見出し画像

ゾウのバオーンと赤ちゃん【フォトギャラリー短編】

ゾウのバオーンは、怒っていた。
「バオオ―――――ン!どうしてみんな、わかってくれないんだ!」
ゾウのバオーンは、泣きながら、怒っていた。
「バオオ――――ン!だれも、だれも、わかってくれない!」

足を踏み鳴らし、声をあげて、ゾウのバオーンは泣いた。
森に咲いていた花は折れて、踏みつけられた。
バオーンの声を聞いた森の動物たちは、みんな身を隠した。

バオーンはそんなことお構いなしに、泣き、怒り、暴れた。

バオーンが泣き、怒り、暴れる理由を誰も知らなった。
バオーンでさえも、自分がどうして泣き、怒り、暴れているのかわからなくなっていた。
ささいなことだったのかもしれない。重大なことだったかもしれない。
しかし、もうそれはどうでもよかった。
バオーンは、今、苦しくて、悲しくて、寂しいのだ。
だから、泣き、怒り、暴れるのだ。

バオーンが、さらに声をあげようとしたとき、それはやって来た。
キュッ、キュッ、キュッ。
小さくてかわいい歯車の音をさせながら。

乳母車だ。きつねのおばあさんと2匹の子どもたちが押している。
中には、すやすや寝息を立てている赤ちゃんきつねがいた。

バオーンは、それを見ると、声をあげるのをやめた。
泣き、怒り、暴れるのをやめた。

なぜなら、赤ちゃんが起きてしまいそうだと思ったから。

「どうして泣いてるの?」
子どものきつねがバオーンに尋ねた。
「何でもないよ」
バオーンは答えた。
「大丈夫?」
もう1匹の子どものきつねが尋ねた。
「大丈夫だよ」
バオーンは答えた。

「ありがとう」
おばあさんのきつねは、バオーンに言った。
「あなたは、やさしくて、強いゾウなんだね」

言われて、バオーンは気が付いた。
「ぼくは、やさしくて、強いゾウだったんだ」

バオーンは、自分が暴れて折ってしまった花を1本拾って、赤ちゃんの乳母車に差した。
「赤ちゃんが喜んでくれますように」

森のみんなにも謝らなきゃな。

それを見ていた森の動物たちがゆっくりと近寄ってきた。


(お礼)momoro66さん、素敵なイラストをありがとうございました。優しくてあたたかい絵ですね。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
いいなと思ったら、有料記事にしていただけると嬉しいです。

そうでなければ、スキやコメントをいただけると、暴れずに優しくなれそうです。

ここから先は

0字

¥ 100

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?