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岩波文庫チャレンジ36&37/100冊【失われた時を求めて3・4巻】


読む気力が失せた時

前回の投稿から3ヶ月あいてしまった・・。

2巻を読み終えてすぐに読み始めた3巻。自分なりに楽しく読んでいた。だからといって出てくる会話のやり取りには難しいものもあり、完全に話について行けるわけもなく、なんとなく話の筋を追っているだけの箇所もあった。

巻末の訳者あとがきは参考にいつも読んでいた。理解の足りない所を補うためや、新たな視点を発見するため。ところがこのあとがきの中に、痛い図星が・・

「さわり」だけを拾い読みするだけで満足し(中略)、どのように読もうと自由であるが、そのような読書では(中略)抽象的考察がつづく箇所には歯が立たない。

ぐさぐさぐさっ

まさに「そのような読書」をしていた「と思った」自分は、1人で勝手に傷ついた・・

楽しく読んでいたつもりでも、醍醐味を味わえていないのでは、読む意味がないんじゃないか。そんな風に思えて、しばらく読む気力をなくしてしまった

読む気が失せてから、これまで読めていなかった、たくさんの他の本に手を伸ばし、数えてみれば、飢えていたかのように約50冊。

好きなだけ読み散らかしたおかげである程度満足したのか、また続きを読む気になれた。嫌な事は時が解決してくれるとはよく聞くけれど、3ヶ月という期間がリハビリにちょうど良かったのかもしれない。

兎にも角にもチャレンジ再開することができてホッとしている

無事に4巻まで読めたので、続きの感想を置いていく。久しぶりに3巻をドキドキしながら見返していたけれど、読了後ほど傷付くような事もなく、勘違いだったかもとさえ思うのだった・・。

あとがきでよく言われている事で、本作はストーリーよりも精神にドラマがある。それはよく分かるし、個人的にキャラクタードリブンの作品が好きだ。だけど訳者と同じレベルで全部の会話が分かる訳がないではないか!と開き直った。ただ、悔しいので3巻は再読リストに追加している。

そして再開・印象的なシーン

それぞれの巻の主(と思える)内容
3巻:「スワン結婚の理由、結婚後の変化」と「おやつの会」
4巻:「バルベック夏のバカンス」と「花咲く乙女の一団への恋」

3巻はスワンの結婚がフォーカスされるも、「結婚した時にはもはや愛していなかった」「愛さなくなり、相手を怖がる必要がなくなったら、苦しみの仕返しをしてやろうと言う願望、別の女を愛するようになった。恋心の消滅とともに愛していないと誇示する気持ちも消滅。苦しめられた当時は、いつか他の女に首ったけなのを見せつけてやろうとあれほど願っていたが、今やこの新たな恋を妻に感づかれないようたえず最新の注意を払うようになっていた。」・・生々しい・・

欲しいもの(人)を手に入れてしまうと欲は消えてしまう。スワンの場合、結婚と幸せは結びついておらず、いつの間にか別の方向へと興味が向き、付き合う人も変わってしまう。

結婚とは?

エリートがこのように、俗悪な相手(教養の欠落・知性のお粗末さ)に隷属するのが多くの夫婦の掟

俗悪な相手とは、結婚相手オデット

結婚とは??

3巻でもう一つ印象的なのは、ジルベルトへの恋「顔さえ想い出せなかった」「相手を愛していなければ、普通は動かないように固定できる。ところが愛しいモデルはその反対に少しもじっとしていなくて、ピンボケの写真しか撮れない。」

好きな人の顔が想い出せずピンボケになる、果たしてそうなのか。好きが高じるとじっとその人の顔を見れないという経験はあるが、そういう事なのだろうか。なんか新しい視点。

この初恋は「私」が意地を張って不機嫌な態度をとり続けたために、不完全燃焼で終わる。相手の注意を引こうとする意地悪な行為は、好きの量が相手と同等以上なら成功する可能性もあるかもしれないが、好きの量が相手の方が少なければ、単なる嫌味な奴としか映らず、作戦は失敗に。相手の心をテストしたい、思春期の?恋愛あるある?

いずれにしても「私が考えるべきだったのは、別のジルベルトつまり現実のジルベルトは、もしかすると、心の中のジルベルトとは全く異なる存在であることだった」というセリフ。作中色々な箇所に散りばめられている、心に思い描く理想像と現実の姿、その乖離。

言われてみれば当たり前と思う事ではあるが、そこは文章の力、魅力がある。

人生の明暗の分かれる状況において、恋愛に絡んで生じるどんな出来事であろうと、その1番良い対処法は理解しようとしないことである。理屈に合う説明を探し求めるより、むしろ運命(と考える事)

これは好きな箇所

4巻、バルベックでの(羨ましい、眩しい)休暇シーン。乙女の一団を「花咲く」乙女と表現したり、集団の中の特定の誰かを好きになるのではなく、その乙女集団をポリプ母体と表現して、全員好きだと言ったりする。(全くのこの野郎)

あとがきで気付かされた事だけれど、副題の「土地の名ー土地」というのは夢想と現実の乖離を意味していてる。

理想と現実というテーマ以外にも、人の精神や人間ドラマを深く観察した表現は多く登場。下以外にもたくさんあると思うが、いちいち真理をついていると思わざるを得ない。

・難事をこなせるものが、必ずしも些事をこなせるとは限らない
・人は一度やった事は際限なく繰り返す

フランスのバカロレア

もう一つ個人的に注目したい箇所。4巻P.574にその一例が垣間見れる。フランス(プルースト出身地)にバカロレア試験なるものがあることを先日別の本で読んだ。

哲学試験の事だが、テーマに沿って自分の考察を深めるということではなく、「型」に当てはめながら授業で習った知識や読書で学べる事を総動員して回答する小論文のような試験をいう。「型」にはめる事は、採点のしやすや以外にも論理展開の方法が身につくメリットもある。

4巻では「◯◯が◯◯の不評を慰めるために◯◯に書いた手紙」や「◯◯が◯◯宛に欠席したことをいかに残念に思うか」を想像して記せとして登場。先日読んだ下の本は高校卒業試験のバカロレア、本作は中学の内容のため全く同じではないにしろ、プルーストの一端が分かるようで面白かった。

*「バカロレアの哲学」は本試験を受けたい人、小論文を書く人にはおすすめ

乃木の15分

最後は、3巻に戻って「乃木の15分
「当を得た引用のなせる技」として、日露戦争の旅順要塞攻略での乃木希典のセリフがある。「勝利は相手より15分だけ余分に苦しみに耐えられるほうにあり」坂の上の雲を読んでいると、乃木将軍の印象はだいぶ変わってしまうけれど、当時の英雄は第一次大戦時のフランスで頻繁に引用されたとある。

本作内容とは直接関係ないのだが、こんな風に引用されているのを読むと、日本のことを知らないのは日本人だけ・・というどこかで聞いたようなセリフが頭に浮かんだ。

久しぶりのアウトプット、稚拙感漂うにも関わらず・・ここまで読んでくださった方には感謝しかありません😌

岩波文庫100冊チャレンジ、残り63冊🌟


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