メガネぶた小学校

「このままでは、小学校が倒産します。」

体育館で開かれた全校集会で、校長先生がいいました。

蓮くんは、倒産の意味がわからなかったので、手を上げて、校長先生に聞きました。

「校長先生、『倒産』ってなんですか。」

「『倒産』というのはね、お金がなくなって、小学校を続けることができなくなることです。市長さんのおっしゃるには、市に入るお金が年々少なくなってきて、その反対に、お年寄りのために使うお金が増えてきて、お金がほとんどなくなったので、私たちの小学校をやめようと考えているとのことでした。」

蓮くんは、聞きました。

「小学校がなくなったら、ぼくたちは、どうなるんですか。」

校長先生は、答えました。

「となりの小学校に通うことになります。」

「そんなのいやだ。」

蓮くんも、お友だちも、みんな、いやだ、いやだと叫んでいます。

そんなみんなの姿を見かねた校長先生は、

「少し考えさせてください。」

と言って、その日の全校集会を切り上げました。

次の日、また、全校集会が開かれると、

校長先生が、開口一番、

校長先生を100万円で売ることにます。

と言いました。体育館の中のみんなは、おどろいて、飛び上がってしまいました。

先生方が「校長先生のお仕事を100万円で売ります。」と書いたチラシを作って、おうちの方に読んでもらったり、まちで配ったりしましたが、誰も100万円を出そうとする人はいませんでした。

そんなある日、校長先生のところに、お肉屋さんとメガネ屋さんが、それぞれ100万円ずつ持ってやってきました。

ところが、二人ともやる気まんまんで、校長先生をゆずろうとしません。困ってしまった校長先生は、全校集会で二人の話を聞いて決めることにしました。

まずは、お肉屋さんから、

「えー、私が校長先生になったら、給食に、トンカツやハンバーグ、ステーキをごちそうします。みんな、お肉を食べて元気になりましょう。」

続いて、メガネ屋さんが、

「オッホン、私が校長先生になりましたら、みなさんにゲーム機を一台ずつプレゼントします。プレゼントしたゲーム機の学習ソフトで授業をしますから、みなさん、楽しく勉強しましょう。それと、みなさんに、視力に合ったメガネをプレゼントしますから、正しいメガネで勉強しましょうね。」

お話を聞いたみんながどちらにしようか迷っていると、蓮くんが手を上げました。

「二人とも、校長先生になればいいと思います。」

みんなが、大きくうなずいている間に、校長先生は、体育館の舞台を降りて、どこかに消えてしまいました。

次の日から、お肉屋さんとメガネ屋さんが校長先生になりました。

お肉屋さん校長先生は、約束どおり、給食に、トンカツやハンバーグ、ステーキを出してくれました。みんなは、大好きなメニューが、毎日食べられるので大喜びです。

しばらくしたある日、お肉屋さん校長先生は、団結をはかろうと言って、内緒で作ったピンク色のTシャツを、みんなに着るように言いました。みんなは、おいしい給食を出してもらっているので、よろこんでTシャツを着ました。Tシャツの背中には、小さな文字で「お肉屋さんのトンカツ」と書かれていましたが、誰も気にしません。だって、みんないっしょだからです。

メガネ屋さん校長先生も、約束どおり、みんなに一台ずつゲーム機をプレゼントしました。みんなは、黒板を使った授業よりゲーム機を使った授業の方が100倍楽しいので、また、大喜びです。

そんなある日、メガネ屋さん校長先生は、視力検査をはじめました。近くしか見えない子には、視力に合わせたメガネを、メガネが必要ない子には、度が入っていないメガネを作りました。そして、一人一人に「正しいメガネで勉強しましょう。」と言いながら、メガネを配りました。みんな、黒縁のメガネをかけることになりましたが、誰も気にしません。だって、みんないっしょだからです。

そのうち、給食に、お肉の料理ばかりが出るので、みんな体力が付くようになって、野球やサッカーのチームは、今までビリに近い成績だったのに、しだいに他のチームに勝てるようになりました。なにせ、みんなピンク色のTシャツですから、団結力もあります。こうなってくると、お肉屋さん校長先生も、順位が気になるようになりました。市の大会で何位、県の大会では何位。試合に負けると、どこが悪かったか監督と真剣に相談しています。来年は、県の大会で優勝を目指そうという目標まで立てて、小学校の屋上から垂れ幕を下げるようになりました。

ゲーム機を使った授業も成果を上げて、学力テストの順位も目を見張るほど上がってきました。こうなってくると、メガネ屋さん校長先生も、順位が気になってきました。学力テストで国語の平均点数が悪いと、国語の先生と長い時間相談して、それでも、成績が上がらないと、国語の先生を他の学校の先生と交代してもらいました。来年こそ、学力テストで、県内一位を目指そうという目標を立てて、教室に大きな「県内一位」という張り紙が貼りだされるようになりました。

