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事業計画書は必要か?

(1)はじめに
融資・出資・補助金など、あらゆる資金調達シーンで求められる事業計画書(*)ですが、「予想通りに行くことなんてないのに、こんなの必要なのか?」と感じる事業者の方は少なくないはずです。
一言で言うと、必要です。
二言で言うと、数字ではなく根拠が必要です。
もう少し長くまとめる許可を頂けるのなら、積算根拠と資金調達の目的が数字に落とし込まれた事業計画書を「作れるスキル」が必要です。
実は、ここ2ヶ月ほどで資金調達のサポート依頼が増えてきました。事業計画書の作成が事業内容や経営者の考えをまとめるうえで最もシンプルで理解しやすい手段の一つだと改めて感じていますので、2024年最初の投稿はこのテーマで私なりの考えをまとめることにしました。

(*)事業計画書の定義は人によってまちまちですが、本投稿では「事業内容と損益の両方が数字に落とし込まれ、第三者に説明できる資料」とします。「損益計画書」とも言えます(PL・損益計算書ではないです)。

(2)事業計画書を作成するメリット
・提出を求められないと作らない。
・無事に資金調達をした後、見返すことはおろか存在を思い出すことすらない。
それが事業計画書でしょう。無理もないです。ただ、事業計画書が経営に効果的に働いているケースもあります。
経営者が独自に計画を作り浸透させるトップダウン型か、従業員と一緒に作って毎月の経営目標にも反映させるチームワーク型かを問わず、日々の業務に達成感や効率性を自発的に発生させる手段として事業計画書を利用している経営者がいます。
資金調達の予定がなくても、社内の意識を統一するために事業計画書を作成するその経営手法は非常に魅力的で、この経営者のもとだからこそ増収増益を続けているんだと納得もしました(*)。
次のメリットは、1度計画書を作ったことがある方には共感して頂けると思います。
事業計画書を作る過程では、頭の中がめちゃくちゃ整理されるという点です。
売上の構成要素(客単価、客数)、必要資金の算出(給料、家賃、水道光熱費、ガソリン代、クラウド利用料、車両購入、パソコン購入、社会保険料、、、)などなど、事業計画書の作成では何から始めたらいいのか分からないのに何から始めても考えることは多岐に渡るため、各項目をエクセルやスプレッドシートにテキトーにまとめていくだけで自分の考えを整理できる訳です。この過程は絶対に無駄になりません。少なくとも、Netflix 視聴や同業者との飲みよりは確実に有用です(筋トレと読書より有用かは保証できません)。
他にもメリットを上げたいのですが、計画書を吟味する人によってその性質や役割が変わってくることを理解することも大切なので今日は先に進みます。

(*)余談ですが、私が金融マン時代に出会ったこれらの経営者のうち、なぜか1人を除いた全ての方が県外からの移住経営者でした。

(3)金融マンから見た事業計画書
事業者の方が頑張って作ってきた計画書ですが、提出をお願いした側からしたら何の思い入れもないただの紙です・データです。それはどうかご理解頂きたいところです。そこにある数字を事業者の方が説明できるかが重要なんです。
いま私は、
・そこにある数字が重要
・そこにある数字を作成者が説明できることが重要
とは言っていません。
事業計画書の数字は、事業者自身で第三者に説明できることが重要なのであり、計画書の作成をコンサルタントに依頼し、出来上がったその「紙きれ」を理解することなく金融機関や投資家、補助金の管轄機関に提出するのは墓穴を掘る可能性が高まります。
彼らがあなたに事業計画書の提出を依頼したのは、そこにある数字を見たいからではなく、そこにある数字を土台にあなたとディスカッションをしたいからです。彼らとディスカッションできるように、積算根拠や資金が必要な理由(不足する額)、将来の事業見通しなど、基本的な要素は経営者(*)が理解していることが不可欠です。
金融マン目線で事業計画書を見る場合、売上(一番上にあることが多いのでトップラインとも呼ばれる)やそこから費用を差し引いた利益を見ます。
更に、利益は以下の5つの種類があり、見る人によってその重点項目は変わります。
・売上総利益(別名:粗利。どれだけ付加価値を創出したかを示す)
・営業利益(本業で稼いだ利益)
・経常利益(本業以外の経常的な収支まで加味した利益)
・税引前利益(補助金収入や固定資産の売却損益、損賠賠償といった非経常的な収支まで加味した利益)
・純利益(税金を引いた後の最終利益)
上記5つには含めていませんが、営業利益に減価償却費を加算した、「利払い・税引・償却前利益」(別名:EBITDA、イービットダー、イービットディーエー)と言う利益もあります。
国内の非上場法人ではほとんど注目されませんが、会計基準の異なる上場企業をグローバル比較する際には便利な指標です。
同じ事業計画書でも、事業構造や組織方針によって金融マンが重視するポイントは変わります。沖縄県内の金融機関では、償却前経常利益(経常利益+減価償却費)や営業キャッシュフロー、営業利益を重視しているという肌感です(私の経験と他の金融機関へのヒアリングベース)。
あくまでも事業者が自らで作成してきた事業計画書を基に、組織内部の決裁に必要な資料をあれこれ作っていくのが通常の融資審査でしょう。
しかし、正直なところ金融マン目線で計画書を見ることは実際に経営をする上でほとんど役に立たないと言うのが私の意見です。

