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男性育児休業制度、今後の行方

男性の育児休業制度に関して本格的な検討が始まっています。 

2020年11月12日に開かれた厚生労働省の諮問機関である労働政策審議会の分科会では、男性の育児休業の取得促進に向け、以下のような新たな仕組みなどについて議論が行われました。

【検討案】
・女性の負担が大きい出産の直後を休みやすいよう、子供が生まれてから8週間以内は短期休暇を組み合わせて4週間程度休める新たな仕組みの検討
・原則1回となっている育児休業を2回程度に分けて取得する「分割取得」を出産からの時期関係なく広く認めること
・企業に対して取得のための職場環境の整備や労働者への制度の周知を義務付ける
<NHKより>

男性の育児休業取得の現状と課題

政府が民間企業に先立って国家公務員の男性に「1ヶ月以上」の育休休暇・休業を促す制度を2020年度から始めることを決めるなど、日本でも男性育休の必要性が認識され始めています。

しかし昨年10月の時点で、育児休業を取得することができる人のうち、実際に取得した人の割合は女性が83%だったのに対し、男性は7.48%。軒並み30%台を超えている主要先進国と比較しても日本は大きく遅れている現状にあります。

日本ではいまだに、ほとんどの家事育児を妻が行い夫は子育てに介入しない、いわゆる「ワンオペ育児」が一般的です。
また男性が育児休業を取得するにあたって「パタハラ」(パタニティー・ハラスメント)といった問題も顕在化している現状にあります。

パタハラ(パタニティー・ハラスメント)
男性が育児休暇制度を利用するにあたって上司が育休取得を拒否したり、これらを理由とした不当な降格、嫌がらせのことを指す。以下「パタハラ」の具体的内容(厚生労働省調べ

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現在検討されている解決方法

この男性育休取得普及に向けて議論が進められているのが、男性の育休「義務化」です。
厚生労働省は労働政策審議会で、育児休業対象の男性社員に対し企業が制度を周知する、「周知義務」案を提示。全ての希望者が取得できる環境を整えるのが狙いで、育児・介護休業法の改正案を提出する2021年の通常国会で可決すれば、2022年にも実施する予定です。6割を超える企業が男性育休の取得を働きかけておらず、今後は違法になる見込みとなっています。
民間に先駆けて今年の4月から育休取得を促している男性国家公務員では、取得率が8割に達しているといった成果も出始めています。

男性育児休暇「義務化」に対する賛否 

このように、男性育休「義務化」に対する機運が高まる一方、賛否も大きく分かれています。

【賛成派】
日本経済新聞によると、主婦層の視点から男性の育児休業取得を「義務化すべきだ」と思う人は5割超と過半数になりました
賛成する理由として、「義務化をしない限り、世の中が変わらない」「取りたくても取れない人が多く、国が介入しないと難しい」「女性の産後鬱が軽減される」といった意見が上がっています。

ジャーナリストの治部れんげさんは現代ビジネスで、親に対して有給の育児休業を保障する長さに関して、日本は法律面では最も手厚い国のひとつであるのにもかかわらず制度の利活用ができていないと言う問題点を掲げた上で、男性育休義務化はこれらを利活用するにあたって必要だと述べています。

また、産後女性の身体的、精神的健康にも言及しています。
産後女性の死因の1位は自殺で、命にかかわる産後うつの予防・回復に男性育休は強力な選択肢であるが、育児介護休業法第五条において男性にも育休取得の権利があるにも関わらず事実上取得できない職場が大半で、これを是正するために「義務化」は必要だと主張しています。

同様に、男性育休義務化を推進する「男性育休義務化プロジェクトチーム」は以下7つの提言をしています。

【7つの提言内容】
①企業の周知行動の報告義務化
②取得率に応じたペナルティやインセンティブの整備
③有価証券報告書に「男性育休取得率」を記載
④育休1ヶ月前申請を柔軟に
⑤男性の産休を新設し、産休期間の給付金を実質100%へ
⑥半育休制度の柔軟な運用
⑦育児休業を有効に活用するための「父親学級」支援

【反対派】
日本商工会議所が発表した調査結果によると、中小企業において男性の育休義務化に関して約7割が反対しています。
業種別で見ると、運輸業81.5%、建設業74.6%、介護・看護74.5%の順で多く、人手不足を理由とした反対意見が多数でした

HUFFPOSTでは「自分たちの命を守る最低限の法律もない中で逼迫して仕事をさせられている。(育休社員が増えて自分にしわ寄せが来るのではと恐怖を感じ)回答が「反対」になってしまうのは自然なことで、彼らを責めるのではなく、『働き方改革』の恩恵を受けずに放置されている企業への対策が必要」といった中小企業からの意見を紹介しています。

実際、労働組合の中央組織である連合が、同居している子どもがいる25~49歳の男性有職者への調査結果によると、育児休業を取得しなかった理由として最も多かったのは「仕事の代替要員がいない」(47.3%)。次いで「収入が減る(所得保障が少ない)」(36.6%)、「男性が取得できる雰囲気が職場にない」(32.2%)、「仕事にブランクができる」(13.9%)と答えた人のほか「男性が取得するものではないと思う」と、保守的な男性も11.3%と一定数見受けられました(複数回答)。

「仕事の代替要員がいない」(47.3%)
「収入が減る(所得保障が少ない)」(36.6%)
「男性が取得できる雰囲気が職場にない」(32.2%)
「仕事にブランクができる」(13.9%)
「男性が取得するものではないと思う」(11.3%)

しかし反対派の意見に関しては、日本若者協議会室橋代表理事が述べているように、全員が強制的に育休を取らないといけないなど、「義務化」に関しての誤解が存在することもあり、さらなる議論が必要である点も否めません。

11月12日に行われた労働政策審議会においては、新制度を作ることに対しての反対が上がらなかった一方で、情報労連の斎藤久子中央執行委員は「男性に一時就労を認めるのは男女固定役割分担を強化することにならないか。今回の一定期間後に検証して見直すべきだ」といった慎重論も見られたとHUFFPOSTは報じています。

少子化脱却のために

菅首相の言う少子化政策には、待機児童問題の解消、不妊治療への保険適用だけではなく、男性育児休業も並んで盛り込まれています。
首相が官房長官時代に強く促し始めた、国家公務員の 1ヶ月以上の育休取得を今後どのようにして民間に広げていくのか。コロナ禍において来年度の出生数がさらに落ち込むと予想されており、出生数回復のためには、「義務化」を含めた男性育休取得普及や労働時間短縮といった働き方の見直しが重要だと日経が報じています。
「啓発」だけではなく、男性育休促進に向けた、具体的な環境づくりに重きをおいた議論が今後も期待されます。

【参考文献】
<日本経済新聞>
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66148580S0A111C2EE8000
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54789560U0A120C2000000
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO66051700Q0A111C2TCR000
<厚生労働省>
https://ikumen-project.mhlw.go.jp/library/resource/ikumen_questionnaire_2016.pdf
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_14186.html
<HUFFPOST>
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5f73d5f7c5b6d698bb250149
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5fac9ebec5b6cae940428d82
<朝日新聞>
https://www.asahi.com/articles/DA3S14310743.html
<NHK>
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201112/k10012708371000.html
<現代ビジネス>
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64964?imp=0
<SankeiBiz>
https://www.sankeibiz.jp/econome/news/201125/eci2011251507003-n1.htm



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