シュウマツ都市

イジン伝~桃太朗の場合~XXIII

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【 目が離せなくなった。「何か悩みでもあるのかよ」
「あるけど。でもそんなんじゃないんだ。運命とか、そういうものなんだと思う」
「運命だって。冗談だろ」
 猿野は苦笑して木地川の顔を覗き込んだ。彼はにっこり微笑んで答える。
「うん。冗談」
 猿野は気味が悪くなって膝を抱え込んだ自分の手をきゅっと握った。力んだ拳はあの女と同じように白く濁った色をしていた。目をつぶる。「俺たちは若いんだ。死ぬなんて分かってたまるか」
 木地川も拳を握ってもう一方の手で感触を確かめるように撫でて言う。「そうだね。僕らは若いんだよね」

 不意に静かだった体育館が騒がしくなって固まっていた空気が雪解けるように流れ始めた。しゃがんだ二人に鉄扉の隙間から淀んだ風が吹き込んでくる。その雑然とした音の中にこつこつと一つの足音が近づいてくるのが分かった。二人は飛び上がりトイレに身を隠した。
「説明会ってこんなに早く終わるんだっけ」
「知らねえよ。とにかく今見つかったらめんどくさい。お前さっきみたいに絶対声出すなよ」
 足音の主は体育館を出るとすぐさま鉄扉を閉じて大きなため息をついた。苛立たしげになにか呟いている。猿野はトイレの横戸に耳を当てる。】

第二十三回

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「たかが……私が煩わされる……放っておけば……なのは第一検体だけ……忙しいというのに」
 歯の間から漏れる呼気がかろうじて声の体裁をとっており、内容は途切れ途切れにしか聞こえてこなかった。しかし猿野には声の主が誰なのかはすぐに分かった。一目見たいという衝動を抑えて耳に神経を集中させる。
「もう他の検体は……おけばいいのだ。中央は……私は……では終えているところも……」
 声は徐々に離れていき聞こえなくなった。猿野は興奮を抑えられなくなって木地川の肩を揺さぶる。「おい、今の誰だったかわかるか」
 木地川は「さあ」とさも興味がないように首を傾げる。「それよりも桃太くんを探そうよ」
「桃太なんてどうでもいいよ。今のハカセだぜ。鬼怒井校長だ。この国で一番偉い人だ。校内放送で聞いた声と写真しか知らない、それくらいレアな人なんだぜ。すごいとか思わないのかよ」「それよりも桃太くん」
 がらがらと重い音、体育館の鉄扉がもう一度開けられたのに気づいて二人は会話をやめる。保護者たちが出てきたのだ。ぴこたんぴこたん。スリッパがいくつも通り過ぎていく。不思議なくらい静かだった。雑談一つない。
「教室戻ろうよ。もしかしたら桃太くん帰ってきてるかもしれないし」
 猿野は「いやだね」即答した。「今俺が教室行けるわけねえだろ」
――泣くな――
 突然外から怒声が聞こえて二人は固まった。
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久しぶりの投稿です。物語の流れが見えた気がするのでまた少しづつ書いていきます。

※イジン伝~桃太朗の場合~まとめ(I-VII)はこちら

※※イジン伝~桃太朗の場合~まとめ(VIII-XIV)はこちら

※※※イジン伝~桃太朗の場合~まとめ(XV-XXI)はこちら

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