『きみは短歌だった』

短歌(57577季語は要らない)に取り組んでいます。とても面白いです。 Twitter…

『きみは短歌だった』

短歌(57577季語は要らない)に取り組んでいます。とても面白いです。 Twitter @hellothisissbt

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「ジョジョミュ」公演中止から、舞台チケットの流動性と信用について考えた話

これは短歌の話でもなんでもなくて、 ・中高大と演劇部、演劇サークルに所属するほど演劇にはまり ・その後、金融機関で労働し(株式や為替の決済業務を担当) ・端的にいうと育児で10年ほど舞台芸術を積極的に見にいけなくなっていた私が ・最近になって「舞台関連のチケットを購入するのってこんなに大変だったっけ?」と頭を抱えている というだけの文章になりそうです。もしよければ苦悩を共にしましょう。 専門家でもなんでもないので、細部に誤解があるかもしれませんがご了承ください。致命的な勘違い

    • 【ネタバレ】映画「カラオケ行こ!」で泣いた話

      2024年1月公開の映画「カラオケ行こ!」を映画館で見てきました。 いや、まさか自分が泣くとは思わなくて。この作品で。 すごく良かったので、感想の一部をnoteに書いておこうかなと思います。ネタバレしかないから、踏みたくない人は閉じてくださいね。個人的には、そもそも原作があるので、ネタバレしていても楽しめるタイプの映画だと思います。見るのを迷っている人の助けにもなったらうれしい。 前提として、私は原作の漫画・和山やま作『カラオケ行こ!』および発売されたばかりの続編『ファミ

      • 【作者解説】歌集の「あとがき」について

        「あとがきの解説」というのも妙な話だけれど、このシリーズのタイトルはすべて【作者解説】で始めてしまっているので統一する。関連する記事は以下の通り。 この記事を書くことにした経緯→ 20首連作「ぺらぺらなおでん」解説(Amazonから無料で作品が読めます)→ 第1回笹井宏之賞を受賞した連作「母の愛、僕のラブ」解説(作品未読でも読める内容です)→ 本記事では歌集『母の愛、僕のラブ』の作者解説シリーズ最終回として、「あとがき」について書く。作者解説そのものが無粋とも言えるの

        • 【作者解説】短歌50首連作「母の愛、僕のラブ」

          本記事を書くことにした経緯はこちら→ 笹井宏之賞は50首の連作で応募する形式だ。短歌の「連作」という形式はあまり、というか、まったく世間一般からの認知度がない。教科書に掲載されている短歌も1首ずつであるし、町おこしや啓蒙活動の一環で開催される短歌コンテストも1首単位の募集がほとんどだ。 連作という形式を理解しているのはそれこそ「短歌に親しみ、取り組んでいる人」くらいだろう。最近は少しずつ変化があるのかもしれないけれど。 50首連作は50首の短歌でもって1作品とする。前回記

        「ジョジョミュ」公演中止から、舞台チケットの流動性と信用について考えた話

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        • きみは短歌だった
          26本

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          【作者解説】短歌20首連作「ぺらぺらなおでん」

          本記事を書くことにした経緯はこちら→ 柴田葵(私)の歌集『母の愛、僕のラブ』(書肆侃侃房 2019年)の冒頭に収録されているのが、短歌20首連作「ぺらぺらなおでん」だ。Amazonの試し読みから20首すべて読める。 これは第2回石井僚一短歌賞に応募し、次席(2位)になったものだ。なお、第1回石井僚一短歌賞に応募したのが、同歌集に収録されている別の連作「より良い世界」である。第1回石井賞は「20首以下」というめずらしい規定だったため、一首とでもどうとでも解釈できる「うん」だ

