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Yusef Lateefの真髄はどこにあるのか

筆者の手元にいま、ユセフ・ラティーフの五十年代の作が二つある。「Before Dawn」(Verve)と「The Sounds Of Yusef」(Prestige)だが、この二枚の内容の凄さに唸らされた。両方とも57年に集中して吹き込みされた中から生まれたアルバムだ。

ラティーフは、オーソドックスなハード・バップ(或いは、ビバップ)をやったときに、この人がどれほどの実力を持っていたか、が分かる。

バンドのレギュラーピアニストの、ヒュー・ロウソン(Hugh Lawson)は、叩きつけるような強靭な打鍵タッチ で弾いていくが、バラードの憂愁の表現もうまい。当時シーンの第一線に出たピアニスト達以上に、あるいみで正統なビバップ(バド・パウエル)の流れを汲んだ人だった。

手元にある「Before Dawn」のCDは98年に復刻された輸入盤(314 557 097-2)だが、当時の若いロウソンのフォトが一枚載っている。撮影がEsmond Edwardsとあるので、このヴァーヴのセッション時ではなく、おそらく58,9年頃、プレステジでのセッション時に撮られたものと思われる。ピアノの上に帽子を置いて、唇を手で触りながら俯いている。これからどう曲をこなすか、思案しているようなかんじで写っている。痩身の、鋭い横顔だ。ロウソンは、当時ラティーフのバンドに殆ど専念していた感がある。大変な実力者だったのだが知名度が低いままだ。

また、ブックレットには他にも、カーティス・フラーが、目を閉じマイクにトロンボーンの口を近づけてまさに吹込みしているところの写真も載っている。(これもEdwardsによる。)当時の一連のブルーノート作に出てくる写真(Francis Wolff撮影)の彼より、緊張した面持ちだ。たぶん、ラティーフのバンドで吹く彼が、当時のフラーのベストだろう。ラティーフの作品を知らなかったら、そう思えないかもしれないが、「Before Dawn」など吹奏が緊張している。特異なセッティングではあるのだが、ソロが非常に素晴らしいのだ。ラティーフのそばに立つとこうなるのか。

ラティーフはバンドから、メンバーそれぞれのベスト・プレイを引き出す手腕を持っていた気がする。「Before Dawn」は聴き応えがある。

この人がなにか残念なのは、やはりこの名前がモダン・ジャズとしては異質だし(今であれば全くそんな風にならないのだけれど)、使用楽器の数々がまたunusualで完全に傍系扱いされてしまう。(私も、ジャズに関心をもちラティーフの存在を初めて知った当初、この人の名前に違和感を持ってしまい、手に取りにくかった。そのためにラティーフを聴くのが遅くなった。)

だが、ラティーフの、当時(57,8年頃)のコンボは、ハード・バップとして「最高の部類」だ。彼のテナー・プレイはもう抜群というしかない。また、フルートの音色感も際立っている。

最後にもうひとつ、指摘してみたいのだが、「Before Dawn」からの“Passion”や、「The Sounds Of Yusef」の“Buckingham”など、あるいみで典型のビバップ・チューンなのだが(当時としても保守的なほどの演奏)、その中に少しだけこの人の特色の“異国フレイヴァー”が混じっている。特異な要素はそれくらいに留めて、寧ろオーセンティックなバップ(ビバップ)をやった時こそが素晴らしい。この二曲は何度でも聴きたくなる。

プレステジのプロデューサーだったボブ・ワインストックも、アイラ・ギトラーも、更には現在最高峰のジャズ批評家ボブ・ブルーメンタールも、皆、当時のラティーフを高く評価している。

アメリカの批評家筋は分かっていたのだ。