーは、未だトップクラス付近なら何とか保っている棋士も少なくありません。羽生、佐藤、郷田などなど。(永世名人の森内さんはセミリタイアしました)

しかし、タイトル保持者は全くいなくなりました。羽生が最後の虎の子である竜王を失った対局は、私も全て見たんですが、平家物語よろしく盛者必衰のことわりが現されていました。

ここで近年の羽生の成績を紹介しますが、

凋落著しいですね…2016年の大スランプから全く脱出できていません。原因は何でしょうか。「齢49歳」に求めるのは簡単で、それも当然一因ですが、果たして主因なのか。

やはり「AI」でしょう。

羽生も勿論活用はしているのです。序盤戦術を見れば一目瞭然です。しかし、若手棋士の猛追を食い止められていません。羽生に対する畏れなど微塵も無い若者達の。

今日、12月27日に、棋王戦挑戦者決定戦というものが行われていて、若手棋士同士の極めてフレッシュな顔合わせなんですが、その片方の、本田四段は、AIの棋譜や思考に、勉強時間を集中するようなトレーニング方法で、一気に頭角を現してきました。(←は事実に反していて、棋士同士の一対一のトレーニング、いわゆるVSも重視されてることが将棋世界のインタビュー等で分かりました。訂正します。2021 9月30日追記。)

将棋界では従来、四段になる年齢が早くないと大成しない、という定説があったんですが、最近、木村九段が46歳3ヶ月で、現棋界最強の一人である豊島王位から、初タイトルを奪取するという、もはや事件に近いようなことが起こりました。

この木村王位も本田四段も、三段リーグの成績が芳しくはありませんでした。つまり、プロの目からすると、羽生や谷川や渡辺のように中学生で棋士になった面々と比べ、決して天才とはみなされていなかったのです。しかし、現棋界では、

凡人が天才に逆襲する。

という潮流が強まってきているのです。(ちなみに永瀬二冠は、自分は、同期の佐々木勇気と比べて、全く才能は劣っていたと、何度も繰り返し発言しています)

これは、AIの使用時間の量に依るのでしょうか。

例えば、羽生は確かに超多忙でしょう。将棋界のアピール、他業界を横断した職務、将棋会館新設、スポンサー集め等々、「顔」として寝る間も惜しんだ、八面六臂の活躍をされていることは間違いありません。一ファンとしても感謝しかありません。

しかし、今は、ノートパソコンのみならず、スマホですら、相当ハイレベルな研究ができます。それに、棋士は脳内で将棋盤の駒達を自由自在に動かせます。どこに居たって思考を広げ深められるのです。

羽生の不調の原因は、もっと深いところにあるのではないか。凡人の逆襲を許しているのは何故なのか。

いやむしろ、今まで羽生を天才たらしめていたのは何なのか。その天才性は失われつつあるのか?

実は、近年の羽生が口に出さなくなったフレーズがあります。それは、

「能力が衰えても、経験でカバーできる」

というものです。晩年までA級を保った故大山康晴15世名人の生涯を観ての着想、というか願望でしょうか。

しかし、繰り返しますが、羽生は此のフレーズを封印しています。ここに人間としての、正直さと誠実さを感じて、私が胸が痛くなります。

羽生は今、必死に戦っています。抗っています。

何と?

「経験」とです。永世七冠まで獲得した自身の経験と。つまり、

自身の経験は、AIを利用した学習にとって、ひょっとしたら無意味なのではないか?

いや、それどころか、有害ですらあるのではないか?

という、身体の内から延々と湧き出す、逃れようの無い、この上ない恐れと。勿論全ては私の想像なんですが。


AIがもたらした、戦術の激変の代表格の一つが、「角換わり腰掛け銀4八金・6二金型」です。従来は「5八金・5二金型」でした。麻雀勢の為に画像貼りますと、

これが現在、大大大流行中の「4八金・6二金型」です。できれば、盤面全体をぼんやりで良いので、頭に入れて頂きたいです。では、従来はどうだったのかと言うと、

これが「5八金・5二金型」です。王様と金が、対局者から見て、自身の盤面の左側に一路寄ってます。右側がスカスカした感じを受けませんでしょうか。

この局面は「升田定跡」などとも称され、将棋史において、あまりにもあまたの、悲喜交々が産み出されてきました。棋士の人生が懸かった局面だったと言ってよいです。羽生を始めとするトップ棋士の情熱と研究が長年、延々と注力されました。(現在は、一応、先手勝ちが定説になってます)

しかし、AIは、この局面を殆ど指しません。金は、必ず、一路右側に置くので。

AIにとっては損な指し方なのです。人間の常識だったものが。羽生が当然とみなしていた戦術が。

現在は、人間にとっての非常識であった、「4八金6二金型」、の優秀さは知れ渡り、打って変わって、ほぼ全ての棋士のエネルギーが注がれるようになりました。現金なものですね、と、ちょっと皮肉も言いたくなりますが、仕方ありません。生活懸かってますから。そして、将棋の真理の追求こそが、棋士にとっての至上の価値を持つと思うので。

