見出し画像

ノスタルジック・アディカウント #14

#1へ   前ページへ


 幼稚園のときは、よく一緒に遊んでいた。
 小学校に上がってからは、付かず離れずが続いていた。
 中学に上がってすぐのころは、なぜかよく喋るようになった。

 おかしくなったのは二年になってからだった。

 ののはいきなり素っ気ない態度をとってきたり、かと思うと手のひらを返すように急にべたべたしてきたり、何組の誰がかっこいいの可愛いのと褒めては同意を求めてきたり、これみよがしに――というのは穿った見方なのかもしれないけれど――俺の友人にちょっかいを掛けて、そいつに好意を寄せられると困ったように相談してきたりした。

 悪いひとじゃないと思うんだけど――。
 付き合ってみてもいいかなって、ちょっと思ったりもするんだけど――。

 そんな、大人みたいなことを言う。
 ほかの女友達じゃなくて、俺に言う。

 心中穏やかではいられなかった。
 ののの変貌ぶりに関しても、しばらく理解ができなかった。

 でもあるとき、ふと悟った。

 俺とののは結局、ただの幼馴染でしかないのだと。

 中学校という少しひらけた世界に進んで、新しい友人知人クラスメイトに囲まれて、互いに日々成長して。
 強い繋がりだと思っていた――絶対的なものと思っていた――〈幼馴染〉という特別な関係性は、どうやら希釈されてしまったらしい。

 ののにとって俺は友達ではないのだろう。
 あたりまえだけれど彼氏でもない。

 幼馴染。

 脆い言葉だと思った。
 同時にようやく諦めもついた。

 ののにとって俺は、幼いころから知っている――否、持っている、話を聞いてくれるぬいぐるみのような存在(もの)でしかないのだろう。

 ぬいぐるみにとって主は一人。世界は一つ。
 しかし主にとっては、ぬいぐるみは一つであっても、世界は大きくひらけている。

 ののがそれをはっきりと自覚しているかどうかはわからない。
 ただ、感覚的にわかっているんじゃないかと、俺は思う。

 べつにそれでもいいと思った。

 俺のなかでもいずれ、〈幼馴染〉が希釈される日がくるのかもしれないから。

 だから――。


 ――なのに。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?