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さらば、愛しのチャーリー

さまよう蟹(94年生まれ 西原町出身)

 2024年8月某日、ある新聞記事に私は衝撃を受けた。「あのチャーリーが閉店!?」

 それは沖縄県南城市玉城にある、1973年創業の老舗飲食店「チャーリーレストラン」についての記事だった。和洋中が揃った飲食メニューに、持ち帰りもできるパイ3種が売りのお店だ。実際は閉店ではないものの、9月末にレストラン事業を終了し、パイ持ち帰り事業のみにするという内容だった。ここにお世話になった県民、特に南部在住者も少なくないと思う。両親が玉城出身の私もその一人で、実家ではここを「チャーリー」と呼んでいる(ここからはその愛称を使わせてもらう)。この記事を見た私はすぐに両親に連絡して、予定が空いていた父と連れ立って次の休日にチャーリーを訪れることにした。

 9月某日日曜日、天気は晴れ。8月下旬にチャーリーの目と鼻の先にオープンしたコストコの渋滞に巻き込まれつつ、チャーリーに到着。

どことなく旧南風原レストランを彷彿とさせる佇まい。

 開店直後の11時過ぎだったが、すでにウェイティングリストは10組以上埋まっており、入口と2階に続く階段には人が溢れていた。1時間ほど待って呼び出された。待っている間も人はどんどん訪れるし、パイもどんどん売れていった。

外から触るとちょっとあったかい、パイを格納するショーケース。

 チャーリーといえばステーキというイメージがあるが、私は物心ついた頃からいつもチャーリーランチを頼んでいたような気がする。今回もチャーリーランチを注文。

 私も父も久々のチャーリー。注文した料理が来るのを待ちながら、父の思い出話を聞いた。高校を卒業するまでチャーリーに行ったことがなかったが、地域の集まりの仕出しでここのオードブルのサンドイッチなどを楽しんでいたと言う。高校卒業後、当時交際していた母の実家に入り浸っていた期間には、母の家族に連れられて時々チャーリーに行くことがあったそうだ。母の実家はお祝い事や学校の修了式があった際にチャーリーに行っていたそう。私も祖父母の誕生日祝いや敬老の日に、祖父母と両親に連れられて訪れていたのを思い出した。チャーリーに行くという文化(?)は母方の影響なのかもしれない。さらに、那覇市与儀の市民会館通りに昔、支店があった覚えがあると父は話す。「料理のイメージがないから、パイだけ持ち帰りで売ってたんじゃないかな?」とのこと。

 料理が運ばれてきた。まずスープとサラダが到着。特にこのスープ!幼少期から大好きで、到着したら大人が驚く速さで完飲していた。注文したメニューの全ての料理が揃った写真を撮りたいため、今回はグッと我慢して待機。(もちろん、写真を撮り終えた後に瞬時に飲み干した。)

チャーリーのスープに胡椒を足しはじめたら、
大人の階段を昇りはじめた証拠だと勝手に思っている。

 次にメインディッシュとライスが到着。あの頃は全然食べきれなくて毎度途方に暮れていたのに、大きくなった今では普通の量に見えるから不思議だ。メインディッシュを見てみると、とんかつにペンネ、ハンバーグ、マッシュポテト、魚フライと、みんな大好きな美味しいものばかり。さらにソーキにゴーヤーのピカタ風、真ん中の謎のグラタン風(うむくじぷっとぅるーを彷彿とさせる質感のホワイトソース、さらに底に大きな具材がゴロゴロ入っている)と、いろんなタイプの味わいが楽しめる構成。誰もが好む料理を詰め込んだ、贅沢なメニューだったんだと改めて気づかされた。

ステーキのソースはもちろんA1ソース。

 食後にパイセットを追加で注文。ブルーベリーパイを食べたかったが売り切れとのことで、アップルパイをチョイス。チャーリーのパイは一切れが大きい。中にりんごのコンポートがゴロゴロ入っていて、自然だがしっかりとした甘さが楽しめる。パイ生地は、上はちょっとサクサク、底部はちょっとしっとり。

右がチェリーアップルパイ、左がアップルパイ

 ごちそうさまの後はアップルパイを1ホール購入して帰宅した。

 毎年、知らず知らずのうちに知っていたお店が閉店していき、無念に感じていた私だが、今回のチャーリーについては心残りなく事業終了の日を迎えられそうだ。最後にチャーリーのあの大好きな味を体験できて、父に食べさせることができてよかった…。
 「ここからコストコが見える。うり。」料理を待っている時に父が窓の外を見て指差した。南城市の中で玉城は開発があまり進んでおらず、大きな商業施設もなくのどかな地区だった。コストコ開業の知らせを聞いた時、「ここにも開発の波が」と嘆息したのを覚えている。両祖父母の家がある玉城は私の原風景のひとつで、チャーリーもその一部だ。街は、少しずつ変わりゆく。それは少し悲しいことだけど、私の心の中では変わらないあの日の街が確かに存在している。あの日のチャーリーも、最後のチャーリーも、私の思い出のひとつとして心の片隅でキラキラ光を放ち続けるだろう。その思い出たちを噛み締めながら、これからの玉城を見守っていきたい。

〜写真ギャラリー〜

これからはパイを買いに行こう!
1階は主にテーブル席で、2階は座敷がメイン。両階にウェイティングリストがあった。
もちろん「チャプスイ」もある。
店舗向かいの第2駐車場の看板。
「本店」表記の下に消された、「支店」と那覇っぽい番号

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