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2021/7/17 18:00『君子無朋~中国史上最も孤独な「暴君」雍正帝~』

Team申第5回本公演『君子無朋~中国史上最も孤独な「暴君」雍正帝~』@東京芸術劇場シアターウエスト

佐々木蔵之介さんの舞台となれば行くしかないので、チケットを発売日に買って楽しみにしていた作品。

しかも、中国の皇帝のお話とのことで、全然詳しくはないけど中国と聞けば気になってしまう私(中国語ちょっと勉強してるだけ)としては、観に行かないという選択肢がありませんでした。

あらすじ


18世紀の中国。主人公は歴代約200人の皇帝の中で最も勤勉、4時起床、24時まで1日20時間働き続け、「過労死」したと言われる清の雍正帝(1678~1735年、在位1723~1735年)。その駆け抜けた13年の治世、紫禁城に暮らした皇帝で 唯一玉座に座ろうとせず、執務室に籠って、中央のエリート役人を無視して、地方の末端役人223人と2万通におよぶ手紙をやり取りし続けた。手紙にあふれる、およそ皇帝には相応しく無い罵詈雑言と叱咤激励の嵐。パワハラなどという概念を吹き飛ばすユーモア。
彼ほど生々しく国を導いた皇帝はいない。彼と役人とのスリリングでスピード感あるやりとりを再現し、さらになぜ雍正帝は過労死するほど働いたのか、人生の鎖となった「謎」も解き明かしていく。(ファッションプレスより引用)

公演詳細

Team申 第5回本公演『君子無朋~中国史上最も孤独な「暴君」雍正帝~』
作:阿部修英
演出:東憲司
出演:佐々木蔵之介、中村蒼、奥田達士、石原由宇、河内大和
美術:竹邊奈津子
音楽:かみむら周平
照明:原田保
音響:原田耕児
衣:西原梨恵
ヘアメイク:河村陽子
演出助手:須藤黄英
宣伝美術:東學
(引用元同上、原文ママ)

東憲司さんの演出は、劇団桟敷童子の作品で何度か観たことがありますが、劇団以外の作品を観るのは初めてでした。

また、脚本の阿部修英さんは知らないなあと思っていたら、元々はテレビディレクターであり、ドキュメンタリーが専門でフィクションは初めての作だそうです。

阿部さんが書かれた記事がこちら。今作を執筆することになったきっかけなど、脚本を書いた本人ならではのエピソードや思いが読めて興味深かったです。


所感(ネタバレは、する。)



三人の黒い服の男がストーリーテラーとして、物語の状況を語るところから舞台は始まります。

ここで、地方官オルクが雍正帝の命を受けて、後宮を訪ねているということが分かります。

なんかこういう3人のストーリーテラーみたいなのを見ると、私はすぐマクベスの魔女を想起してしまいます。蔵之介さんも一人芝居でやられてますしね…(観れてないのでフォトブックだけ買いました。ものすごく良い)。

さて、オルクが雍正帝の臥所まで辿り着き、いよいよ皇帝のお目見え。

初の辮髪姿の蔵之介さんです。

いつもの美中年オーラではなく、凄みがあって、さすが皇帝という風格。

ただし、衣服には吐血した痕が付いていて激しい病状が伺えます。

この辺りで、雍正帝が思わず言葉を発したオルクに対して「誰が口を開いて良いと申した?」と威圧する台詞があるんですが、もう…色気の塊過ぎて…。流石の蔵之介さん…。

そして、オルクとの問答と回想で、彼が即位してからのストーリーが明らかになっていきます。

亡くなった父親に聖祖という送り名を付けたこと、皇帝である自ら地方官と直々にやりとりをするようになったこと、紫禁城のあちこちに「君子無朋」という文字を掲げるようになったこと、兄弟である他の王子たちを側近にしたり逆に排斥したりしたことなど、様々なことが語られます。

辟易するほど横暴に見える皇帝の姿に垣間見える精緻な仕事ぶり。ただしこの時点では横暴さがかなり勝っていて、ユーモラスではありますが周りの人たちに対して同情してしまいます。それもあってか、特に地方官との手紙のやり取りは面白かったのですが、ちょっと冗長に感じてしまいました。

それはさておき、雍正帝の悪役ぶりがひっくり返されるのは、物語後半の、雍正帝がまだ即位する前の少年時代の回想でした。

兄弟である胤禵に向けられた母の子守唄をずっと遠くで聴くばかりで、孤独な思いをしてきた少年時代。

「人気があれば正しいのか?」「胤禵の方が崇高な意志があるのか?」と悲壮に問います。

彼の苦悩や本懐を知ると、「本当は名君だったんだ…!」となるはずなのですが、個人的にはそれまでの横暴さにフォーカスを当てた描かれ方がかなり強く残っていて、「でも結構みんなにつらく当たっていたし…」と思ってしまいました。Twitterなどで口コミを見ると、みなさん「名君!」となっていたので、私がちょっと素直に受け取れなかっただけかも。

そして、雍正帝が父親を自らの手で殺して皇帝の座に就いたこと、それは国の行く末を案じてのことだということが語られ、さらに雍正帝の悪役ぶりがすっかり払拭されます。

「目を凝らせ、手を動かせ、楽をするな、立ち止まるな」と何度も繰り返される言葉は単に地方官たちを働かせるのものではなく、雍正帝自らを律するためのものでもあり、実際に彼はその言葉の通り国のために働いたのでした。そして、最期は父とは異なり次の皇帝を指名し、自分の死後も見据えた上で逝去しました。

余談ではありますが、私は雍正帝の姿を見て、ファーストリテイリングの柳井正社長のことを思い出してました。

いつも厳しい姿勢を貫いていて、時には強い言葉を使ってメディアに取り上げられることもありましたが、きっと周囲の人以上に自分にも ものすごく高い水準を要求しているのでしょう。だからこそ、普通の人には成し遂げられないことが出来るのだろうと思います。

本当に門外漢なのですが、経営と政治って、少し似てるんだなあと気付きました。

↓ちょっと読む機会があったので読んだことがある柳井さんの著書。別に経営者じゃなくても、チームで働く人にとって大事なことが結構書かれてます。


以上、物語を振り返ってみました。次に、演出に関して少し触れたいと思います。

演出は先述したように劇団桟敷童子の東憲司さんです。これまでに何本か劇団桟敷童子の作品は観ていたので、なんとなく雰囲気は知っている状態ではありました。

登場人物の心の機微を泥臭いほどリアルに炙り出す演技と、物語のクライマックスには目を奪われる劇的なスペクタクルが印象的です。

劇団桟敷童子では、東さんが名義を変えて脚本と舞台美術と演出を一手に担っているので、それらの3要素が本当に強固にはまっています。

ただ、今回は脚本と演出が別々だったこともあるのか、ちょっと噛み合ってないのでは…?と思うところがありました。

例えば、紙吹雪が降ってきた場面。

語弊を恐れずに言えば、やや強行突破的に劇的な見せ場を作った感じがしてしまいました。

でも基本的には場面転換の多いホンを違和感なく料理しているのは流石だと思います。扱う題材の重厚さを維持するべく堅実に、それでいて演劇ならではの”時間や空間を超える力”を駆使して軽快に演出している、大変魅力的な作品でした。

観てから1か月以上経っての投稿になってしまいました。それでも何かの意味があればと思ってここに記録を残しておきます。



おまけ

公表はしていなかった近況。

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