【エッセイ】宇多田ヒカルで最も好きな曲

俗世的な話を。

宇多田ヒカルってのは本当にすごくて、気付いたらデビューして20年以上も経っているのに、その初期の楽曲が今でも全然色褪せていない。ハタチぐらいの子にその初期の頃の歌の話なんかすると「まだ生まれてません」と言われてギョッとするし、彼らがその曲を聴いてどう思うかなんて自由でいいけど、僕自身でいえば、自分が生まれた1984年の『北ウイング』なんか、それこそハタチを超えてから好きになって聴いたり歌うようになった。

作品が世に出てから20年以上経ち、人の心に刺さったりするのだから、音楽ってやっぱり凄い。

ということで宇多田ヒカルといえば『First Love』や『Distance』など初期の曲から、ここ数年では『二時間だけのバカンス』まで、好きな曲はたくさんある。

だけど本当に一番好きなのは『For You』かもしれない。

本当に好きなものって、誰かと一緒に共有するものでなく、一人で楽しんでニヤニヤとほくそ笑むもの?

楽曲でいえばカラオケで歌ったり、家事の途中で口ずさんだりするような曲は、好きではあるけど、一番ではないのかもしれない。そういうのはeasyな”好き”。

でも『For You』に関しては、当時のチャートでは1位をとったらしいけど、アルバムの曲ですか?ってくらい地味。宇多田の名曲として今でもフォーカスされるのはそれこそ『First Love』とか『Can you keep a secret?』とかではないだろうか。これらはドラマの主題歌にもなっていたし、その息が今でもかかってるのもあると思う。

それにひきかえ『For You』は、大きなタイアップもなかったし、歌詞もアレンジもMVも、他の楽曲に比べたらいたって地味。

でも僕はその地味さが大好きで、よくある恋愛ドラマ的リリックじゃなく、「あんたがいるから私は孤独を感じるんだよ?あんがとよ。あんたも私から孤独を感じてみたら?」というなんだか分けのわからないまま、一人称と二人称しか出てこない”狭い世界観”も好き。特に大きな山があるわけでもなく、終始淡々と進んでいく進行も好き。

歌詞にも出てくるけど、ヘッドフォンをかけてひとりでニヤニヤと聴きたくなる曲。誰にも邪魔されず。別に今更評価されなくてもいいし、私はこれが好き。ニヤニヤ。カラオケで歌ったり口ずさんだりもしない。だってこれは“宇多田ヒカルの曲”なんだから。

最近はシェア・共有が本当に多過ぎる。本当にそれが好きなのか?甚だ疑問であるし、なんなら僕は、ほぼ確実に、20年後もそのシェアしたパンケーキを好きな奴なんていないと思っている。大丈夫。20年後の世界なんて誰にも予知できない。

それでも僕は、今日も帰り道の夜道で一人、ヘッドフォンで『For You』を聴いてニヤニヤニタニタしている。二番のダラダラした感じも好き。「泣かせてあげる(和訳)」とか「飛びたい時は」などという危なっかしいCメロも好き。

宇多田もこの曲が大好きだから、大それたタイアップもせずしれっと出したのかな?だったら気が合うかもしれない。ヒッキーと。

クスっと笑えたら100円!(笑)そんなおみくじみたいな言霊を発信していけたらと思っています。サポートいつでもお待ちしております。