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倦怠感のある日常を肯定してくれる米津玄師「LADY」

今回は、米津玄師さんの楽曲「LADY」についてお話ししたいと思います。この曲はジョージアとのタイアップでコーヒーのCMソングとして作られた曲ですが、今までの米津さんの楽曲との曲調の違いに少しびっくりしました。
「LADY」を聴いて感じたことや、米津さんが楽曲制作や今の心境を語っている動画『LADY Radio』を聴いて答え合わせをした内容をお話しします。


曲を聴いた最初のイメージは「朝」や「雨上がり」

私が思う今までの米津さんの楽曲のイメージは「影のある格好よさ」「切なさ」「鬱屈とした感情」といったもので、底抜けに明るいポジティブな曲を作るイメージはあまり持っていませんでした。(米津さんの楽曲全てを把握しているわけではないので、そういう楽曲もあればすみません!)なので、いつも格好いい曲だなとは思っていても、ポジティブな曲が好きな自分の中では日常の中で繰り返し聴くアーティストという位置づけではありませんでした。
ただ、今回「LADY」を初めて聴いた時に思い浮かんだのは「朝」や「雨上がり」といった、日常の中で気持ちが少し上を向くような情景で、今までの米津さんのイメージにないポジティブな雰囲気にギャップを感じ、「こんな楽曲も作るのか!」と、とてもびっくりしました。同時に、日常の中で家事や息抜きをしながら流して口ずさみたい曲だなと思いました。
米津さんは『LADY Radio』の中で、この楽曲を「朝10時の倦怠感」「ごく卑近な日常としての倦怠感」をとっかかりに作り始め「反復する猥雑な日常を肯定する」と語っており、まさにこちらが受け取ったイメージそのもの。イメージを具現化してそのまま人々に届けるプロの表現力に、流石だなぁと思いました。

米津さんは映画・アニメ・ドラマのタイアップで楽曲を作ることが多い印象ですが、そういうタイアップではやはり物語性のある展開やインパクトがある楽曲を作るのだと思います。一方で今回はCM、しかも人々が日常の中で飲むコーヒーのCMということで、今までにない「日常感」のある楽曲となっているのかもなと思いました。求められるものをしっかりと自身のスキルで表現されるところが社会人として凄いなぁ、と尊敬の気持ちがひしひしと湧きました…

ループするフレーズで表す「反復する日常」

「LADY」はイントロのピアノのフレーズのワンループから作り始めたとのことでした。米津さん曰く、このループが反復する倦怠感のある日常を表しているとのことです。
『LADY Radio』の中で、「10年15年この仕事をやっていると生活や仕事の態度がルーティン化していき、ありがたいことではあるけどある種の倦怠感を感じる、これっていつまでやるんだっけなという感じがしてくる」と語っています。私自身も米津さんと同世代で、最近は周りと「仕事に慣れてきて、仕事でもプライベートでもある程度やりたいことがやれてきて、マンネリ化してくるね」といった会話をすることも増えました。この世代特有の倦怠感と、それを肯定する曲となっていることに共感して、日々聴きたくなると感じたのかもなぁとも思いました。
反復する日常の倦怠感をループするフレーズで表現したとのことですが、このようなループするフレーズ・コードでノスタルジックな雰囲気を表す楽曲は最近のトレンドの一つでもあるかなと思います。思い浮かんだのはVaundy「踊り子」や、なとり「Overdose」などです。

近年「エモい」という言葉が流行っていて、ファッションでも音楽でもちょっとノスタルジックな雰囲気が流行っているイメージですが、「LADY」もそのような流行の要素を持つ今っぽい曲だなと感じました。米津さんが描いているジャケットの絵もノスタルジックで今っぽいです。

ループするフレーズの中に現れる引っ掛かりの「非日常」感

「LADY」は米津さんの言っていた通りイントロの基本のピアノのフレーズがループしながら進んでいくのですが、違和感を感じるような引っ掛かる音やフレーズがちりばめられていて、そこがこれまでの米津さんにも通ずる「らしさ」だなぁと思いました。
これまでの楽曲で言うと例えば、「KICK BACK」のイントロのつんのめったようなドラムやチェンソーの音、Cメロの壮大な展開が良い意味での違和感を生んでいますし、「Lemon」の「ウェ」という音も印象的で有名ですよね。
「LADY」では二番Aメロで入ってくる「きらりん」というような音や変拍子、曲全体に度々薄っすら入っている遊んでいるようなピアノの音、二番Cメロの複雑なメロディーの動きなどが良い意味での違和感や引っ掛かりを生んでいます。これがループするフレーズで表した日常の中に、たまにある非日常を表しているようで、上手いなぁと思いました。雰囲気がガラッと変わるCメロは、歌詞も日常とは違う様子を表している感じがします。

イントロと同じフレーズのアウトロで肯定する「続いていく日常」

そしてイントロと同じピアノのフレーズで終わるアウトロ。非日常があってもいつもの日常に戻ってくるし、そんなぼんやり、でも確かに続く日常を、音が上がって終わるフレーズが肯定してくれているようにも思いました。
「LADY」を聴くことで、いつもと同じ日常も「こういうものだよね」と前向きに捉えられるようになりそうです。

ボカロPから始まり、時代を追うごとに様々な雰囲気の楽曲を作っている米津さん。個人的には数年前に作っていたようなバンド音楽感のある「ピースサイン」や「LOSER」もとっても好きなのですが、楽曲の雰囲気は固定されることなく、これまでに本当に様々なテイストの楽曲を作り、ヒット曲を生み出し続けています。これからもどんな音楽を作られるのか、楽しみです。

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