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「一本の線」に全てが現れる:3人の芸術家の作品より

私は芸術家の代表作を見ることも好きなのですが、誰かに当てた絵葉書といった日常の生活が垣間見れるものや、スケッチや素描を見ることも好きです。

命と対峙して湧き上がる衝動を表現しました、といった大作は見る方にも準備と体力が相応に必要になりますが、日常のものはリラックスしてみることができるし、その作家の普段の生活が感じられるからです。


これらを感じさせてくれる展示で、印象深かったのは「没後50年 藤田嗣治 本のしごと 文字を装う絵の世界」。タイトルにあるように、文字を装う絵の世界にフォーカスした展示なので、本の装丁や挿絵、誰かに当てた絵葉書など小さな作品が多かったです。手元で見るので、道具もペンや細い筆で描かれているものが多くて、色数も少なくシンプルな印象でした。

中でも私のお気に入りは『千の黄金の花弁をもつ花 la fleur aux mille pétales d’or』というタイトルの本の挿絵5点です。日本人女性5人がひとりずつ描かれていて、目線を下に向ける人、遠くを見る人、どこかを真っ直ぐ見つめる人などのポートレートです。

精緻な線描は女性たちの柔らかな曲線を見事に捉えていて、背景の無地を活かした抑えめの配色、憂いがあってでもどこか芯の強さが感じられる女性たち。日本髪と着物が彼女たちの美しさをより引き立てているように見えます。そして、日本画のような洋画のようなタッチがまた神秘的で、何とも言えない不思議な世界に引き込まれてしまいました。

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PARIS maison mèreより


シンプルであればあるほど見入ってしまい、目が離せなくなってしまうのがその線。極端に言うと、「一本の線」が生み出す世界の、絶妙な美しさに惚れ惚れしてしまうのです。「一本の線」が、その対象を現し、作家の思いを表現し、そしてシンプルだからこその余地がまたこちらの想像力を掻き立てる…。何ですかね、このドキドキは。超絶なテクニックとセンスを持った藤田さんはやっぱり天才なんだと思いました。


ちなみに、藤田さんは車に乗って走り去る人をスケッチすることができるくらいの、動体視力の持ち主だったとか。瞬間をビジュアルで捉える能力が飛び抜けていたんだそうです。


そして、「一本の線」つながりであと2人紹介したいです。
1人めは、私の大好きな人、イサム・ノグチの動物のスケッチシリーズです。中でもこのクマさんは秀逸。

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Polar Bear (1928) – by Isamu Noguchi
モエレ沼公園のオンラインショップで購入できます)


そして2人めは、篠田桃紅さん。大正2年生まれ、107歳で現役(!)の美術家で『人生は一本の線』という本の中の「一本の線」というエッセイ。

一本の線

私の引いた一本の線は言い訳ができない。
逃げ隠れも一切できない。
どこにも、誰にも、
責任をなすりつけることができない。
一本の線は、私と一体になっている。
私そのもの。
あなたの人生も、一本の線。
篠田桃紅『人生は一本の線』


いかがでしょうか?

たった「一本の線」ですが、大事な大事な「一本の線」。そこには作家の全てが現れているような気がします。ごまかしがきかない厳しさに、美しいリアルな生を感じることができるので、私は「一本の線」に魅せられるのです。


藤田さん、イサムさん、篠田さんの「一本の線」を通して、私も自分の「一本の線」を堂々と生きていけるよう意識していきたいな、と思いました。シンプルはベストだけど深い!Less is more!



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