そんなある日、となりの小学校の子たちを乗せた遠足バスが、小学校の前を通りました。みんな、大きな休み時間で校庭に出て遊んでいる時でした。

となりの小学校のみんなが、バスの窓からこちらを見て言いました。

「メガネぶただ。メガネぶた小学校。」

視線の先には、ピンクのTシャツに黒縁メガネをかけたみんながいます。みんなは、自分たちの姿が恥ずかしく思えてしまい、逃げ込むように校舎の中に隠れました。

そんな様子を丘の上から、前の校長先生が、じっと眺めていました。

小学校の教室では、あいかわらず、ゲーム機を使った授業が行われています。

そこに、一羽のカラスがやってきて、窓のサンにちょこんと止まりました。

「先生、カラスが勉強したいと言っています。」

誰かが言うと、先生は、

「じゃましないのなら、そのまま放っておきなさい。それより国語の勉強、勉強。」

と言ってぜんぜん相手にしませんでした。

来る日も来る日も、カラスは、窓のサンに止まって、教室の中をのぞいていました。そんなある日の給食の時間のこと、みんながいつものようにトンカツを食べていると、カラスが小首をかしげてこちらを見ています。

「きっと、トンカツがほしいんだよ。」

誰かが、トンカツをちぎって、カラスの足元に投げてやりました。カラスは、足元のトンカツをくわえると、うれしそうに空に向かって飛ん行きました。次の日も、次の日も、カラスは、給食の時間にやってきて、小首をかしげました。それを見たみんなは、おもしろがって、トンカツやハンバーグの切れ端をカラスに与えてやりました。

よく晴れたある日のこと、いつものようにトンカツの端切れをもらったカラスが、いきおいよく青空に向かって飛び立って行きました。

と、その時、パンと乾いた音がしました。窓の外に目をやると、空から、黒い羽根がひとつ、くるくると舞い落ちてくるのが見えました。

次の日、一時間目は、国語の授業なのに、お肉屋さん校長先生と、メガネ屋さん校長先生が教室に入ってきました。

メガネ屋さんの校長先生が口火を切って、

「昨日、ブドウ農家のおじさんが、『悪いカラスと間違えて、学校で飼ってるカラスをうち殺してしまった。』と学校に謝りに来られました。みなさんの中で、カラスにえさをあげた人はいませんか。」

とたずねました。みんなが黙っていると、お肉屋さん校長先生が、

「カラスにえさをやってはいけません。カラスが人間を恐れなくなって、人間に近づきすぎてしまいます。そして、悪さをしたと間違えられて殺されてしまうのです。あのカラスを殺したのは、みなさんなのですよ。」

と言いました。みんなは、カラスが死んだのは自分たちのせいだと思って、泣き出しそうになりました。

メガネ屋さん校長先生が、言葉をついで、

「カラスは、生きるためにブドウを取ろうとしました。ブドウ農家のおじさんも生きるために、カラスを鉄砲で撃ちました。みんな、生きるために戦っているのです。誰も悪くありません。みなさんも、大人になったら、生きるために戦わなければなりません。そして、勝たなければ生きていけないのです。さあ、大人になった時のためにも、今しっかり勉強しましょう。」

と言いました。でも、みんなは、カラスを殺したのは私たちだというお肉屋さん校長先生の言葉で頭の中がいっぱいで、あまりよく聞いてませんでした。

そんな中、蓮くんが、

「殺し合い、戦い合う以外に生きていく方法はないのでしょうか。ぼくは、戦うのはいやです。」

と、大声で叫びました。みんなは、びっくりして、蓮くんを見つめました。

と、その時、前方のドアから、前の校長先生が入ってきて、二人の校長先生を押しのけると、みんなに向かって言いました。

「さあ、みんな、早く目を覚まして。カラスみたいにならないで。」

それを聞いた蓮くんは、立ち上がりました。

「みんな、メガネも、Tシャツも、全部脱ぎ捨ててしまえ。」

と言うが早いか、メガネを外して足でふみ付け、両手でTシャツをまくし上げ、天井に届くほど高く放り投げました。

みんなも、蓮くんに続けとばかり、次々にメガネとTシャツを脱ぎ捨てていきました。

黒縁メガネを外したお友だちの顔のりんかくは、細くて、ひょろっとしたものに見えたので、みんなは、自分も、お友だちからそんな風に見られているのかなと思って、不安になりました。

そんなみんなに、前の校長先生が言いました。

「それが今の君たちの顔なんだよ。りんかくが細くて、ひょろっとしていても大丈夫。君たちは、自分の線自分の顔を描くんだ。わかったね。」

みんなは、お互いにお友だちの顔を見つめて言いました。

「君には、その顔が一番似合ってるよ。」

(おわり)

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