見出し画像

岩波文庫チャレンジ46/100冊目【荒地】

チャレンジ46冊目T・S・エリオット「荒地」。詩文学へ多大な貢献があったとして、ノーベル文学賞受賞。本作は「荒地」を含む詩集。

堕落した現代を「荒地」と見立て、信仰や精神の衰退を嘆いた詩が多い。内容はとても難解・・訳注が1冊の半分以上を占めるが、注がないとついていけない。


3大特徴:①並置②引喩③神話

数々の挿話

あらかじめ、上の特徴を把握した上で、下に記載した神話・文学の基礎を備えていれば、作者の言いたい事に辿り着けるかもしれない。

聖書、ギリシャ神話(テセウスの船など)、ダンテ「神曲」、アイスキュロス「アガメムノン」、ウェルギリウス「アエネーイス」、アーサー王の聖杯伝説やトリスタンとイゾルデ、エジプト神話、、仏教、インド仏教「ウパニシャッド」



シェイクスピア「ハムレット・オセロー・マクベス」、ワイルド「サロメ」、コンラッド「闇の奥」、ホメロス「オデュッセイア」、エドガー・アラン・ポー「モルグ街の殺人」、ワーズワス「霊魂不滅の啓示」、ワーグナー「ラインの娘たち・神々の黄昏」、ジョイス「ユリシーズ」、オウィディウス「変身物語」

分かった!とはっきり言えるのは、サロメくらい。ほとんどは訳註がないとチンプンだが、わかると「気持ちが良い」のは確か。いや〜長い道のりですね・・。

学生の頃に勉強なり、研究なりしている人。あるいは上の作品を読破している教養の人なら、謎解きとしても楽しめそう。

なぜならば、文学を制覇した上で、例えば下にまとめたような「その言葉が意味するもの」(特徴の1つ:引喩)が分かるかどうか、強者よ是非チャレンジを✨

作中の引喩例
・女性は魚類と同じ永遠の生命力であり、生命の源
・「囁き」はユダの裏切りの暗示
・雪にはシの連想がある
・鷲はローマとその軍隊の象徴
・柘榴は永遠の命や多くの種が集まっていることより信徒の集まり、教会
・桃は救済
・ヒアシンスは再生
・ナイチンゲールは娼婦、あるいはシの予告
・月に暈、不吉な事の前兆
・破れたテントは神と人の断絶

これら神話・文学の引喩と現代(荒地状態)を「並置」させているのが、この詩。論理的な順番で詩が流れるのではなく、一つ一つを紡ぎ合わせ、頭の中であぁ、となるのがこの詩の読み方・・後ろの解説を読んで分かったヨ。

これだけ多くの引喩を使う理由、それは「伝統への帰属・歴史的感覚」、「過去が過去としてあるばかりでなく、現前にある事を認識させる」ため(注より)。

印象的な作品3つ

例えばこんな詩という例で、印象的だった作品を3つ置いておく。

①ゲロンチョン

目に飛び込んでくるタイトル!ゲロンチョン!何それ!!

ありがたい訳註によれば、ギリシア語で「小さな老人」という意味で、衰退したキリスト教を嘆く。ユダの裏切り、キリストの磔刑、ヨブの苦悩など。

年の蘇りの時、猛虎キリストがやって来て
堕落した5月の、山グミと栗の木、花咲くユダの木、
やがては囁きの中で、食べられ、切り分けられ、飲まれる。
(中略)
道を外れた悪徳は、我々のヒロイズムを父として生まれる。
美徳は、我々の傲慢の罪が我々に押し付けるもの。
この涙は、怒りの実のなる樹から、はふり落とされるのだ。

年が改まり、虎が踊り出る。
彼は我々を貪り食らう。最後にもう一度考えてみたまえ・・略

*キリストが信仰なき人々によって食べられ飲まれる。怒りの実のなる樹は、エデンの知恵の樹(磔刑のイメージ含む)。年が改まると、虎がわれわれを喰らう。つまり信仰なき人へ神の怒りが向けられる。

②料理用卵

気になるのはまたタイトルだったが、少し古くなった卵を料理に使う、三十歳の男の比喩らしい。

天国で僕はピピットなんか欲しくない。
マダム・ブラヴァツキーが、僕に「7つの聖なる恍惚」を授けてくれるし、
ピッカルダ・デ・ドナティが指導してくれるから。

だが、部屋仕切りの陰でピピットと食べようと
僕の買ってきたペニーの世界は、どこへ行った?
(中略)
鷲とラッパはどこへ行った?

