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『プレゼント』掌編小説

◆◆◆ マイダーリン ◆◆◆

 それは紛れもなく『プレゼント』だった。

 開けられることなく、無造作に後部座席に置かれていた。紙袋からはラッピングされた姿が丸見えだった。丁寧に結ばれた赤いリボンは開封されていない事を物語っている。私は袋を手にすると、躊躇うことなく中身を確認した。

 真っ白い手編みのマフラー。

『メリークリスマス&誕生日おめでとう♡来年も再来年もずっと一緒に過ごそうね♡愛より愛を込めて♡』

 サンタクロースとトナカイが私を見つめている。その姿は可愛らしく、本来なら微笑ましいメッセージカード。たった三行のメッセージを何度も読んだ。

「愛より愛を込めて・・・・・・」

 衝撃的な言葉を口にしてみた。
 私は車に乗り込み座ると、夫の様子を思い浮かべた。結婚当初から平日の帰りは遅いものの、土日は家族と過ごす時間を大切にしてくれている。時には羽を伸すようにと、子供の面倒を一人でみてくれることもある。お酒で羽目を外すようなこともないし、勿論ギャンブルもしない。『良い夫』である。

「浮気?」

 そんなことはない。『絶対』とは言えないけれど、日々の生活を振り返っても怪しい行動は思いつかない。それでもこの『プレゼント』は女の臭いしかしない。

 いつ? どこで? どんな風に?

 私が子供を寝かしつけている間?
 オフィスで? 
 お洒落なバーで? 
 この車で? 
 そっと手を握りしめたりしているのだろうか。

 それともこのプレゼントは嫌がらせ?
 わざわざ後部座席に? 隠す様子もなく。

「ママ?」

 夫の声に思わず手にしていたものを隠した。
 夫の視線は慌て顔の私と、その背後からチラチラ見えているものに注がれる。

「ママ、何やってるの?」
「・・・・・・」
「ママ? 大丈夫」
 優しい夫の顔に涙が溢れそうになった。

「愛ちゃんって誰?」
 聞くつもりはなかった。
「昨日は一緒だったの?」
 見て見ぬ振りは出来なかった。
「メリークリスマス&誕生日おめでとう。来年も再来年もずっと一緒に過ごそうね。愛より愛を込めて・・・・・・」
 繰り返し読んだメッセージが自然に口から出ると同時に、白いマフラーを夫の首に巻いていた。ぼやけた視界の中で、夫が微笑んでいるのが分かった。
「愛って誰よ!」
 涙声の私をそっと包み込む夫の腕は温かかった。

「プレゼントありがとう。愛」

 顔を埋めたマフラーからは、私の大好きな甘いアーモンドの香りがした。


◆◆◆ マイハニー ◆◆◆ へ続く


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