岩波文庫チャレンジ34&35/100冊【失われた時を求めて1・2巻】
世界名作ランキングで必ず上位にランクインする、プルーストの大長編「失われた時を求めて」。岩波文庫版は全14冊、完訳まで約10年の超大作。翻訳とは思えないくらい、日本語がすーっと入ってくる素晴らしい文章と思う。
主人公「私」が様々な場面を思い出し、“時間を遡る不可能な旅“をしながら、“そのような時間がふたたび私に生じることは二度とないだろう“という郷愁に駆られる、これが物語の主題ではないか、そう思っている。
まだ旅の途中だけれど、とりあえず1巻と2巻の感想をおいておく。続きが2巻ごとになるのかどうか、まだ分からない。読んでいるうちに最初の方を忘れないためにも、今の時点で2巻分をまとめておきたいと思った。
私はこれから読む本の予備知識を仕入れてから読むタイプではない。が、読み終わった後「?」になってしまった場合、どういうことだったのだろう、と色々調べては少し納得し、最初から分かっていればもっと楽しく読めただろうな、と思うことがある。
後ろめたさを経験しつつも、まずは読んでみないとね。1冊完結の場合、読んでから後悔が訪れるけれど、「失われた時を求めて」は14冊の大長編。途中色々調べながらも、なお本編が楽しめる。長編ならではのウッシッシ。
個人的3大特徴
①張り巡らされた伏線
張り巡らされた伏線(伏線とは思えない些細な場面も)、あれはそういう事だったのかと後から後から分かってくる。読んだ記憶があるうちに、その場面に出会わないと、何のことだっけ?となりそう。有難いことに、注釈には、これは後の何巻でここに繋がる、と教えてくれる。覚えているのが前提だが、繋がった時は結構スッキリ、爽快感がある。
後から後から繋がってくるため「再読こそが楽しい」のかもしれないが、果たしてこの長編を再読する時は訪れるのか🤔
②長〜〜〜い一文
プルーストの特徴でもあるよう。ページ半分が一文、というのもあった。「〜で、〜で、〜だから、〜だ」ならまだ読めても「〜で、〜で、〜だから、〜ではなかった」とされると急に「!?」となって、もう一度最初の文に戻りがち。
1巻などは2・3度同じ箇所を読むこともあったけれど、長い文章が特徴ということを知ってからは、無理に固執して時間を割くのを止めた。その1文が分からなくてもストーリーは読める。
③世相・政治・神話・宗教・美術
主題や文章の味だけでなく「名作とは」を教えてくれる思っている。当時のフランス貴族・ブルジョワ階級・サロンの会話で垣間見える、世相や政治だけでなく、至るところに神話や聖書の場面も散りばめられており、それを扱う美術作品も多数登場。知識の幅、深さ、量どれもすごい。
とりあえず、最初の2巻で発見した特徴はこんな感じ。
読み進めて変わる可能性もあると思う。
印象的なシーン(1・2巻)
印象的なシーンを少し(?)。主な人物:主人公「私」、スワン、オデット。
紅茶とマドレーヌ
紅茶に浸したマドレーヌから、「私」が少年時代に過ごした町、コンブレーの“思い出と言う巨大な建造物“ができ上がる話。
味や匂いから記憶が蘇ること自体は特別なことではないけれど、描写がすごかった。長編なりの:物語に入りきれなかったり、言ってることが分からなかったらどうしよう、という不安を抱えながら読み始めた、その不安が吹き飛んだ。個人的にも思い出深い場面。この作品を読み切ろう!と思えた最初の場面。
上と下の文章の間に展開される、6ページに及ぶ紅茶・マドレーヌと「私」の精神が素晴らしく、ぐっと引き込まれる世界があった。
スワンの恋(ここだけでも一大文学と思う)
ー恋に堕ちた理由よ
スワンの恋のお相手オデット。容姿を散々否定、その顔を想像しては、“ひどく悲しむ”程(なんでひどい笑)。それでいて、“システィーナ礼拝堂のフレスコ画に描かれた、エテロの娘チッポラにそっくり“な事を発見した途端、好きになる。
チッポラとは、旧約聖書「出エジプト記」に登場する、モーセの妻になる女性。システィーナ礼拝堂、ボッティチェリ『モーセの試練』の絵画より。(以前この本のレビューを投稿していますが、チッポラは出番が少ないため割愛)
ー恋するスワン(本当の主題?)
