岩波文庫チャレンジ38&39/100冊【失われた時を求めて5・6巻】
前回一つ壁を乗り越え、5・6巻は順調に読み進められた(少し薄いしね)
主な物語
・5巻、ゲルマントへ引越、兵営ドンシエール訪問
・6巻、ヴィルパリジ夫人のサロン、祖母の衰弱
5巻読みどころ
ストーリーとしての主な内容は上の通り。ドンシエール訪問、サン=ルー戦術談なども良いけれど、読みどころといえば次の4点になるのではないかと思う。
①擬人化ホテル
②音と視界
③睡眠と夢
④祖母との電話
全部良いので、一つずつおさらいしたい。
①擬人化ホテル
ホテル全体が「まるで生きもののように感じられた」「この住まいは、部屋の集合体であるとはいえ、人間の集まりと同じように生命を備えた実在」であるとして、次のような表現が出てくる。
こういった想像の世界は、だれからも裏切られる事のない真に純な世界。だからといって想像の世界に生きることはできない。この物語の主人公「私」にはたくましい想像力があるように思う。
②音と視界・・理解を頑張った節
「懐中時計のコチコチという音が聞こえた」から展開される音と視界の関係。
うむ、ここまでは分かる。後述されるように「音もなく動く物体は、生きているかと思える」のである。
難しいのは次。最初読んだ時は「へ?」だったが、なんとか理解したいと思い、何度も何度も何度も何度も読み返した。
現在の自分の理解では次のように読んでいる。「想像力のたくましい私」を念頭に置いているので、違う読み方の可能性もある。あくまで個人の見解(笑)
誰かを愛した時、騒音(例えば愛する人が私でなく、他の誰かを好きなのではないかと疑って不安になる)が止むのを願うのではなく、自分の耳を塞ぐように振る舞うべき(不安を抑えるべき)は、愛する外部の存在ではなく(愛する人にどうこうして欲しいとか思うのではなく)、その存在のせいで苦しむわれわれの能力(愛する人のせいでたくましくなる想像力という能力の削減)ではないだろうか。
ゼーゼー・・疲れる
③睡眠と夢・・理解を諦めた節
続いて音が止んだ時の考察へ移っていく。
これは経験ある。分かる分かる分かる。
ふむ、そんな風に思ったことないけれど、言わんとすることは分かる。分からないのは次。
魂の復活が分からない・・えぃい!諦めたワ
④祖母との電話
当時貴重だった電話から不吉な未来を予期する「私」。そして物語はそのように進行していく。「こんな近くで声がするからには現存するというほかないが、ー実際には遠く引き離されているのだ!だがこれは永遠の別離を予告しているのではないか!」
今では当たり前の電話。普通なら距離が近くなったと思えるところ、その物理的な距離から永遠の別れを想起する、逆の発想。
ここで、音だけの世界、視界から解き放たれた世界(顔を譜面に例えるのが面白い)では普段の圧力から解放されて、「祖母と私のお互いの愛情」を認識、「祖母からゆっくり滞在するように言われると、私はなんとしても帰りたいという不安な欲求に駆られ」て急遽帰郷する。ちょっと温かいエピソードでもある。
ここまで紹介してきた①〜④、こういった精神世界は面白く読めても、実は普通の会話になかなかついていけていない。そう。何気ない会話が難しい。当時の社会背景や人物を知らないと味わいきれない(気がする)。
6巻、二面性
先ほど5巻読みどころとして堂々4つ挙げたが、ここで白状すれば、これは全て訳者あとがきを読んで、はたと認識し、読み返した箇所である。
読んでいる最中にほぉ〜とは思うが、「今ここ」がプルースト作品の要ですよ!と知って読むのとでは読み方が違う。じっくり集中して読める。なぜなら難しい会話の時は、読みとばしペースだから。
それならいっそ、あとがきを最初に読んだ方が二度読まなくて良いじゃないか、と思い至り、6巻はあとがきに最初に目を通した。
あらかじめ難しいとわかっている「普通の会話」を読み下そうと真剣に時間を使うこともなく、サクサク進んだ。
6巻では人の「二面性」なるものに焦点が当たっているように思える。何度かそういったシーンはあったかもしれないが、ここではっきりと読み取れる。
このような二面性は、当時「フランスの上層から下層までを二分していたドレフュス支持派と反ドレフュス派というふたつの潮流の波紋」を通しても現れる。
実際に自分が思っている事と、周囲の人にこう思われたいという演出した自分の思う事が描き出される。
実際には二面性というだけでなく、大抵の人には複数の自分があるように思う。その場所や会う人によって少なからず演じ分けている。しかしそれも全部ひっくるめて今の自分であり、社会で生きていくという事なのだと思える。
ただそうではなく、自身を貫いて突き抜けている人も少数いるように思う(一面しか見えない芸能人を例にするのもどうかと思うけれど、GACKTさんとか、本当にすごい。使い分けているようには思えない)。
さて、
残りのページは、個人的に面白みを感じた5点について調べた事に割きたい。
ついでというわけではないけれど、前回軽く触れた「バカロレア試験」が6巻で満を持して本文に登場していて嬉しかった(P.139)。
①9階級の天使
②エクス・ニヒロ
③世界の七不思議
④樽の底で暮らすディオゲネス
⑤画家バーン=ジョーンズ
①9階級の天使
作中に出てきたのは、ケルビムとセラフィム。9階級とは?
