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腸と体を守る腸内細菌

腸管メンテナンスの最後は腸内細菌をみていきます。私たちの体内に菌がいるのかと思われる方がいらっしゃるかと思います。ここでまずおさらいですが、腸管の内腔は我々の「体内」でしょうか、「対外」でしょうか。この絵をじっと見て答えて頂ければと思います。

「体外」ですね。口の中も体外ですしそこから管で繋がっている胃も小腸も大腸も体外です。体内は無菌の状態であり、もし体内に菌が進入してしまうと感染症を引き起こしてしまいます。四肢や胸や背中など私たちが通常「体外」と認識する部位は全て皮膚で覆われています。この皮膚のおかげで病原菌が体内に進入させずに済むわけです。一方で腸管内はどうでしょうか。こちらは皮膚では覆われておらず粘膜になり、菌が進入しやすい状況です。実際に口腔内は歯磨きしなければ、容易に菌が進入してきます。ここで腸管を菌から守ってくれる構造が必要になります。胃は胃酸が守りますし、小腸は食物の流れが早いことから菌が繁殖する前に洗い流されていきますが、大腸は便がゆっくり形成されていくためどうしても菌が繁殖します。その時に大腸を守ってくれるのが腸内細菌叢(腸内フローラ)です。予め毒性の低い菌が粘膜上で繁殖することにより病原性の高い菌が繁殖することを防ぎます。(乳酸や酢酸を作り腸管内を酸性に保ち悪玉菌が繁殖することを防ぎます)実際にこの腸内細菌が最も繁殖している場所が大腸です。約40兆個1000種類の細菌が生息しているとされます。(*1)

腸管は免疫の訓練場
腸内細菌は物理的に病原性細菌を繁殖させないことだけではなくて、ほどよい病原性で良い免疫の訓練場となっています。例えば腸内常在菌の一つで、以下のように頭を腸粘膜に突き刺すセグメント細菌(SFB:segment filamentous bacteria)によって免疫が訓練され(Th17細胞を分化、誘導する)、病原性大腸菌から身を守れるようになります。腸管内は免疫の訓練場でもあるわけです。

腸内細菌は栄養を与えてくれる
腸内細菌(善玉菌)はビタミン(B1・B2・B6・B12・K・ニコチン酸・葉酸)を産生し我々に供給してくれます。また食物繊維を分解して短鎖脂肪酸(酢酸、乳酸、酪酸など)を生成し、食欲抑制のホルモンを分泌や神経伝達物質のセロトニンの分泌を促したり、抗炎症効果を示したり、体に有益な環境を作ってくれます。

腸内細菌がボロボロだったら
腸内細菌のバランスを崩す要素は栄養の偏りやストレスなど多々ありますが、最も影響が大きいものは抗菌薬(=抗生剤=抗生物質)です。抗菌薬内服後に下痢を伴うことは珍しくありませんが、それは腸管内常在細菌叢の急激な減少に伴う下痢(浸透圧性,水分吸収障害)と考えられます。その後、有害な菌が繁殖してしまうのが医療界では有名な疾患であるCDI(Clostridium difficile infection:Clostridium difficile菌による感染症)です。その菌が繁殖しない状態であっても、腸管内バリアが壊れている状態なので感染症にやられやすくなってしまいます。

良い腸内細菌を正常に繁殖させるために
なんといっても食物繊維です。食物繊維が腸内細菌の餌になってくれます(その結果、短鎖脂肪酸も生成され、私たちの体にも有益です)。もしこの食物繊維が少ないと腸内細菌が餌として腸管を食べてしまう!(正確には粘膜のムチンを食べてしまう)い、腸管のバリア機能が破綻して毒素の流入などが容易におこってしまいます。食物繊維を積極的にとるようにしましょう。(ただし、食物繊維を取ることで逆効果になる疾患もあります。次回書きます。)

最後の裏技、糞便移植
善玉の腸内細菌が居ついてくれない場合は、最後の手段で他人の便を自分の腸内に移植する糞便移植があります。まだまだ研究途上で、1000種類もある腸内細菌でどの細菌にどの効果が見込まれるかははっきりわかっているものは少なく、また良い組み合わせもはっきりわかっていないためまだ保険適用にはなっていませんが、前述のCDIなどの病気については高い改善率を示しています。臨床試験が組まれていたりなど、今後の発展に期待できる分野です。(3)

参考)実験医学別冊 もっとよくわかる腸内細菌叢

*1)腸内フローラとは
https://cholabo.org/lab/flora/
*2)医学の歩み 腸内細菌とTh17細胞
https://www.ishiyaku.co.jp/magazines/ayumi/AyumiArticleDetail.aspx?BC=925305&AC=15020
*3)順天堂大学 潰瘍性大腸炎に対する便移植療法
https://www.juntendo.ac.jp/hospital/clinic/shokaki/about/treatment/intestinal_microbiota1.html

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