          【作者解説】短歌20首連作「ぺらぺらなおでん」

          第1回笹井宏之賞大賞受賞から今までの話

          2018年のある日、見たことのない電話番号から着信があった。一瞬、ある心当たりが頭をよぎったけれど、いや、そんなことはないだろう、と思いなおす。折り返すと、書肆侃侃房の藤枝さんという人が出た。 「第1回笹井宏之賞にご応募いただいた件なのですが」 と藤枝さんが言う。 「はい」 はい、としか言いようがない。否定した心当たりが踵を返して戻ってくる。もしかして、候補になったけれど不備があったのだろうか、まさか個人賞だろうか。 「柴田葵さんの『母の愛、僕のラブ』がこのたび、大賞に選

          第1回笹井宏之賞大賞受賞から今までの話

          「人マニア」を考察する人こと私

          もう更新していなかったnoteをひっぱりだすぐらいに書きたいから書くことにします。ログインに必要なIDやパスワードがわからなくて、2回間違えたのち、無事に入ることができました。 書きたいのは「人マニア」についてです。 こちらです。 2023年8月に投稿された、原口沙輔氏によるボカロ(重音テト歌唱)の曲です。概要はピクシブ百科事典などをご参照ください。歌詞も出ています。 私自身もそれ以上のことは知らないし、ボカロ曲を聴き始めたのは今年からで、だからこれは書きたくて書いてい

          「人マニア」を考察する人こと私

          追記

          書評というものを初めて依頼され、書き、それが掲載されたものが今日発売になった。追ってWEBにも掲載されるはずで、もしよければご一読頂ければと思う。 御本について思うことは書いた通りなのだが、字数と文の運びの都合でどうしても言及しきれなかった事柄も多い。どうしても立場を明確にしたいことだけ、ここに追記しておく。私は、著者が幼少期に他者に行った「いたずら」は「いたずら」の範疇を超えたものだと思う。その「いたずら」をされた方々やその親や親戚がまだ御存命だとして、おそらくは本名で、

          【ネタバレ】映画『キャッツ』は私たちの映画だった

          映画『キャッツ』を見てきました。 北米でのワールドプレミア後「犬の誕生以来、猫にとって最悪の出来事」「5段階評価でいうとタマネギ」という酷評の嵐で、日本公開前から話題騒然だった映画です。すごいなタマネギって。 『オペラ座の怪人』『エビータ』『ジーザス・クライスト=スーパースター』など超有名ミュージカルを産んだイギリスの作曲家アンドリュー・ロイド=ウェバーの代表作『キャッツ』は、今なおロンドンほか世界各地で上演されています。日本では劇団四季が上演。世界的にめちゃくちゃ人気の演

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          第一回笹井宏之賞受賞のスピーチ原稿

          本日(3月3日)は、第一回笹井宏之賞の授賞式でした。会場でお目にかかりました皆様ありがとうございました。お一人ずつご挨拶しきれず申し訳ありません。 当初「2分間のスピーチを」というお話だったのですが、賑やかで盛り沢山な会でしたので、当日は私を含め、皆さん短めにお話しする進行でした。 ですので、実際にお話しした内容より少し長めですが、用意していたスピーチ原稿をnoteに掲載致します。特に御礼の部分と歌集出版の部分については、会場にいらっしゃらなかった方にもお伝えしたいと考えて

          第一回笹井宏之賞受賞のスピーチ原稿

          【明日①】 あしか見に行こうね、あしかは今日だって生活していたけれど、週末/柴田葵

          あなたと私は家族になったけれど、それは法的なもので、しかも日本の法律ではない。私は日本で生まれたけれど、死ぬのは日本ではないんでしょうね。正直に言うと私はそれを少し寂しいと思っていて、でもなんで寂しいのか全くわからない。生まれてから四半世紀くらいを日本で生きてきたから? じゃあ四半世紀以上、この国で生きれば寂しくなくなる? この質問は恐らくあなたを傷つけているんだけれど、あなたは笑って「一緒に試してみよう」と言う。日本語で言う。死ぬまで一緒に楽しく生活しよう、そして、答えを見