ちなみに、あの藤井君は、マジで此の将棋ばかり指しています。(今日もw)将棋の真理は、全ての作戦の中で、AIが最も採用している、此の局面に在り、と考えているからだと思います。

羽生も、タイトル戦や、A級順位戦等で、この将棋をメインにし、無数に指しています。独自の工夫も沢山示しています。しかし、結果がイマイチなのは貼った画像の通り。

「5八金・5二金型」というのは、王様も、金に釣られたかの如く、一路左に寄っています。盤面の端に寄っているともみなせます。従来は、その位置を、王様にとって安全だとみなしていたのですが、現在では、むしろ、敵の飛車などの攻め駒に近付いてしまい、却って危険になりうるのだ、という認識が定着しています。また金の位置も現在では、「盤面全体のバランスを保つ」、為に、ある程度は右側に据えるべきだ、という考え方が最早絶対になっています。

この、「盤面全体のバランスを保つ」、というのが、大雑把に言えば、AIがもたらした、最大の革命と言えます。従来の人間は駒を偏らせ過ぎていたのです。

例えば「穴熊」が良い例です。王様を1一・9九の隅にまで運んで行き、周りを金銀桂香で固めるという作戦ですが、これもAIは評価しません。2017年の叡王戦で、佐藤叡王の穴熊を、AIが完膚無きまでにぶっ潰したのは衝撃的でした。

バランスを重視した価値観の浸透は急速に進み、プロ棋界の様相は激変しました。盤面全体で激しい攻守の応酬が生じるようになったのです。これが穴熊だと、勝敗の殆どは、局地戦・焦土戦で決まっていたのです。

何故、駒を偏らせた作戦に人間は熱心だったのか、バランス型の作戦の利点を適切に評価できなかったのか、に関しては様々な見方がありますが、一つ挙げれば、読むのが簡単、楽だからです。

麻雀で言えば、テンパイ即リー全ツッパ。とりダマや回し打ちはめんどくさい。しかし、アサピンさんが天下を取りつつあるように、将棋界も、断崖絶壁綱渡りの局面を、異端の感性と正確な読みに基づいて、従来の常識に反した選択で乗り切れる棋士が、これまでの棋界ピラミッドを崩しに崩しているのです。

羽生は勿論、未知の局面に対する評価の正確さと、終盤での計算能力の高速さを、変わらず有してはいます。今でも棋界有数の。

しかし、羽生にとって厄介なのは、「4八金」と「5八金」のたった一路の違いのように、従来と現在の局面の違いは、実際には見た目は大きくないということです。羽生には「5八金」に対する長年の思考と経験の蓄積があります。それが、「4八金」を考える時に、影響してくるのです。邪魔してくるのです。混じりあってくるのです。時折ひょっこり顔を出してくるのです。

捨て去ればいいじゃん、と思われるかもしれませんが、では、皆さんは、

「大学や企業や仕事や家庭で培ってきた知識や技術や経験や感性は、今から全て忘れて下さい、AIが全部正解を教えてくれますので。今までご苦労様でした」

と言われて、できますか?愚問ですね。

例えば「5八金」が、そこまで全然ダメってほどではない、というのも却って都合が悪いです。もしかしたら、まだ工夫次第でAIに通用するのでは?という未練が、なかなか断ち切れなくなるからです。

今からでも、羽生が、終盤の詰む詰まない以外を、まっさらにしさえすれば、天下を藤井君と二分できると、私は思います。全盛期に、羽生マジックと呼ばれた終盤力は超人的で、他の全ての棋士は、ほぼ諦めに近い畏れを抱いていました。しかし、最近の羽生の将棋は、なかなか終盤になりません。序盤で若手のAI研究に圧倒されてしまい、終盤に入るまでに勝負あり、というのが多すぎるのです。(執筆中の12月27日に、本田四段の棋王戦挑戦が決まりました。プロデビュー後史上2番目の早さです。しかし、本田四段はC級2組でベテラン棋士に連敗するなど、地力が本当に高いのかは未だ相当疑問符が付きます。彼は自身の研究や得意な局面に相手を引きずり込むのが上手いのです)

麻雀で言うと、終盤の鳴き読みや、ケイテン等の押し引きとか以前に、手組の大胆さや早さや高さ等で、常識を大きく超える選択をされて、南3辺りで気付いたら大差付けられていてどうしようもない、みたいな感じです。

ただ、麻雀は将棋と違うゲームなのだから、そんな驚くべき手なんてある?ないでしょ、という意見が強いと思います。果たしてそうなのか。実は、「4八金・6二金型」は、昭和前期に既に、一部のトップ棋士が指されていました。この辺りの事実も示唆的です。

以下の有料記事で、Mリーグと、古の某十段の牌譜から2局例を挙げて、その点を考えてみます。

あと、これまでのnoteの売上載せときます。

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