(*)売上が2ケタ億円ある会社なら、経営者ではなく財務担当役員(CFO)や経理部長が担う役割かもしれませんが、ここでは経営者にまとめます。

(4)事業者から見た事業計画書
事業者が計画書を作成する時は、キャッシュフロー(*)を最も重視するべきです。キャッシュフローとは「現預金の流れ」、つまり現預金の増減です。
まだ売上が1億円にも満たない事業規模の場合は、「〜〜利益」とかはクソほどどうでもよくて、1にキャッシュフロー、2にキャッシュフロー、3にキャッシュフローというのが現実です。
(3)の金融マン視点とは大きく違うところであるものの、組織方針で計画書の見るべきポイントが決まっているため従わざるを得ない現実があり、何も彼ら・彼女らが無能だということでは決してありません。
さて、「売上 ー 費用 = 利益」ではこの重要なキャッシュフローをうまく捕捉できません。なぜなら、来月末に振り込まれる売掛金やお金を払ってないのに費用計上する各種償却費用、月末〆翌27日支払いのクレジットカードなど、「売上と現預金の増加」や「費用と現預金の減少」には少なからず差異が発生するためです。
以前、「貸したかった時の話をしようか」というタイトルで note を投稿したことがありますが、まさにこのキャッシュフローに関連する話をしています。
 https://note.com/yourtory/n/n1975120951b5

私にとっては、頭では理解していても実際に法人経営をするまで本当の意味で理解していなかった項目の1つがキャッシュフローでした。
起業から5ヶ月後に沖縄銀行から融資を受けるまで弊社の資金は少なかったため、
・役員報酬を支払わず未払金に計上しておく
・僕個人が会社の支払を一旦立て替えておく
とかを頻繁に行い資金の枯渇を先延ばしにしていました。
役員報酬も各種支払いもPL(損益計算書)の費用には計上されていくので赤字は広がりますが、法人の現預金は減っていないという、当たり前ですがどことなく不思議な感覚を覚えました。
会社は黒字でも倒産することがあり、赤字続きでも倒産するとは限らない所以です。
回収を先延ばしにした売上からもたらされた利益分が大きいということは、キャッシュが無くなったら倒産という制約があるゲーム(=経営)においては、非常にリスクが大きいということですね。
そのため、キャッシュフローを意識した事業計画書では「売上 ー 費用 = 利益」の式に、
・各種償却費のプラス(キャッシュは出ていかない会計上の費用)
・資金調達による現預金のプラス
・消費税支払いのマイナス
・借入返済のマイナス
などまで加味して、キャッシュが底を付かないか(もしくは、いつキャッシュが底をつくか)を確認できることがベストです。
私も、法人と個人で「いつキャッシュが無くなるか」をシミュレーションし、それまでにいくら・どこから調達するかまで綿密に計画を立てて脱サラ・起業に踏み出しました。
そしたらなんと、計画の数字から僅か2ヶ月で想定外の売上確保(プラス)と出費(マイナス)があり、早くも予定とは大きくずれしまいました。
しかしながら、キャッシュが尽きる時期(起業後4ヶ月)を概ね予想できていたので、一喜一憂することなく淡々と事業運営に邁進できたことは大変いい経験になりました。
このように、キャッシュフロー・ベースで「当初の予想からどれだけプラスか、マイナスか」を把握する上でも事業計画書(*)は有用です。自分で作った計画書や事業を、まるで第三者の目線で眺めて「あぁ、これはマズイなぁ」なんて呟けるとずいぶん気持ちが楽になります(なりました・・・)。

