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ジョン・コルトレーン「ヴィレッジ・ゲイトの夜」の“My Favorite Things”
先週7月14日(金)、ジョン・コルトレーンのライブアルバム「ヴィレッジ・ゲイトの夜」(UCCI-1058)が発売された。私は事前予約していたので次日にCDが到着し、そこからしばらくは、持っているコルトレーンのアルバムばかり聴き返しながら夜を過ごしていた。
この、ヴィレッジ・ゲイトの夜は1961年8月にコルトレーンと彼のグループが同クラブに出演した折の演奏を纏めたものだ。CD1枚で全5曲だが、そもそも「存在しない」と云われていた音源(の筈)で、アルバム発売の広告が突然出た時はちょっと眼を疑い、その後感慨深いような気持ちになって14日を待った。
冒頭に置かれたのが“My Favorite Things”だが、演奏の出だしが切れてしまっていて、前半から中盤にさしかかる辺りからテープが始まる。マッコイ・タイナーのピアノに導かれてテーマ吹奏をコルトレーンが吹くのが定石だ。だが、ヴィレッジ・ゲイトの音源は開始間もなくエリック・ドルフィのフルートが遠景から聴こえてくる。テープの保存状態もあってか、このフルートが何処かこの世界と離れた、違う場所で響いているような印象を受けた。その音の美しさに聴き入りながら様々なことを考えていた。(こちらで視聴できます。YouTubeより)…
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コルトレーンのグループにドルフィが在籍した期間は短かった。私は詳しくないが、おそらく61年半ば頃から、伝説化した「ヴィレッジ・ヴァンガード」出演を含む11月頃まで。或いは翌年初頭辺りまでだと思う。そしてこの間にドルフィは単独でヨーロッパへ楽旅しており、現地のジャズマンと共演した非公式の録音がいろいろと残された。(現在はその殆んど全てがLP、CD化されている。)
コルトレーンの音楽の中に、それを異化するようにドルフィの存在が含まれるのは、コルトレーンのキャリア中でも特殊な時代だった。私は、この僅かな時期のコルトレーンのグループに偏愛に近い思い入れを抱いてきた。ドルフィがそこで残した演奏の数々がとにかく凄かったのだ。…
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話を“My Favorite Things”に戻したいが、ドルフィがこのミュージカル曲をフルートで奏していくとき、原旋律に近づきかけては、それを避け、退け、時に断ち切るようにして飛翔を繰り返していく鳥の姿がイメージされる。鋭敏さと美質、また危険な速度みたいなものが同居しているという印象があり、フルート自体の繊細な音色がそれを際立たせている。
一方のコルトレーンはどっしりと地に足をつけ、根を張り巡らして周到に磐石に聳えてゆく巨木の印象だ。この時ドルフィはその周囲を舞い、飛翔する鋭利な鳥のように見えてくる。これはあくまで、筆者のごく主観的、個人的な聴き方だが。…
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61年頃にコルトレーン達が演奏した“My Favorite …”は、後年よりもテンポが遅い。傾聴していると、時の流れそのものについて思い巡らす事になった。そして本当に美しい。曲が開始した瞬間から、その内側には別の時間が存在しているような感覚だ。特別な力を持った演奏だったのを今回改めて感じ入った。
そもそものミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」で聞かれた同曲とは全く異なる世界がここにある。