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炎の動物〜ザ・クリーチャー・オブ・フレイム〜 #Flame (1)|エボサイマガジン

" 四元素のうち三元素はすべての生き物が共有しているが、火は人間だけに贈られたものだ。" ───トム・ロビンス

" 他のすべての動物がうつろに地上を眺めている時、人間だけは顔をもたげて天を仰ぐようにと、その高い目を星に向けるようにとプロメテウスは人間に言いつけた。" ────オウィディウス


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▲ ダン‪·‬ブラウンのフィクション小説『天使と悪魔』にでてくる「火/Fire」のアンビグラム(天地逆さまにしても同じ模様になる)。「火」は、他の種にとってはそうでは無くとも、人類にとってはけっして欠かせないエレメントだ。


* * *



# 焚き火を囲む種

人類が火を使いはじめたのはおよそ180万年前のホモ・エレクトスの時代だったと推定されている。

すべての動物が恐怖し、怯え、逃げ惑う「火」を、唯一味方につけた種が人類だった。

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人類は火を手なづけることで、生物界において頂点捕食者以外の全ての種が頭を悩ませている「捕食者という脅威」から解放された。

防御手段として活用するだけでなく、火を攻撃手段、あるいは獲物を囲い込む補助手段として活用することで、狩猟を大幅に効率化した。

効率化されたのは狩猟だけではない。

クッキング(cook=火を使った料理に使う動詞。日本語の「料理する」にはこの意味は含まれないのでこのテーマを論じる上で非常に便利なので多用する)の開始によって、食糧の咀嚼と栄養分の消化‪·‬吸収を大幅に効率化したのだ。

ヒト以外の霊長類は、エサを半日かけてモグモグしている🍙( ˙༥˙ )。彼らはクッキングをしないので、全ての食材を生で食っている。そんな馬鹿なことをすると、咀嚼にめちゃくちゃ時間がかかるし、体内での消化・吸収にもめちゃくちゃ時間がかかってしまうのだ。

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メシを食うのに半日?! さらに消化吸収のためにグウタラ動けない時間が3時間?! ヤバすぎる。

生物にとって「時間」はきわめて貴重な資源なのに、何たる無駄遣いであることだろう。バカすぎる。(連中には脳みそがないのか? :そう、ない。これからするのは「火の使用」が人類の脳の巨大進化のためのリミッターを解除したという話だ)


しかしオレたち人類は違う。ごく一部のデブをのぞいて、四六時中食べ物をモグモグしているサルどもとはちがうのだ。オレたちは、

ウィダーinゼリーのように「エネルギーと栄養素を10秒チャージ」とまではいかなくても、15分チャージくらいなら余裕だ。

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小学生のガキどもがこぞって主張するように、給食はさっさと食って、できるだけ昼休みの時間を伸ばすに限る。

俺たちの先祖が同じことを「考えていた」かどうかは知らないが、個体自身が考えてなくとも、結果として進化は起こる。余暇をソーシャルゲームやその他適応度を左右するゲームに使えるやつの方が有利だ。

この世で一番しょうもない質問(by マッチングアプリにいる女)である「お休みの日は何をしてますか?」と聞く感覚で、狩猟採集民に聞いてみよう。暇な時間は何してますか、と。なにせ狩猟採集民の平均労働時間は3〜5時間/dayなのだから、現代ニッポン人より圧倒的に暇な時間がたっぷりあるに違いない。;なに?遊んでる?ダンスしてる?謎の儀式に参加してるって?

それらはすべて、生物学的にきわめて重要な活動だ(仕事以外の活動をバカにしている人間はそういう休日の課外活動で出世に役立つ絆やコネがひそかに作られている事実に気づいた方がいい)。

地位」は生物学的に重要だし、「友人」も生物学的に重要だし、「集団への所属の維持」も生物学的に重要だ。いずれもヒト個体の生存と生殖の成功度を大きく左右する。

なるほど、小学生が言うように、給食はさっさと食って、昼休みの時間を伸ばすに限るわけだ。


────改めて自分達を客観視してみよう。


人類は「焚き火を囲む種」なのだ。自然界を見渡しても、こんな奇妙なことをしている生物は他にはいない。

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いや、「オレはキャンプをしたことなんてないし、焚き火なんて囲んだことはないんだが…」なんてしょーもないツッコミはいらない。

「焚き火を囲む」という行動がホモ・サピエンス史40万年の歴史の中では圧倒的に普遍的であったことはもう判明している。オマエの人生たった数十年の話をしているわけじゃないんだ。なお人類はホモ・サピエンスになる前からそうしているので、実際には180万年である。

もちろんフィクションの世界────たとえば『ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド』に出てくるモブ敵のボコブリン────には、焚き火を囲む習性をもつ動物が人類以外に出てくる。

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しかし彼らに焚き火を囲む習性があるのは、創造者が人類だからだ。

つまり、ナチュラルに焚き火を囲む習性があるサピエンスがナチュラルに想像したモンスターだからであって、焚き火を囲む習性というのは自然界ではきわめてアンナチュラル(=変態的)なのである。

ボコブリンが焚き火を囲んでいるのは、スターウォーズの映画やドラマに出てくる宇宙人が、なぜかみんなそろいもそろって目がふたつで耳もふたつなのに口はひとつで二足歩行をし言葉をしゃべってコミュニケーションする習性を持つのと同じことだ(しかも惑星によって重力は異なるはずなのにだいたい人類と同じサイズ…。奇妙だ。まるで人類と交流させるためにデザインされたような造形じゃないか…)。

あれを見ればオレは一目で「Oh… これはサピエンスがサピエンスの脳を使って想像した宇宙人だな」ということが透けて見えてしまい萎えてしまうのだけれど、スターウォーズは大好きなので、すぐさまその考えを振り払って世界観に熱中するようにはしている。

種にとって進化的にナチュラルであることは、その種に所属する動物からはまったく「独特」にも「奇妙」にも感じられない。

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生物は本能的盲目に陥っており、種としての「当たり前」に直面しても、とくに違和感を覚えない。

これを初めて指摘したのは20世紀初頭の偉大な心理学者ウィリアム=ジェームズだ。彼は心理学を発展させるためにはナチュラル・シーム・ストレンジ(" natural seem strange ")の感覚をもつことが大切だと言い、「自然なことを不自然に感じてみなさい」と提言した。

それを再発掘し、「本能的盲目/ instinct blindnessの克服」こそが心理学の向かうべき先だという未来を提示したのが、進化心理学創始者であるコスミデス&トゥービーなのだ。

〉関連: 本能的盲目(Instinct Blindness) :サピエンスは進化によって"当たり前の盲目性"に囚われた存在だ 〜 ナチュラル=シーム=ストレンジの感覚を突破口にする


それではこの思考道具:「本能的盲目」を使って、「火の使用」という奇妙な行動を進化的に解剖してみよう。

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(もちろん、道具を使って何か目的を成し遂げるという発想も、他の種にも断片的に見られるとはいえ、俺たち人類にかなり独特なものと言える。みなさんは"ナチュラル・シーム・ストレンジ"センサーを働かせるべきだろう。そのお話は『#funct』シリーズ:「目的論の進化」の中で出来るよう現在準備中だが、これもまた奥が深い。)


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# ヒトは「炎の動物」として進化した

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ハーバード大学教授であり、進化人類学の第一人者であるリチャード・ランガムは、2009年に刊行した著書『Catching Fire: How Cooking Made Us Human』で、人類学界全体に衝撃を与えた。

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