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毎日 追い越す

「ショウタ、走るとあぶないわよ」
「ママ、急いでよ。もうおなかぺこぺこなんだよ」

夕方6時47分。いつもこの橋の途中で、この親子を追い越す。

ショウタは小学校2年生。
担任は手塚先生。
土曜日にはスイミングに通っている。
仲良しはマサヨシくん。マッサーと呼んでいる。
学校では、マッサーとおにごっこやドッジボールをしている。時々けんかもする。ライバルらしい。
給食はカレーライスが好きで、おかわりもしている。苦手なものはひじきだが、残さないように牛乳で流し込んでいる。
学童保育に行っている。学童保育のおやつでは足りないらしい。
ママは、ドラッグストアで働いている。6時くらいに終わって、学童保育にショウタを迎えに行く。仕事場にはバスで行く。学校前のバス停を使っている。時々バスが遅れると、ショウタが怒って待っている。パパのゴルフは仕方ないと思っている。 
パパは、大体8時くらいに帰ってくる。好きな食べ物は生姜焼き。毎日ビールを飲んでいる。最近は少し太ってきた。
パパのおじいちゃんは長崎県で暮らしてる。おばあちゃんも健在だ。
ママのおじいちゃんは近くにいる。おばあちゃんは足が不自由で杖をついている。


1年くらい前に、この親子に気づいた。
毎日毎日、6時47分。
この橋の途中で、自転車で追い越していると、このくらいのことはわかる。情報は一瞬だ。少しの会話が耳に残る。でも、1年も積み重なると、けっこうな情報量になるのだ。

パパの姿は見たことはない。

ママはなかなか可愛らしい。30代前半くらい。髪が長く、ショウタに微笑む顔がとにかく優しい。
ぼくが、ショウタのパパだったら、幸せだろうな。そんな妄想をしてしまう。

ショウタもママも、ぼくのことなど知らないだろう。
仕事が終わり、自転車で帰る。いつもの小さな橋を渡り始める。ショウタとママの後ろ姿を見つける。
そして、6時47分、小さな橋の途中で追い越す。

「今日は、マッサーとサッカーして1点シュートを決めたよ」
「本当?すごいねー」

ショウタ、頑張ったんだな。
明日も頑張れよ。

ぼくも明日の仕事、頑張ろう。

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