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漱石も鴎外も注目!イプセン【人形の家】岩波文庫チャレンジ64/100冊目

2023年末、鴎外に再挑戦したら漱石が読みたくなり、初期三部作などを読んだ。そのどちらにもイプセン(イブセン)が出てきたのを覚えている。

という事で、名前だけ知っていた「人形の家」がチャレンジ64冊目。このようにして次から次へと興味の対象が移っていくのは楽しい。

内容を知らなかった自分には衝撃作品だった。もちろん面白い!戯曲だから短いしサクサク読める。


あらすじ(ネタバレあり)・・読みたい人は飛ばしてね

舞台はヘルメル一家。晴れて銀行の頭取になったヘルメル(夫)と、それを支えるノーラ(妻)まるで新婚ホヤホヤの様なアツアツカップル。子供も3人いて、何不自由ない幸せな家庭

ところが、夫ヘルメルの病気の治療費を賄うため、過去にノーラは内緒で借金をしていた事が分かる。夫には父親が援助してくれたと嘘をつき、自力でお金を調達した事は隠し通そうとする。

借金の証文には、本来父親がサインすべき所を、当時重病だった父親に心配かけまいとして、ノーラ自らサイン、つまり偽造

死にかけている年寄りの父親に、心配をかけずにすます権利が娘にないはずはないでしょう?夫の命を救う権利が妻にないはずはないでしょう?法律の事はよくわかりませんけどね、そういう事は構わないってどこかにきっと書いてあるはずですわ。

ところが、偽造した事がお金を借りていたクロクスタにバレて、脅迫を受ける。

結局は友クリスティーネの助力で、偽造問題はなかった事にされ、問題は解決するのだが、ノーラが内緒で金を借り、しかもサイン偽造で脅迫を受けていた事を知った夫ヘルメルは激怒、優しかった態度は豹変

黙れ!お前の親父の無責任なやり方を、全部、お前は受け継いだんだ。無宗教・無道徳・義務感もない。

お前は俺の幸福をめちゃめちゃにしちまった。俺の未来をすっかり台無しにしちまった。

惨めな境涯に陥って、俺は破滅するんだぞ、それもみんな無責任な女のせいだ!

夫の本心を知ったノーラは、夫が愛したのは自分ではなく、自分の人形であった事を悟る。いかにこれまでの自分は「人形を演じて」いただけだったか。本来の自分を取り戻したい。夫と別れ、自立を決心

可愛い妻を演じるのはやめて「あたしは、何よりもまず人間よ」と言い放つ。

舞台は最後、扉を閉めて出ていく所(ドンッ)で終わる。


ヘルメルの豹変ぶりも驚いたが、罵倒され続けたノーラの態度が一変している事がセリフから伝わってくる所は、さながら映像を見ている様だった。

物語始まりのアツアツな場面と最後の対比。登場人物の心境の変化だけでなく、マカロン仮装舞踏会も、暗示になっていて面白い。

独立した女性・強い女性

ノーラも強いが、クリスティーネも相当強い。

印象に残るのは、自立を決心した強い女性・ノーラの姿だが、友としてノーラを救ったクリスティーネも相当強いと感じた。

あらすじでは触れていないが、クリスティーネはノーラのために、自らを犠牲にしたようなものではないか。いくら友を救うためとはいえ、一度別れた男と再び一緒になれるものだろうか・・こちらの犠牲の方が大きいような気がしてならない。

心も体も、自ら選んで最後自由になったノーラと、自ら選んで心も体も束縛を受けることになってしまったクリスティーネ。まぁ・・独身の自由と家庭での束縛を比べるのは違うかもしれませんが(笑)。

イプセンは、単に強い女性というだけでなく、ノーラのセリフに代表されるように、世間体に無知な姿も描いている。

独立して男性と同じ社会で生きて行くには、社会の責任も果たす義務がある

漱石や鴎外へ与えた影響とは

漱石・鴎外だけでなく、明治の作家を立て続けに読んだ事もあって、新しい女性像・自立した女性像という表現によく出くわした。

森鴎外「青年」より、漱石がモデルの人物の講話にこんなのがある。

イブセンは初め諾威の小さいイブセンであつて、それが社会劇に手を着けてから、大きい欧羅巴のイブセンになつたといふが、それが日本に伝はつて来て、又ずつと小さいイブセンになりました。なんでも日本へ持つて来ると小さくなる

「女性の権利がなかった時代に、男性と同等の権利」を主張したイプセンの思想が、当時文化的に途上国だった日本では、なかなか受け入れられなかった事を指摘した言葉だという。

漱石「草枕」にも「人形の家」は登場する。

独立した強い女性というのは、当時はまだ一部の文化人だけが認めていた新しい概念。鴎外や漱石の作品には、こういったニュータイプの女性が登場している。イプセン自体も作品で引用されており、どれだけ影響を与えたかをよく知れた。

こういう女性像が好きだからこそ、こういう作品は好きなのだろう、と思う。

岩波文庫100冊チャレンジ、残り36冊🌟

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