*ピピットは子供時代に優しくしてくれた女性の名、マダム・ブラヴァツキーは7がいっぱいの書を書いた神知学者、ピッカルダ・デ・ドナティはダンテ「神曲」の尼僧

*青春の夢は破れ、無垢の世界=ペニーの世界はなくなり、薄汚れた都市で生活する人々を嘆く

③荒地

4月は最も残酷な月」で始まる、聖杯伝説・キリスト教・仏教など様々な宗教・神話に彩られた5部作。生とシ、再生の詩。非常に難しい

1.死者の埋葬
2.チェス遊び
3.火の説教
4.水死
5.雷の言ったこと(DA・DA・DA)

汗にぬれた顔を赤く照らす松明の輝きの後
庭や園を満たす冷たい沈黙の後
岩地での苦悶の後
喚き声や泣き声がして 牢獄と宮殿、
そして遠く見はるかす山々に、
とどろく春雷のひびき
生きていた者は今は死者

*ユダの裏切り、キリストのゲッセマネの園での祈りから磔刑までの引喩

引喩のパレードと共に印象的なシーンも描く「イソイデクダサーイ、時間デース」閉店前の酒場を想起する言葉で文明の終末を、時間通りに動く人間を機械に例え、最後は3つの教えDA・DA・DA*に従う。

キリスト教と仏教が一つに、そして平穏、恵の雨。

*DA・DA・DA
ウパニシャッド」では、教えを求められるたび、創造主はDAと3回答えた
・ダッタ・・与えよ(サンスクリット語)
・ダヤヅワム・・相憐れめ
・ダミヤタ・・己を制せよ

最後は「シャンティ シャンティ シャンティ」
サンスクリット語で遠ざかる雷の音、で終わる。

凄まじい衝撃、忘れられない神話

どうしても気になる、読みたくなった神話の一部、自分用のメモにも・・衝撃を強くすることで忘れられなくしているのでしょうか。

・ホメロス「オデュッセイア」

宮崎駿監督ナウシカの元ネタナウシカア。これが気になる。

ナウシカアは海で遭難したオデュッセウスに食物と衣服を与えて助ける。作中の娼婦はナウシカアに、作中の男はナウシカアに世話されるオデュッセウスに比べられる。

・ウェルギリウス「アエネーイス」

「眠り」には門が2つあり、角の門からは正夢が、象牙の門からは逆夢が出てくる。荒地では角の門が登場し、死神と鴉座がシを予言する。

・エジプトの植物神オシリス

弟に殺されたオシリス王の死骸は寸断されてナイル川に捨てられる。妻イシスがそれを拾い集め、オシリス王は太陽神ラーに遣わされたアヌビス神の力で蘇る

オシリス神の礼拝儀礼では、土と穀物で作ったオシリスの人形を地中に埋葬し、その発芽を神の再生として祝う。

・ギリシア神話ヒュアキントス

スパルタの少年ヒュアキントスはアポロンの投げた円盤が誤って顔に当たり、顔から血が落ちる。そこから真っ赤な花が生える。再生の象徴ヒヤシンスの語源。

・オウィディウス「変身物語」

アテナイ王の娘ピロメラは、トラキア王に凌辱され舌を切られたが、タペストリーを織って、姉でトラキア王の妻プロクネに何が起こったか知らせる。姉プロクネは自分とトラキア王の間にできた子を殺し、彼に食べさせて復讐。

トラキア王は2人の姉妹を追ったが、妹はナイチンゲール、姉は燕に変身して、森に逃れる。

同様の話は、シェイクスピア「タイタス・アンドロニカス」でも扱われる。

・ワーグナー「神々の黄昏」

恋人ジークフリートがシんだ時、ブリュンヒルデは彼の手からラインの指輪を取り、自分の指につけて火中に身を投げ、川が燃え上がる。「ラインの娘たち」はブリュンヒルデの指輪を取ろうと水に飛び込んだハーゲンを溺れさせる。


難しいところは何度も何度も読んだ。いつか自分もこの詩が理解できるようになりたい、教養の人、強者になりたいと、そんな野望が生まれた日(はぁ)。

岩波文庫100冊チャレンジ、残り54冊🌟

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?