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(詩) 「記憶の扉」


夜半
降りしきる雨に耳をすます
気づいたとき雨は力をましていた
街の喧騒は影に変わって消えた
やがて音響は怒号になった

全てを包み込んで
時間をそこに止めていた
何処かで小さな
おびただ しい衝突が起きている
その内側には
なにか開けた場所がある

私はなおも目を凝らした
辿ると 向こうにやがて
ひとつの景色が広がった

若い両親が旅行した一日
旅先で滝のような雨に見舞われ
ずぶ濡れになって
目にとまった旅館へ駆け込み
そこで宿を取った

繁華街の黒い一帯を雨は光らせ打ち続けた
それは戦争のような 浄化のような印象で
私の内部に深く残った

町は何処であったのか わからない
なぜ甦ったか これほど古い映像が

雨は記憶の奥処を照らしだす
雨はわたしの今を消してゆく

故郷の町の競馬場 公園 海港
烟るなかに沈みこむ鉄筋の量感
重い静寂の背後には 微かに
遥か東洋の市街が映っている