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なつの思い出2023#3【なにもしない休日と、とつぜんの花火】

7月16日(日)

基本的に休日は落ち着きがなく予定をばんばん詰めこんでずっと遊びまわっているタイプなのだが、それでもたまにはなにもしない一日というものがあって、この日もそうだった。

なにもしない日というのは禁断の果実をほおばるような甘い背徳感が感じられるものの、ともすれば押し寄せてきそうになる罪悪感にも抗わなければいけなくて、そんなときに私がよくするのは【いまからでもできる付加価値】をつけることだ。たとえば走りに行ったり泳ぎに行ったり散歩をしたり、映画を観たり飲みに行ったり。

この日もア~~夜は走ろうかなあなどと考えていたら、前日に会ったばかりの隣駅に住むAちゃんから、花火をしようというお誘いをもらった。そもそも私は花火(観る方も、する方も)というものが大好きであり、以前Aちゃんにも近隣でこここでならしてもいいらしいという場所の情報を送りつけていたのだった。

花火というこの上ない【いまからでもできる付加価値】のおさそいをもらって、さっそくいそいそと出かけた。すっぴんで。

花火をするのは気がついたらほとんど10年ぶりで、出かける直前に”花火 やりかた”と検索してはさみとビニール袋とライターを持っていった。

待ち合わせの駅で、生花をするAちゃんが花を生けるどデカいアルミのバケツを買ってくれて、バケツをかかえたままドンキで花火とアイスを買った。目的の公園まで、18時半をすぎてもまだぜんぜん空が明るいなか、ふたりでアイスを食べながら歩く。
あんまりにもデキすぎていてひとりで勝手にちょっと照れた。

都内で花火ができる場所は限られていて、井の頭公園で花火ができるということを知ったときはうれしかった。井の頭公園のなかでも花火ができるエリアが指定されていて、いくつかある区画のうちには公園に入ってすぐの場所もあったのだけれど、趣がないということと、まだ明るいということでべつの奥まったエリアへと10分ほど歩いて移動する。

 …ここであってるの?
 …たぶん…。


という問答をしてしまうくらい、井の頭公園の最もうっそうとしている道を抜けて出たその、空き地と言ってもさしつかえない広場はしーーんと静まり返っていてひと気もなく、無口な妖怪のようにヌボーと突っ立っている街灯と、ホラー映画なら入ったが最後確実になにかの手が後ろからぬっと現れるであろう、そらあかるい公衆トイレがぽつんとあるきりで真っ暗で、いかにも”なにか出そう”だった。それでも本来の目的を果たしに、バケツに水を入れ、花火を開封する…が、

やはりどうしても…こわい。

ということで、すこし歩いた先にもう一つの花火可能なエリアがあることを知り、ほうほうの体でその場所をあとにする。

ものの30秒で見えてきたそのエリアはさっきまでいた場所とはかけはなれた、びっくりするほど和気あいあいとしたおおきな公園だった。
ひろびろとした芝生のうえには遊具とそこに登ってはしゃぐこどもたち。フェンスに囲まれたグラウンドの周辺には家族で、友人どうしで、花火を楽しむ人びとが何組もいた。
先ほどまで深刻にびびっていた自分たちを忘れ、さっそく私たちももう一度バケツに水を張り、花火をはじめることにする。

と、なにも考えずにライターを持ってきたのだが、よく考えたら花火ってだいたいろうそくか、せめてチャッカマンだ。いざはじめてライターで花火をつける段になると、これがけっこうなかなか怖い。こわいのですでに点いている花火から継ぎたしていくことに決め、花火の火がライターを持つ親指にかからないようにへっぴり腰になりながらおそるおそる火をさしだす。

勢いよく点いた真っ白の花火をしみじみと眺めるひまもなく、もう片方の手に持った花火をちかづける。
やっと点いたと思うと最初に点いたほうはあっという間に消えてしまい、それを急いでバケツの中に投げいれ、ベンチにばらばらと並べた次の花火を手に取る。
消えないうちに…と慌てて火を点けると先に点いていたほうは消える…と、せわしなくその流れを繰りかえすうちに、しっかりボリュームのあるセットを買ったはずだったのに、気がつけばおとな2人、すべての花火を一瞬で燃やしつくして呆然としていた。

まわりのグループはみんなちゃんとろうそくを地面に置いていて、私たちのように二刀流でほとんど必死に花火をつなげているひとたちなんかだれもいなかった。

次回はろうそく、持ってこようね。などと言いながら、わたしたちに残された最後の花火、線香花火の封を開ける。もちろん線香花火もライターで火を点けるのでちょっとは怖いのだが、ふつうの手持ち花火よりはぜんぜん怖くない(怖い・怖くないという基準がそもそもおかしい)。

すこしは余裕を持って、そして一瞬で消えてしまった花火たちの分を取りかえすように、一本ずつ線香花火をたのしむ。ぷるぷるとふるえる小さな火の玉はいとおしくて、いつまでも見つめていたいのにすぐにぽとんと落ちてしまう。まわりに散る火花のあまりのか細さたよりなさは、いつもなんだか不安になる。最後の一本が終わる瞬間を大事に見届けて、後片付けをはじめる。駅までのんびり歩きながら、またやろうねと言ってお別れをした。

帰ってから見返した写真、二刀流で必死になりながらもそれでもなんとか撮った花火の写真はどれもぶれていて笑ってしまった。

怖かった広場
たのしい広場
ブレ花火
ブレ線香
花火のパッケージとネーミングセンスって実はかなり面白いねと思った



【夏ポイント】
・なにもしない休日
・手持ち花火

【10月29日ふりかえり】
10月の中旬にもいちどAちゃんとおなじ場所で花火をした。
今度はきちんと祖母に仏壇用のろうそくを分けてもらって、地面に刺して火をつけるとそれだけでキレイでなんだかいい気分だった。

実際に花火をはじめるとろうそくのおかげで一本一本をじっくり大切に楽しめて、前回を思い出して笑いながら、それもとてもよかった。

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