(詩) 「上り坂」





眠ったままの朝の鼓動と
凍ったままの夏の陰影と

それは何時もと同じだったか
何をするでもなしに過ごした
疲れた週末の 貴重な夕暮れ
帰路の僅かな一画に架かる
不可視の標識が
焼けた風に揺れている

坑道はそんな時の盲点から
奥処に向かって伸びる上り坂で
立ち止まるものには
遠いところをみているよう
そっとうながす

盛夏
光と風が互いの沈黙を折り重ねて
そして言葉は
海に散った気高い詩人達の
手で彫られた
青銅の碑銘の文言からも
同じ基調で夜とか平和が
群れ飛ぶ鳥のように
懐かしい人々の影をも取り込んで
もう書物の一頁でしかなくなった
遠い潮騒を喚び醒ましてゆく

満ちたりたものと過ぎ去るものとが
混じりあう小さな隙間で
樹木ははや燃え尽きて
季節はやがて巡り
再び水が岸辺に還ってくるだろうけれども
一年が あたり前の勝利を
手に取る保証はもはや
何処にもない

夏は燃える気息を辺りに吹きかけ
町を、人を、今日も押し黙らせる

風は しかし
思いもかけず
繁華街の猥雑な商店通りの
裏路地などで
変わらずたゆたい
河となって流れている