【村から町へ①】 「しあわせね、きみはしあわせ。そうでしょう」と殴るような世間様だわ/柴田葵
お正月がとても嫌いだったし、大人になった今も身震いがするほど嫌いだ。
時代も土地柄もあるのだろう、来る年も来る年も、母は来客のために神経を尖らせていた。普段滅多に叱られない私も、年末年始にはひどく叱られた。兄たちは座布団を並べる程度の手伝いしか命じられなかったのに、女に生まれたらしい私は場が整うまで座ることすら許されなかった。
ふざけるな、と言える相手が欲しかった。いなかった。
子供の私が住んでいた村は統合されてとっくに町だ。上の世代はみんな死んだから、両親はのんびりとしたお正月を過ごせるようになった。私はお年賀として、ちいさな御節料理を両親に贈るようになった。今はインターネットで簡単に注文できるのだ。
それでも私は許せない、お正月を許せない。何年もかけて、私はとても傷ついたから。
ふいに大きく打ち寄せる波のように、何度も同じ夢を見る。
むらむらとむらのある日々むらのある村人たちと暮らしています
「痛いね、胸。でも心はそこに無いからさ」若い領主は言いました
「しあわせね、きみはしあわせ。そうでしょう」と殴るような世間様だわ
これまでを平均すると年0・7人死傷する祭です
とび起きる 実在をする 一歳が 泣いていて 四時 水を飲ませる
わたくしは村のおんなのひとりだと思う覚めても覚めずともおんな
お正月に「お」なんかつけたくないけれど、女の子だから「お」をつけるもんだと近所のおばさんは言った。私のなかには村があって、もう解体することはできないのだと思う。
ならば統合しよう。新しいルールに従わせるのだ。
村の人間を、つまり私を。
◇短歌◇
/柴田葵「泣いている村」
#短歌 #俳句 #小説 #きみは短歌だった
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