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ゲーム日記③「Twelve Minutes」って結局どういうお話だったの?

やった

簡単に説明すると、5分間とちょっとの死亡ループに取り込まれた男が、10分を経て12分への拡張と再生を目指すお話。
そう、これは簡単に説明するのが難しい物語で、少し複雑なもの(ただし難解過ぎないもの)が好きなあなたにもオススメだ。

内容的には昔懐かしのクリムゾンルームみたいな脱出ゲームに、タイムループものの仕組みを散りばめたもの。
結果は地獄。脱出ゲームにありがちな「なんでこのアイテムにこういう使い方ができねぇんだよ」的キレ方と、タイムループものにありがちな「なんでここでこういう行動をとらねぇんだよ」的キレ方が、同時に成立している。
けれども二つの性質を帯びたフラグがカチっと噛みあった時の気持ちよさには、結構いいものがあった。

たぶんそういうこともあって、steamの評価はやや好評で止まっている。

以下ネタバレ







実を言うとこのゲームの遊戯後感はあまり良くない。

誰も幸せにならないし、問題は解決に向かわないし、真実が明らかにされることはない。むしろ誰かが幸せになりそうになったり、問題が解決しそうになると、ループが再び繰り返す。

なんとかしてたどり着いた最終エンドっぽい(一番スタッフロールが長い)ものですら、すべてを忘却して初めから。
続行が表示されない、これこそトゥルーエンドだとされたものに至っても、巻き戻しすることが可能である。

全てのエンディングを終えた後、あなたは呟くことになる。
結局どういうお話だったの?
全然スッキリすることがない。

でも、この何とも言えない遊戯後感があるいは意図されたものだとしたら。
僕はこのゲームが「ゲーム」であることに純粋にこだわったからという説を推す。

どういうことか。

例えばあなたがお姫様を助けて魔王を倒し世界を救うゲームをプレイしていたとする。魔王は竜に変身してあなたは勇者の剣を掲げる。激戦の末地響きを立て紫竜は崩れ果てた。世界に満ちた毒沼は花畑に代わり、あなたは一国の主として迎えられ姫と永遠の愛を誓う。スタッフロールが流れ画面に表示されるTHE ENDの文字。
あぁ、面白かった。
で、ふと思い立ってゲーム機を再起動してみることにする。
再び魔王に支配された世界と、謁見の間がそこにある。
僕の救った物語は一体どこへ消えたのか。

もしも物語に劇的な解決法が与えられて、すべてがハッピーに終わったとして、それは「二度と始まらないもの」になってしまうのではないだろうか。

しかしゲームは絶対的に「繰り返されるもの」だ。
プレイヤーの意思によっていくらでも。
トゥルーエンドの後にもnew gameはある。もちろんcontinueだって。

実を言うと、消費し終えた瞬間自ら役割を終えるゲームってあるんだけど、それはプレイヤーに対価を求めないフリーゲームに許された手法で、お金を出した消費者が納得するかは分からない。

いいじゃん別にと僕は思う。ゲームはただ消費されるだけの娯楽であって、消費し終えた後のことを、気にする人なんていない。ただ別のゲームを始めるだけだ。あるいは人生のどこかで感傷に浸ってもう一度プレイすることもあるかもだけど。それは全然悪い体験じゃない。

一方で、物語を終えたゲームの中に用意されたクリア後コンテンツを、死んだ目のキャラクターたちと共に進める虚しさも、僕はよく知っている。

あなたの物語を虚構にしてもいいのか?
良くない、と作者は答えた(ような気がする)。

だから「Twelve Minutes」は「ゲームはその再生性のため純粋には完結してはいけない」という命題を解決する。
何によって?
堂々巡りだ。

この物語は最後まで堂々巡りをすることになる。
疑問の答えは至ってシンプル。

Q.結局どういうお話だったの?
A.このゲームに「結局」はない

彼の物語が何かに至ることはない。
最終エンドでゼロに戻る物語は、絶対に完結することがない。
ゲームはただひたすら繰り返される。あなたがそれを辞めるまで。


彼の前に、三つの部屋がある。
赤ん坊の泣く部屋。妻のいる部屋。そして空き部屋。
彼は真正面の扉を開けた。そこが彼の住む家だからだ。
洗面所で妻が歌っていた。彼女はデザートと子供服、それに妊娠の知らせを用意して彼の帰りを待っていた。
ところが、部屋にはやがて怒り狂った警官が絶対的な力とともに殴り込む。
警官は宝を出せと妻を脅す。お前が父親を殺して奪った懐中時計を。無力な彼はそれを止めることができない。口を割らない妻にしびれを切らした警官が彼の首を絞める。数秒の苦痛のあと彼の意識が薄れると……洗面所で妻が歌っていた。

以上はこのゲームの導入部だ。
晴れの予報だったのに雷、妻はマグカップに水を汲み、五分後に警官が部屋にくる。そして彼は死ぬ。全てが予定調和に進む。世界がループしているんだ。

気づいた彼はループを抜け出そうと様々なアイテムを駆使してもがく。そんな彼を操作しながら僕たちは気づく。
なるほどこれは、脱出ゲームとタイムループものを組み合わせたゲームなんだね。どうやらその宝の懐中時計は魔法のアイテムで、彼に時間遡行を引き起こしているようだと。

