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午後五時半の情景

誰も信じないだろうけど
雑木林の中はもう秋の気配だった

蝉は控え目の音量でロングトーン
奇声のような鳴き声で遠ざかる鳥
地上に出て力尽きたミミズに群がる蟻
そして人間は僕ひとり

生まれたてのような生暖かい風が
方向を見失って足元を揺らす

なにも怖くないのに
急ぎ足になった僕が枯葉を踏むと
音もなく沈んで大地に吸い付く

ここは命が生まれて果てる場所
やっぱり早く抜けようと
さらに足を速めた

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