“営業力をつけたい”とは絶対に言ってはならない

年収はベース800万円、に加えてインセンティブでどうですか?

多分、〇〇(僕の名前)さんなら、年収2,000万は絶対行くと思いますよ。その倍だってあり得ると思います

これは僕が少し前にとある企業から頂いたオファーだ。

ちょっと胡散臭いと思ったので、色々調べたがどうやら嘘ではなさそうだ。実際に年収3,000万円以上の人はゴロゴロいるらしい。

しかし、僕は考える間も無く断った

「非常にありがたいお話ですが、お断りさせて頂きます。ご評価頂いてありがとうございます」

断った理由は、「稼げてもワークライフバランスが崩れそう」とか「自分の営業力ではやっていける自信はない」というものではない。

実際、稼いでいる営業マンの労働時間は長くないし、成績が悪いとめちゃくちゃ詰められるという訳でもなさそうだ。何より、自分の営業力を考えたときに、彼らより稼ぐ自信はあった

それでも僕が断った理由は「自分がなりたい姿に必要な営業のキャリアではない」からだ。

当時、このオファーを断っていなければ、今の仕事をやることはなかっただろうと強く感じている。

僕は今、社会人になった時から「いつかは絶対にやりたい!」と考えていたベンチャーキャピタルの仕事をやらせて頂いている。(※正確にはコーポレートベンチャーキャピタル)

これからの未来を作る世界中のベンチャー企業と一緒に仕事をさせて頂く魅力的な業務だ。

周囲の人も非常に優秀で、同じ部署の仲間は、事業開発や経営企画の経験もしくはMBAホルダー、有名コンサル出身の方で溢れかえっている。

一方、僕は社会人になってから8年間、営業職しか経験してこなかった。後にも先にも、”僕のような営業のキャリアしかない人”は周囲にはいない。

偉そうなことは言えないけれど、そんな僕でもこのお仕事をさせてもらえているのは、「営業力をつけたい」「営業で稼ぎたい」というざっくりとした目標を立てた訳ではなかったからだ。

「自分がやりたい仕事」「送りたい人生」に必要な営業とは何か?を”細分化”して考えて、キャリアの戦略を立てて行動してきたからに他ならないと思っている。

今回は”僕にとって必要な営業”とは何だったのか?を記載させて頂くことで、営業職で奮闘されている皆さんが「自分にとって必要な営業のキャリアは?」を考えるきっかけとなれば、これ以上ない幸せである


銀行の営業で身につくものと足りないもの

新卒で銀行に入り、紆余曲折ありながらも4年間経つ頃には少しずつ仕事も楽しくなり、これから自分がしたい仕事はなんだろう?と考え始めていた。

銀行の仕事を通じて様々な経営者の方のお話を聞いて刺激を受け、「自分でも事業を作ってみたい!」「経営に関わる仕事がいい」というような気持ちが次第に強くなっていった。

そこで、ふと自分がやっている銀行の仕事をよくよく考えると、「決算書を見て、いい会社かそうでない会社か?を見極めること」がこの仕事の本質なんだろうなと考えるようになった。

「会社を判断するのではなく、ダメだったら良くしたいし、良かったらもっと良くするためにはどうしたらいいのか?」を考えるような仕事をしたいと思ったのだ。

つまり、もっと直接的に経営に関わったり、新しい事業を作るような仕事だ。

具体的な仕事としては、コンサルやVC、事業会社の経営企画などの仕事が挙げられた。

しかし、銀行で営業しかしてこなかった自分が、転職もして職種も変えるのは得策ではないという結論に至った。

当時の自分がこれらの会社に転職すると、キャリアをリセットする形になる。名ばかりのコンサルはなれるかもしれないが、自分がなりたいと思うコンサルとは程遠い業務をやることは容易に想定できた。

つまり、自分の強みを生かしながら徐々に職種の軸足を変えて行くほうが、結果的に自分のやりたいことに到達できるスピードが早いと思ったのだ

そこで自分の強みは何か?を考えると、営業しかしてこなかったので、嫌でも”営業”というものに向き合わざるを得ない。

では、自分がやってきた、強みとなり得る”営業”とは何なのだろう

僕が銀行で培ったと思えた営業力とは「経営者を相手に関係性を構築する力」だと認識した。

言い方は悪いが、銀行の営業とは、クライアントにロジカルでクリティカルな提案をするよりも、仲良くなることで数字を上げるケースが圧倒的に多い。

「仲良くなる」「関係性を構築する」手段として、「ロジカルな提案」はあるのかもしれないが、それより、人的魅力やコミュニケーション能力、懐に入りこむ力であることの方が重要なのだ

なぜなら、銀行の営業とは、財務体質良好で資金需要がない会社に営業することが一般的だからだ。砂漠で砂を売るのにロジックはさほど重要ではない。

こういう言い方をするとネガティブに聞こえるかもしれないが、このスキルは非常に重要だ。どんな商品でも売れる可能性があるとんでもないスキルだと思っている。

実際に銀行を退職した後に2つの職場を経験したが、銀行で学んだ立ち振る舞い方や営業経験が間違いなく役立っている。

一方で、僕が将来やりたいと思っていた仕事を行うには、このスキルだけでは不十分なことも事実。

仲良くなるだけではなく、クライアントの経営を改善できる、新事業の創出ができるようなスキルが必要だった。

そこで僕は自分の強みを生かしながらも、不足なスキルを身に付けるために、「営業職でクライアントの業績にコミット出来るような営業」を行う、というキャリア戦略を立てた。

