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【い】いりえ(五十音の私)

五十音順で、一日一音を頭文字にあててタイトルとし、内容に沿った自己紹介エッセイを書いていきます。

はじめこのエッセイについて考えたとき【い】いくらが食べ放題と書いた(詳しくは上記noteの後半参照)ものの、3行くらいで説明できる内容だし、それよりも書かなきゃいけないことがあるわ、と気がついて表題の通りに変えた。

一応いくら食べ放題についても書いておくと、実家が北海道で、いくらはシーズンになるとおすそ分けなどでよくいただいていたので残量を気にすることなく好きなだけ食べられた、というただそれだけの内容だ。

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いりえは地元にあった本屋さんの名前である。入り江―。海にちなんだ名前だったのは土地柄か(海沿いの町だった)。そこそこの面積があって、店に入って右へ真っ直ぐ進むと奥の方に児童書コーナーがある。

「どこ行きたい?」。毎週水曜日は実家の飲食店の定休日だ。学校から帰ってきて暇そうにしていると父や母が聞いてくれる。答えは決まって「いりえ」だった。

『ミッケ!』『モモ』『はてしない物語』『ダレン・シャン』や『ハリー・ポッター』、他にも雑学や間違い探し、占い、クイズ、ショートショート…たくさんの本をここで買ってもらった。

成長とともに店内での移動範囲、そして読書の幅も広がっていった。本屋といったら今でもいりえを思い浮かべる。原体験のようなその場所はしかし、私が中学生か高校生の頃になくなってしまった。とてもショックなはずだったのに、それがいつのことか正確には覚えていない。

月日は経って現在。縁あって、間借りで本屋を営んでいる。幼い頃の夢は「楽して儲かる仕事」で、読書は好きだけれど本屋をしたいと考えたこともなかった。出会いやタイミングによってまったく正反対のことをやるようになる場合もあるから人生は不思議である(本屋は「楽して儲かる」から一番縁遠い仕事ではないか)。

もちろん屋号は「いりえ」にした。(しばらくはこんな感じかな)と思っていた人生から急に脱線し始めたので「脱線書房」、横道に逸れたという意味で「横道書店」、一転して好きなものを名前にしようと「大福書店」、店主の特徴を反映させて「鼻声書房」などさまざまな屋号案を考えたが、結局最後に頭に浮かんでくるのは懐かしい場所の名前だった。

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