(*)キャッシュフロー = フリーキャッシュフロー +  財務キャッシュフロー、フリーキャッシュフロー = 営業キャッシュフロー + 投資キャッシュフローに分類することができますが、本投稿では詳細な説明は省略します。 

(*)キャッシュフロー・ベースの事業計画書は資金繰り表では?というご指摘、ごもっともです。しかし、営業債権の増減まで厳密に加味していないことから、私の様式では「簡易キャッシュフロー」として通常の事業計画書に含めています。

(5)事業計画書が必要ないケース
ここまで「事業計画書は必要です」の一辺倒でしたが、必要ないケースにも言及します。以下の様な事業者なら、時間と労力をかけてまでこの「紙きれ」を作る必要はないと思います。
・資金調達(融資、出資、補助金)が必要ない。
・掛取引はなく、売上も仕入れもほとんど全て現金取引。
・費用は給与や家賃の固定費のみで、売上やその他取引に連動する変動費は皆無。
1つずつ見ていきましょう。
まず、資金調達の際は「借入返済できるか(=融資)」、「株の売却益は見込めるか(=出資)」、「社会的意義と実現可能性は高いか(=補助金)」など、管轄する他の組織に説明し納得させる必要があります。説明には事業計画書の提出が求められるものの、そもそもこれら調達が必要ないなら事業計画書を無理に作るインセンティブが発生しないのは当然です。
次に、小規模な飲食店に多い現金商売のケースです。キャッシュレス分の入金やクレカの後払いといった1ヶ月未満の掛取引だったり、そもそも現金でしか会計しない場合は特に計画も必要なく、事業者自身の肌感で大体キャッシュフローの現状や見込みは把握できるでしょう。
最後に、費用がほとんど固定費分しかないケースの場合は、その固定費分を下回ればマイナス、上回ればプラスなのでこれもおおよそ予想はつくはずです。事業計画書を頑張って作るほどの事業規模・構造ではないと言えます。
あくまでも私なりの例ですが、
・説明責任がない
・利益とキャッシュのラグが小さい
・変動費がない
のケースがいずれも当てはまるなら必ずしも事業計画書がマストとは言えないのではないかと考えています。

(6)おわりに(広告宣伝)
つらつらと事業計画書について述べてきましたが、弊社、ユアトリー株式会社では事業計画の作成に向けた壁打ちはもちろん、計画書作成そのものもサポートしています。
元金融マン起業家の私が伴走支援したことで、依頼があった法人様の事業運営に少なからず貢献してきた自負があります。
そんな中、事業計画書の作成過程で気づいたことがあります。実は、相談初期の壁打ちでは金融マンの時も今も、そして事業内容やそのフェーズにおいても、会話の内容があまり変わらないことです。
更に、熱い想いのある事業者と金融マンとの間には非常に大きな金融リテラシー・ギャップがあり、そのギャップがコミュニケーションロスに繋がり、至る所で金融サービスの非効率を誘発しているという事実をひしひしと痛感する機会が多くなってきました。この目に見えない機会損失は非常に大きいと感じています。
そのため、事業計画書の作成を事業者自らが行いながら、事業理解の促進と金融リテラシーの向上を同時に達成できる斬新なサービスをコツコツ開発しています。リリース後、New York Times、Forbes、Economist、日本経済新聞の一面を飾る予定ですので、その際はどうぞよろしくお願いします。 
今年も頑張っていきましょう!

2024年1月31日
ユアトリー株式会社
上原 宇行

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