実は違う。
懐中時計は魔法のアイテムなんかではない。警官が懐中時計を奪っていってもループは続く。
このゲームは脱出ゲームとタイムループものを組み合わせたわけではない。

では、なぜ世界は繰り返すのか?
それは、これがカウンセリングを模したゲームだからだ。

僕もそんなに詳しくはないと前置きをするけど、カウンセリングは繰り返しの営みだ。人の認知や行動はそう簡単に変えられるものではないから。
カウンセラーは特定の記憶の再現や、考えの述懐を、クライアントに繰り返させる。少しずつ方向を修正して、より好ましい方へと導く。

なるほどそれは、散らばるアイテムの適切な使用法を模索する脱出ゲーム、複雑なフラグのきっちりとハマるルートを探索するタイムループものの性質を帯びている。

彼の前に提示された、赤ん坊と、妻と、空き家。左右の二つは彼が揺れる可能性だ。幸福を取るか、孤独を取るか。どちらも選ぶに選べない。なぜか。彼には罪の意識があるから。けれども妻を愛しているから。

罪の意識とは何か?
それは襲い来る警官が暗示する。妻の父と同じ声をした警官は、宝を返せと妻を脅す。けれども実際に脅されているのは主人公の方だ。警官が返せと声を荒げる宝こそ、妻そのものに他ならない。警官は癌で死にかけの娘のために宝を求める。癌とは何か。主人公のことだ。

彼は妻の父の不倫の末に生まれた子供だった。自分は「モンスター」なのだ。彼が愛した女は、自分の姉だ。
その事実に気付いた瞬間、彼の意識は妻の父と相対する部屋に飛ばされる。
ようやくにして我々は、この物語の真相は、妻の父が彼に行っていたカウンセリングなのだと気づく。

一般のカウンセリングと違うのは、目的が認知を好ましくすることにはないところ。妻の父は自分の宝である娘と、彼の交際を許さなかった。だから物語はハッピーエンドに近づきそうになったら繰り返された。幸せな未来は許さない。お前は「モンスター」だから、私の娘の前から去れ。全部妄想だったのだ。お前の想像力は巧みだったが、全てを忘却して目覚めろ。そんな意識を刷り込み、認めさせるための催眠療法。

ではない。
実は違う。

このカウンセリングの実行者が妻の父親であるならば、主人公が全てを諦めて目覚めることを選択した時点で物語は終わる。だって目的が果たされたから。
確かにそのエンディングでは、continueはもう表示されない。
だが、時計の針を巻き戻すことはできる。「やっぱやーめた」が通用する。
娘から男を引き離すことに成功した父親がそんなことをするか?
いいや、しない。
だからカウンセリングの実行者は妻の父親ではない。

実際カウンセリングの現場には何度も訪れることができるし、そこで妻の父親はまるでループされているかのように毎回同じ言葉を喋る。
つまり、我々が現実世界だと思わされたその場所は、現実ではない。
妻の父の毛髪は時に生え、時に禿げている。記憶の再生ですらない。

それなら彼にカウンセリングを行っている男は誰だ?
彼自身だ。

「Twelve Minutes」は一人の妄想力豊かな、さらに厄介なことには、禅を嗜む男の頭の中で、延々と繰り返される堂々巡りなのだ。
どこまでが真実でどこまでが妄想か、それは誰にも分からない。
ひょっとして彼は現実に、妻の父親を殺害した男で、不貞の子で、自分の姉である妻を妊娠させたのかもしれない。

でも、もしかして、すべてが妄想だったとしたら?
彼は妻の父親を殺害していない。不貞の子でもない。だから血縁関係のない妻は、妊娠すらしていない。というかそもそも、まだ妻じゃない。
ただ、一人の惚れた女に対して、やがて父になる重圧と幸せ、それとも孤独の開放感のある気楽さと寂寥との前に、延々と堂々巡りをしているだけ、なのだとしたら。
自分は父親になんかなれない。なぜなら実は彼女は俺の姉で、俺は不貞の結果の子供で、つまり彼女と父親だけを共有していて、しかもその父をヤっちまって、モンスターで、永遠とループから抜け出せなくて……。

本に囲まれた部屋の中で「父親」は彼に言う。彼女に電話しろ。
彼の見つめる壁の上では、短針のない壁掛け時計が時を刻む。

分針時計ってみなさんご存知ですか? 分と秒だけ数える、12分で一周するやつ。ただ12分を繰り返し図るためだけに存在してる時計です。だから厳密にはこのゲームに出てくる時計と違うんですけど。
それは、時刻の必要性が存在しない場所。
例えばサウナに掛けられています。


延々と妄想を連ねるようなこの記事を執筆するにあたって、大いに参考にさせていただいた(妄想ではない)素晴らしい記事はこちら。

Twelve  Minutes」やや値段設定はお高めですが、ネタバレを喰らってなお楽しめる強度はあります。オススメ度☆3.5

よければ僕の妄想とあなたの解釈の、答え合わせの時間でもどうぞ。

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