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セルフ・イズ・ノット・オールウェイズ・セルフィッシュ。──血縁淘汰理論とは?ハミルトン則C<Rbが意味すること #famili ⑵|エボサイマガジン
" 家族関係はいわゆる『ギブ&テイク』ではなく『ギブ&ギブ』が基本です。" ──佐藤優
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# ハミルトン登場
進化生物学の中核をなす血縁淘汰(kin selection)理論は、リチャード·ドーキンスが四騎士と呼んだうちの一人、ウィリアム·ハミルトンの物語から始まる。
1963年、孤独な大学院生だったウィリアム·D·ハミルトンは「アメリカンナチュラリスト」誌の編集長に以下のような手紙を送っている。ハミルトンは生物の利他行動を引き起こす素因を「遺伝子G」と呼んだ。;
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"『最も適応したものが生き延びる』という法則がありますが、Gが広まるかどうかを決定する最終的な基準というのは、ある行動がその実行者に利益をもたらすかどうかではなく、その行動が遺伝子Gにとって利益となるかどうかなのです。たとえば平均的に見てその行動の最終結果が、遺伝子プールのGの濃度を濃くするかどうか、ということです。" *
*R. Wright (1994)
────これは後年からみれば歴史的な内容の手紙だった。
しかし無名の大学院生が送りつけてきた送付物など、一体誰がまじめに"検討に値する"と思うのか?
アメリカンナチュラリスト誌の編集長もしょせんはサピエンスの1個体であり、本能的にプレスティージ·バイアスに司られていたのだ。
その次の年、ハミルトンは「The Genetical Evolution of Social Behavior」と題した論文を発表する。*
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この論文もまたすぐには相手にされなかったものの、しかし数年のうちにこの分野の研究者らは「これはヤバい」と慌てふためくことになる。
ダーウィンが進化論を発表してからおよそ100年の時を経て、ダーウィン理論(エヴォリューション)の改革(レボリューション)が始まったのだ。
*Hamilton (1964)
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────さてさて、このへんで歴史を振り返っておくと、
ダーウィンは遺伝子の存在など知らなかった。
遺伝因子の存在を示したメンデルはダーウィンより後世の人物だし、DNAを発見した20世紀のワトソンとクリックについては言うまでもない。
ダーウィンが注目していたのは「子の数」だ。それは進化生物学では「フィットネス/fitness」、日本語では「適応度」と呼ばれる。
ダーウィン進化論では、生物個体の心と体のデザインは、自然選択による生物学的遺産であり、フィットネスの究極の現れだと考えられていた。
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だかしかしハミルトンの登場以降、
生物個体の心と体は「インクルーシブ・フィットネス/包括適応度」の現れ
なのだという考えが支配的となった。
包括適応度が表現された心のデザイン?
────そう。たとえば「家族を守りたいという感情」などがそれだ。それは兄弟姉妹や従兄弟などを通して、間接的に受けつがれてきた遺伝子の遺産なのだ。
ハミルトンが発見したのは、自分の身体に宿る遺伝子が、他者の身体に宿る遺伝子を次世代に受け継がせる場合があるということだ。
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ウィリアム·ハミルトンの登場によって、進化論は、ダーウィン流の「子の数」中心主義から「遺伝子の視点」中心主義へと舵が切られた。
R.ドーキンス著『利己的な遺伝子』の内容の復習にはなるのだが、まずはその話をしておこう。
生物界で起こることのすべては遺伝子間の競争に関係している。
他の遺伝子を押しのけて次世代に受け渡されることにより長けた遺伝子は、よりフィットネスが高い。他の遺伝子を押しのけることに少しでも巧みであれば、その遺伝子は世代交代を通して増殖し、凡庸な競争者を根絶やしにしていく。
遺伝子はじかに競い合うのではなく、代理を立てる。体や心(=表現型)を立ち上げて、それらに競わせる。遺伝子は個体という代理を立てて争う。
すなわちオレたちヒト個体も、遺伝子のエージェント(=代理人)なのだ。
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>参考:「利己的な遺伝子」と「生存機械」 : われわれは何者か?───生物とは遺伝子の容れ物となるための「バイオマシン」だ
───だが「代理戦争」とは言っても、遺伝子は身銭を切っている。
飛行機のパイロットと同じように、遺伝子は表現型に縛られており、墜落すればそれ自体も死ぬ。*
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*Hoffman (2019)
────ほんとうに?
イエスでもありノーでもある。
繰り返すが、ハミルトン以前の時代はダーウィンに倣って進化を推し進めるのは〈生物が子孫を多く残そうとする働き〉だと考えられていた。
しかしハミルトンは、進化を推し進めるのは〈遺伝子が自分のコピーを多く残そうとする働き〉だということに気がついた。
どちらも同じことだと思うかもしれないが、明確に違いがある。
オレたちの体の中には、自分の遺伝子のコピーがたくさん泳ぎ回っている。そしてそれと同じものが、オレたちの〈体の外〉にもたくさん存在しているのだ。
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〈体の外〉と言っても空中に漂っている訳じゃない。遺伝子は細胞という鎧を纏わなければ存在できない。〈体の外〉とは、他の個体の〈体の中に〉だ。
他の個体といっても誰でもいい訳ではなく────いや、誰でもいいのだが────遺伝的に関係のある血縁者の体の中にだ。誰でもいいのだが同じ遺伝子が入ってないとダメなので、それはたいてい血縁者ということになる。
オレたちの遺伝子は血縁者という名の他の個体の中にも存在している。そこで活き、効力を発揮している。
それは、裏返すと、オレたちの体の一部分は他人の遺伝子によって形成されているということでもある。オレたちの体のなかで、他人の遺伝子が、他人を利するための効力を発揮しているのだ。
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経済学(=人間の行動原理の解明を目指す学問)では、
人間とは、どのような状況においても一貫して〈自己の利益〉を最大化しようとし、また自分の損失を最小化しようと意思決定する行動主体
とされる。
だが、ハミルトンが更新した新しい生物学では、
〈自己の利益〉というときの〈自己〉が、本人の肉体のほかに、共通する遺伝子を大量に持つ誰かの皮膚の内側に存在している
*
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ことを理論的大前提としている。
したがって、生物学のフレームワークでは、人間の〈自己利益の最大化〉は、自分の子供の利益を追求するという形でも実現されるのだ。
*Cialdini (2016)
実際、親は稼いだマネーの多くを子供のために使う。「子供がいなければ、毎日朝早く起きて満員電車に乗って会社に行き仕事を淡々とこなして帰ってくるという退屈なルーティーンを死ぬまで続ける意味が見出せない」という人は多いだろう。
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個人主義的な経済学モデルではうまく説明できない現象が、生物学モデルでは何の不思議もなく説明可能
なのだ。
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進化心理マガジン「HUMATRIX」
進化心理学(EP)「遺伝子とは、無意識のうちに私たちを動かすものなのだと頭に入れておいてほしい」by ロバート=ライト.心の働きは母なる進…
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