ミラーニューロンにおけるある問題

ミラーニューロンシステムとはヒトの運動前野、一次運動野、頭頂葉で賦活します。機能としては他者意図理解の他に他者運動の模倣があります。ミラーニューロンの定義は自己が運動した時と、他者が同じ運動をするところを視覚入力を通して見た時活動します。運動前野の下部と上頭頂葉では運動の観察時や実行時よりも模倣課題中により強く検出されます。意図だけでなく、その行為の背景にある文脈も反映している可能性があるとされています(イアコボーニ2005)。

先行実験では、vogtの実験では、ギターのコードを押さえることを模倣すると、練習したことのないコードを模倣するために他者の手を観察した方がミラーシステムの強い賦活が見られました。また、UCLのcalvo merinoが実験したカポエイラとバレエではバレエ経験者はバレエを観察した時の方が、カポエラを観察した時より、ミラーニューロンが強く賦活しました。つまり、概知のものの動作を観察した時と、未知の動作を模倣したときでミラーニューロンが賦活するということです。嶋田(2021)は両者の一見矛盾に見えると述べました。

未知のものを模倣する行為」と「自分が知っている運動を他者が行なっている光景を観察する」時でも、どちらもミラーニューロンは賦活します。未知のものにも既知のものにも賦活するのはなぜでしょうか。

私がこの研究の矛盾点について知った時、仮説を立てました。一つがWe-mode認知における共同運動主体感です。
これは、下頭頂小葉で他者を模倣したときに他者の動作が自己の動作に自動的に変換され、模倣が促されているという原理と同じです。We-modeは前頭葉で賦活するため、前頭葉と一次運動野ミラーニューロンの機能的結合が起こっているのではないかと考えられます。

また、観察者が模倣するために、模倣相手との一体感を得ようとしている時にもミラーニューロンが強く働くのではないかと考える。つまり未知のものが直接的な要因ではなく、能動的な他者との間身体性の構築が要因ということである。となると、トップダウン処理である、目的的推論仮説がミラーニューロンに対して妥当な説であることも考えることができます。

他にも、ある実験では、ある行為の熟練者が、他者がその行為を行なっているところを観察すると、失敗した時にミラーニューロンが賦活することが観察されています。これは予測符号化理論と嶋田のWe-modeのように他者を自己と内的に同化し、他者が受け取った報酬を自己のものとして処理する代理報酬によるものと考えられます。そして、代理報酬を受け取る際にミラーシステムと報酬系の機能的結合がおきるのです。
この代理報酬が何かしら関わっているのではないか、と考えることができます。
以上の仮説を説明できれば、ミラーニューロンについて有意義な知見を得られます。例えば、三番目の仮説を考えることで、予測符号化理論とミラーニューロンにつよい相関性があることを立証できるかもしれません。

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