恋するスワンには、いつもの自分ではなく、別の人格が加わったと感じる。むしろそれまでの“性格を駆逐“した程、一途に恋をする。
楽しい恋の一時も、ライバル(フォルシュヴィル)出現で状況が変わる。このライバルは、“ウ◯チのくだり“(別途投稿)が、つぼ・・失敬。
フォルシュヴィルには会ってないと見え透いた嘘をつくオデット。問い詰めるスワン。
スワンは、決して嫌味な男性ではない。こんなにも必死に説得を試みる痛ましさ、にも見えるし、何を言っても結局伝わらないオデットの軽さ・・結局スワンの元には戻らない。そして、ある夜会をきっかけに“かつてオデットが自分に抱いていた感情はもはや二度とよみがえらない、幸せになる希望はもはや実現しない”と悟る。
ギョッとしたのは、今まで確か自分のことを私、と言っていたスワンが突然「俺」と言い出すセリフ。“すでにオデットは俺に嘘をついていた”。原文がどうかまで分からない。けれど、先ほどの、普通なら耳が痛いセリフも、一応下手下手に出ている様子が伺える。突然、下手ではなく上から目線に変わった、と思った。
スワンが失望した話は2巻であり、1巻では2人はすでに夫婦。一体何が・・。「失われた時を求めて」3巻に突入していく。(こっちが主題か?熱い!)
「私」の恋
主人公「私」については、まだ幼い頃の恋のエピソード。“ノートというノートのあらゆるページに、(好きな人の)名前と住所を際限もなく書き付けていた”。子供の頃、好きな人の名前書いてたのを思い出す笑。
こう続くところが、面白い。
ジルベルトは、スワンの子供。好きな子の父親であるスワンに近づきたいと思い、仕草を真似するエピソードは可愛らしい。そして、“とくに願ったのは、スワンと同じように頭が禿げることだった”。なぜに?
1・2巻で調べたワード
・貴族とブルジョワ
19世紀後半のフランスが舞台の本作。貴族に対し、ブルジョワは一般の市民階級。作中の貴族vs市民の構図も読みどころ(らしい)。これまでに確認した対比は、1巻では散歩コース、スワン家の方(ブルジョワ)とゲルマントの方(貴族)。2巻では前半のサロン(ブルジョワ)と後半のサロン(貴族)。
・スノッブとモーブ色
どちらも頻繁に出てきた言葉。スノッブを調べると、見栄張りや俗物根性と出てくる。いまいちピンと来ないので、自分の中で「おべっか」としたらスンと落ちた。モーブ色は、トップ画像「岩波文庫表紙」に使われている色を見て頂きたい。わざとなら熱い!
・空前の日本ブーム
作中に日本文化がチラホラ登場。水中花・菊・提灯・庭師、など。水中花って何?水の中に入れると開いて花などの形になる玩具とある。あまり馴染みはないけれど、縁日で見られる?菊は桜とともに日本の国花。天皇家の紋章、忘れていたがパスポートも菊の花。
・ジガバチの生態
子供が新鮮なエサを食べられるよう「獲物の脚の神経だけを動かなくし、他の生命維持機能は残しておく」という驚異的な生態が書かれていた。本文には、面白おかしく?解剖学を援用し、とあったが、一体どうやって。気になって調べた。どうやら神経を麻痺させる毒針を使うらしい。
いや、長くなってしまった。
すでにかなりの字数なので、いつも書いている「お気に入りのライン」を入れる場所がない。かつ、ここに書いた以外も好きな箇所はあったのだが、この先もお気に入りはどんどん増えるであろうし、長くなりすぎるだろうから、自分好みは<別の投稿>にまとめたいと思っている。
岩波文庫100冊チャレンジ、残り65冊🌟
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