同じ営業でも身につくスキルと求められるものは違う


銀行を退職し、7ヶ月間のニートを経て、リクルートの営業に転職した

なぜ、リクルートの営業で「経営改善のスキルがつくのか?」の詳細はブログに書いてあるので省略するが、簡単に話すと、クライアントの業績が自分の営業数字に連動するからだ。

リクルートの広告モデルの事業会社の営業では、クライアントの広告費が自分の売上となる。

少しでも財務をかじったことがある方はお分かりになると思うが、”広告費”は最も業績に連動するコストだ。

さらに、リクルートのサービスは各分野で圧倒的なブランドを誇っている。

自社の商品が競合他社と比較して優位性が高く、市場でも既に高いシェアを取っている場合、「〇〇社の商品より、ウチの商品の方が良いですよ」みたいな営業をする機会が少ない。

①クライアントからの売上は広告費
②広告では高いシェアとブラント力

の2つの条件が揃うと、クライアントの広告費全体をいかに増やせるか?が営業マンのミッションになる。

つまり、いかにクライアントを儲けさせるか?だ。

営業行為をしながらも、クライアントの経営全体を見て改善すべき部分があれば、広告の話に全く関係なくてもやるのだ。

実際にぼくがリクルートで行った営業とは、マーケット全体の市場分析に基づき、クライアント提供している商品の改善提案や、リクルートメディアからの送客後の顧客対応プロセスの見直し、人事評価制度の改善などだった。

さらに、過去数年間の決算書を読み、売上単価減少の要因を特定し、販売モデルの見直しをする提案を行った。

その結果、リクルート内での新規プロジェクトにもなった。

提案発起人の自分はプロジェクトリーダーとして、売上ほぼゼロの状態から2年間で年間15億まで担当することになった。

銀行で培った「懐に入り込む営業力」「トップレイヤーと関係性を構築できる営業力」に加えて、リクルートで「クライアントの業績に貢献できる営業力」「課題を特定し新たな解決策を実行する営業力」を学ぶことができたのだ。

その結果が、ずっとやりたかった今のベンチャーキャピタルという仕事への道に繋がったと思っている。

”営業力”で終わらせてはいけない


「リクルートでも経営者の人に提案できるのだから、最初からリクルートでも良かったのではないか?」という考え方もあると思うが、それは違うと思っている。

リクルートの営業は自社の商品で提供できる価値が明確だ。

クライアントがそのサービスを使わざるを得ないのであれば、経営者と良い関係を築けても「関係性構築が強みの営業力」とは言いづらい。

経営者からしたら営業マンと仲良くすることで、値段を下げてもらったり、何かしらのメリットを享受できる可能性があるからだ。

その点、銀行の営業は成績を上げるのは大変だが営業としてのやりがいはある。

財務体質良好な会社の経営者が、銀行のいち営業マンと仲良くする理由はほとんどない。

言い方は悪いが、銀行ほど、お客さんにニーズがない状況下で、競合と全く同じ商品を売らないといけない営業も珍しいのだ。(しかも売るのではなく、”貸す”のだから更に難易度は上がる)

だからこそ、もし自社の商品が競合と全く同じ、もしくは劣っていて、クライアントニーズも弱い営業をやっている方がいらっしゃったら、それはある意味チャンスだと思う。

その環境で実績を残せたら必ず、あなたの力によるものだからだ。

ここまで述べてきたように、一言で「営業力がある」と言っても様々な営業スタイルがあり、身につくスキルも異なる

万人にとって「必ず身につけたほうが良い営業力」というものはない。

なぜなら、人それぞれ価値観も違うし、将来やりたいことも違うからだ

しかし、自分が将来やってみたい仕事、なりたい姿があるのであれば、”自分とって必要な営業力”は必ずあるはずだ

そんなときに「営業力をつけたい」というざっくりとした目標ではなく、もっと解像度高く考えることで、自分がやりたい仕事や、なりたい姿に近づける可能性はグッと高まる。ましてや、目の前の年収によって左右されるのはもったいなさすぎる。

年収や勤務地、労働時間のような条件も勿論重要ではあるが、自分の長いビジネスキャリアを考えると、もっと大事なものはあるはずだ。

自分がやりたかった仕事につけた経験を振り返ると、「営業力」という言葉をいかに深堀し、粒度を小さくして考えられるかがポイントだったと思う。

銀行で全国表彰頂いた実績においても、単に「営業力がある!」で終わらせるのはなく、「これって具体的にはどんな営業力?」と自問自答し、自分に必要なスキルとの差分を考えて、次のキャリアを選択してきたことが非常に重要だったと思う。

現在、一生懸命営業に取り組まれている方、これから営業を頑張ろうと思われている方にとって少しでもこの記事が参考になり、ご自身が納得のいくビジネスキャリアを歩まれることを祈っています。

※最後までお読み頂き、ありがとうございました!!