          【明日①】 あしか見に行こうね、あしかは今日だって生活していたけれど、週末/柴田葵

          【選び取る②】 「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日/俵万智

          笹の葉さらさらさらさらさらさら気の狂うまでリフレインさせているスーパーで、つかの間の正気のように「7月6日はサラダ記念日!」というポップが出ていた。七月になったのだ。 その手書きポップはカット野菜コーナーの前にあった。普段は離れた場所にあるドレッシングもいくらか移動してきている。まるで織姫と彦星のように、この時ばかりは近くにいられるわけだ、と思うけれど思考がさらさらさらさらに戻ってしまうからやめる。 でも、この「サラダ記念日」の短歌をどのぐらいの人が知っているだろう。多く

          【選び取る②】 「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日/俵万智

          【番外】 あなたのことを理解できない世界で、短歌はにこにこしている

          こんにちは、柴田といいます。このテキストを書いている時点で私は35歳です。不躾ですが、あなたは何歳でしょうか。 歳上かもしれないし歳下かもしれません。同い歳だとちょっとうれしい気がします。同年齢のスポーツ選手や芸能人は、それだけで親近感がわくものです。でも、だからってわかりあえるわけではありません。 私たちはみんな違うし、理解することはできない。 歳を重ねるごとに、その思いが強くなります。 「できない」は一種の諦念です。少しでも理解できたらいいのに、たぶん少しも理解でき

          【番外】 あなたのことを理解できない世界で、短歌はにこにこしている

          【選び取る①】 産むことと死ぬこと生きることぜんぶ眩しい回転寿司かもしれず

          あ、 れ、 そうだ、 わたしはもう妊婦なんだった と、回転寿司屋のカウンター席に座ってから気がついた。 生魚、食べてもいいんだっけ。 制御された皿がうつくしく目の前を通り過ぎてゆく。皿は全て正円だった。結局、穴子と卵と炙りサーモンの皿を取る。炙ってあればセーフかもしれない。とりあえず、わたしはそういう判断をした。あとで確認をする。 産婦人科で行われた超音波検査を見るに、わたしの体内で確かに何かが明滅していて、それはわたしのものではない心臓の動きだということだった

          【選び取る①】 産むことと死ぬこと生きることぜんぶ眩しい回転寿司かもしれず

          【課金する②】 メロンパンのメロン部分を永遠に手放しながらふたりで暮らす

          かつて、課金しないと服すら与えられず、はだかのまま冒険に繰り出すオンラインゲームがあったそうだけれど、とても人生だなと思う。 最近のゲームは初期設定から服を着ているようだ。なんなら、多少の選択肢もあるらしい。そういえば、オンラインゲーム・ガチ勢を自称する兄は「最近は無課金ユーザーに甘過ぎ」と溜息をついていた。兄は元気だろうか。 昔から私にはゲームの才能が無くて、なにをやってもうまくいかなかったから、上手な人がゲームをするのを見ているのが好きだった。特に、歳の離れた兄が操作

          【課金する②】 メロンパンのメロン部分を永遠に手放しながらふたりで暮らす

          【課金する①】 ハロー 夜。ハロー 静かな霜柱。ハロー カップヌードルの海老たち。/穂村弘

          「あらゆる言葉が無料なのが間違っている」と、同居人は一時間泣いたあとで言った。 もう辞めてしまえばいいと僕は思うのだけれど、同居人は職場で散々なことを言われているらしかった。そしてどうしようもないことに、職場の皆さんは総じて悪意がなく、これまで彼らが従ってきた「常識」に照らして、いつもの言葉を「普通」に使っているだけだった。彼らの「常識」や「普通」は、同居人を傷つけた。この世界には、その場にいない誰かを笑いながら罵倒することで親密さを共有したり、弱者は消費されてこそ価値が付

          【課金する①】 ハロー 夜。ハロー 静かな霜柱。ハロー カップヌードルの海老たち。/穂村弘