ひんやり、ノスタルジー


あの日は確か、まだ私が高校3年生で、
7月半ばの期末テストの前。
確か、部活動休止期間に入る最後の部活の日。


彼の汗は一際、私には輝いて見えていた。

肌に張り付くような、梅雨明けした夏の湿気と、少しだけ早めに打つ心音から出る汗。

私も彼も最後の夏。

それがまた、私の心をしくしくと痛める。


昇降口から続く、校門までの道で、
部活を終えた彼の背中を見つけた。

ほんの少しだけ早歩きをして、通り過ぎようとして、呼び止められて、振り返る。

「なぁ、一緒に帰ろ」


頷く頭の中で、わんわんとその言葉が響いた。


2人並んで歩く帰り道。

2人の間に流れる『まだ、もう少し』の空気。

どちらからともなく、駅前広場の階段に座り込んだ。

「ちょっと待ってて」と言った彼が、走って戻ってきたその手には、アイスが2つ、コンビニの小さなビニール袋に揺れていた。


氷の混じった、懐かしい味のする、そのアイスに、願掛けをする。

『もしも、当たりが出たら』

小さく小さく、かじりながら、口の中で溶かす。


近くもない、遠くもない
微妙なこの距離感は心地いい。

あと少し、でも、あと少しだけ
近くに近づけたら。

真夏の夕暮れに光る月。
ぼうっと、光の輪ができる。


あたりくじが、見えるまであと一口。


梅雨明けの生温い空気のこの時期になると、思い出す、淡い日々。






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