上位・中位・下位と三隊ずつに分かれ、上位は神に最も近い存在で、中位にお告げを伝え、中位は下位に、下位は人間に伝える。したがって、下位三隊が人間に1番近い存在。
上から順に、
上位:セラフィム(熾天使)、ケルビム(智天使)、スローンズ(座天使)
中位:ドミニオン(主天使)、ヴァーチュース(力天使)、エクスシア(能天使)
下位:アルケー(権天使)、アークエンジェル(大天使)、エンジェル(色々な天使)
ちなみに4大天使(ミカエル・ラファエル・ガブリエル・ウリエル)はセラフィム階級らしい。
②エクス・ニヒロ
本文には「無から生じた」としてエクス・ニヒロなる言葉が登場。かっこいい響き・・
ラテン語で「存在しないものから」または「無から」という意味。キリスト教やイスラム教などの宗教において、神は無から全てを創り出したという教え。
③世界の七不思議
本文には「フェイディアスが純金で鋳造したとされるオリンピアのゼウス像」とある。他になにがあったっけ?と思って調べてみたが、長くなるので詳細は割愛。(クリックでWikipediaにリンク)
ギザの大ピラミッド、バビロン空中庭園、エフェソスのアルテミス神殿、オリンピアのゼウス像、ハリカルナッソスのマウソロス霊廟、ロドス島の巨像、アレクサンドリアの大灯台
④樽の底で暮らすディオゲネス
「自分の暮らす樽の底で、ディオゲネスよろしく人間を求めているのだ」白昼にランプをともして歩いている理由を問われて、「人間を探している」と答えたのが有名
なにその面白い人、と思って調べたのがこちら。
紀元前412年頃、古代ギリシャの哲学者。全ての文明を放棄し、樽を住居として犬のように生活した。キュニコス派(kynikos)と呼ばれ、はギリシャ語で「犬のような」という意味。現代では「皮肉、ひねくれ」を意味するcynicの語源になっていて面白い。
ひねくれエピソード「プラトンの雄鶏」で知られる故事の元になった人。
プラトン「人間とは二本足で歩く動物である」と定義
ディオゲネス「ではニワトリも人間か」
プラトン「人間とは二本足で歩く毛のない動物である」と再定義
ディオゲネス(羽根をむしり取った雄鶏を携え)「これがプラトンのいうところの人間だ」
その後プラトンは、さらに「平たい爪をした」を定義にを付け加えた。
⑤画家バーン=ジョーンズ
作中の紹介:後期ラファエル前派を代表する画家。ギリシャ神話やアーサー王伝説などを素材にする幻想的な画面が特徴。
「魔法にかけられるマーリン」が掲載されていたが、「アヴァロンのアーサー王の眠り」や「聖杯堂の前で見る騎士ランスロットの夢」などの作品もあり、アーサー王伝説を読んだ人にはたまらない。
(補足)ヨーロッパの貴族階級
公・侯・伯・子・男(こう・こう・はく・し・だん)の順
以上
岩波文庫100冊チャレンジ、残り61冊🌟
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