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【観劇レポート】2017/10/27 『3D能ADVANCED [熊野][船弁慶]より』@明治大学アカデミーホール

※本上演の観劇のレポートだけでなく、お能全体に関する意見も多くの分量を占めています。とりとめのない文章ですが、ご一読ください。


私にとって初めての3D能。

正直に言うと、やはりまだ発展途上という印象です。

伝統芸能と新しい技術との融合に挑戦した努力は買いますが、3D映像が効果的に機能しているかは疑問が残りました。

映像を使用することによって情景が視覚的に表現され、本来謡を聞いて観客が想像しなければならない部分を補っているのは、能初心者にとっては鑑賞の助けになったと思います。その代わり、謡が単なるBGMとなってしまうため、純粋に能を楽しみたいという人にとっては、今の段階では映像は蛇足かもしれません。

また、演奏が録音だったのは、あまり良くないと思います。会場や人員の都合上、やむを得ないのかもしれませんが、演者との呼吸を合わせてこそのお囃子や地謡だと思っているので、そこが少し残念でした。

個人的に好きだったのは、『船弁慶』の映像です。飛沫が立体的に見えて、場面に迫力を加えていて単純に楽しかったです。

さて、以下に今回の鑑賞で考えたことをまとめました。

ひとつめは、伝統は破壊するために受け継いでいるという側面もあるということ。

今回のような当世風のアレンジは、見方によっては伝統の領域を侵しているとも捉えられます。しかし、そこから生まれるものがあるかもしれないという可能性は、誰にも否定できません。ただ単に過去を保存するためだけではなくて、破壊するため、つまりまだ見ぬ未来の技術や発想と出会い、新たな表現を生み出すために伝統を受け継いでいると考えた方が生産的ではありませんか?

それに、一部破壊されたからと言って、崩れるような伝統ではないでしょう。これからも伝統という軸を守りつつ、色々な試みをしてほしいと思います。

ふたつめは、能の楽しみ方は物語を理解することだけではないということ。

初学者の筆者はあまり物語の内容はよく分かりませんでした。ですから、仕方ない部分は割り切ってしまおうと考えたのです。謡の響きに浸り、舞による身体の抑圧と発散をぼんやり見つめる。それでもいいじゃないですか。

無理にあらすじを勉強していかないといけない、と思うと疲れます。最初は能の雰囲気を感じるだけでも十分だと思います。理解するのが難しそうと思って観なければ、雰囲気すら感じることはできないのですから。

私の今回の鑑賞はすなわち思想する時間でした。本来の能の楽しみ方からは外れてしまうかもしれませんが、これはこれで会場に足を運んだ意味があったと思うのです。

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噂の能面3D眼鏡をもらっただけでも、劇場に足を運んだ意味があったと思うのです。

皆さんも良い観劇ライフを!

〈追伸〉

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