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クライアントワークの中でユーザーリサーチの目的を模索した話

この記事は、UXリサーチ/デザインリサーチ Advent Calendar 2022参加記事です。
これまでの取り組みの振り返りとして書いてみました。

はじめまして、インテグリティ・ヘルスケアというメディカル・スタートアップでデザイナーをしている酒井です。

私が所属しているインテグリティ・ヘルスケアという会社では、オンライン診療やオンラインでの疾患管理機能を有するYaDocというプロダクト/プラットフォームを活用して、顧客である製薬企業とともに患者さんをサポートするプロダクトを開発・提供しています。

デザイナーという肩書ではありますが、UIデザインだけでなく、ユーザーリサーチも担当しています。
また、案件によっては、製薬企業とともにプロダクト開発をするということで、UXコンサルのような立ち回りをすることもあったりします。

このnoteは、個別のプロジェクトのノウハウのシェアではなく、私の失敗体験と、その失敗体験を受けてどうやったらうまくいくかを模索していった過程、そこからの気づきをまとめたものです。
今まさに壁にぶち当たっている方には何かしらのヒントに、同じような経験をしたなという方からは共感いただけると嬉しいです。

製薬企業のDXトレンドとなかなかうまくいかないアプリ開発

先にも触れましたが、所属会社の主な顧客は製薬企業です。
ご多分に漏れず、製薬業界にもDXの波は来ており、各社が積極的にデジタル施策に取り組んでいます。
どのお客様も、薬の価値だけではなく、より患者さん目線に立ち、患者さんに寄り添った施策が必要だということで、「患者中心」をスローガンにアプリなどのデジタルソリューションを通じて患者さんの治療満足度向上を目指しています。
そんな背景もあり、患者理解をするために特定の疾患を対象とした患者調査の需要は非常に高まってきており、どの企業も積極的にリサーチを行っています。
しかし、「患者理解を頑張ってやっているが作ったアプリがあまり使われないんです、、」といった相談は年々増加傾向にあります。
そんな顧客の患者調査のやり方や結果を共有してもらうとこんなやり方をしていました。


患者さん向けのアンケート「これまでに医師に相談しにくいと感じたことはありますか?」
アンケート結果「ある70% ない30%」
担当者「よし、患者はやっぱり先生と相談しにくいから相談しやすくなるためのアプリを作ろう!」

このようにアンケートで課題のある/なしを確認していたり、ユーザーボイスをそのまま機能化していたりと、UXデザインやHCDをバックグラウンドとしている私としては首をかしげたくなる状況でした。

所属会社内でのサービスデザインやUXデザインへの関心の高まり

そんな中、あるシステム開発のプロジェクトで、ユーザーリサーチをプロセスに取り入れシステムをデザインしたことがありました。「患者さんは実はこんな問題を抱えていて、この問題を解決するためには、こんな新しい機能が必要なんだ!」という説明とともに社内にプロトタイプを共有すると、これまでにはない機能で、新しい方向性かもしれない!と社内で注目を集めるようになりました。

「これは実はきちんとユーザーリサーチに基づいてデザインをしたからなんですよ。」
ということを社内にナレッジシェアをしていくと、

「たしかにそれは大事だ」
「顧客からもユーザーリサーチのニーズはあるんじゃないか」

という意見もあり、ユーザーリサーチを盛り込んだ提案、所謂デザイン・コンサルティングを積極的にやっていこう、という方針になっていきました。

やがて、デザインチームとセールスチームが協業し、ユーザーリサーチを取り入れたデザインプロセスを整理・定義し、このプロセスに則した開発プロジェクトを顧客に提案するようになります。

顧客からも共感を得ることができ案件も受注

セールスのメンバーには、リサーチをしないと結局使われないものになってしまう、こういうデザインの考え方や進め方を大切にしていきたい、ということをインプットしつつ、顧客への提案内容のサポートを行っていきました。

「こういうアプリを作りたいと思っているんだけど」という問い合わせや相談に対しても、アプリで解決しようとしている問題は本当に患者さんが抱いている問題なのか?という問いをぶつけ、改めてゼロベースで患者さんの理解をしませんか?という提案しました。

受注段階では、セールスメンバーから顧客の反応を聞くと「それは確かに重要だ、是非やりましょう」といった提案内容への共感や良い反応をいただくことも増え、ユーザーリサーチを取り入れたプロジェクトをいくつか受注することができました。

プロジェクト開始後に起きた認識齟齬

プロジェクトキックオフ後、ユーザーリサーチの詳細な設計を行い、改めて今回行うリサーチの目的をすり合わせます。

  • 今回のリサーチの目的は患者さんが抱いている問題を明らかにすること

  • そのために患者さんが診察日にどんな行動をしているのかを明らかにすること(診察に向けてどうしているかや症状があったときの対処、薬を飲むときにどうしているか、など)

  • 調査結果を分析し、解くべき問題を再度定義すること

ユーザーである患者さんの行動に焦点を当てて患者さんが抱えているペイン、解決すべき問題を定義しましょう、モノの検証をするのではなく患者さんの理解を行います、と説明をしました。

すると、顧客からは「作ろうと思っているアプリを使ってくれそうかを聞いてほしい」と要望を受け、改めてリサーチの目的ややり方を再度設計することになりました。

これと同じようなことが1つの案件だけでなく、何件か続くことになります。

提案時にも、改めて患者さんの問題を定義しにいこうということは伝えているし、それに提案内容にも共感していた。これまでのリサーチのやり方とは考えが大きく違うから理解しにくいのか?
そう考え、理解してもらいやすいように、普段顧客がやっている調査とのアプローチの違いを説明したり、より具体的な進め方を説明できるように資料を何度も作り直しては説明したりしました。

そして、何回目かのリサーチ目的のすり合わせのとき、認識のズレを感じながら思ったのです。


「あ、このタイミングでユーザーリサーチやっても意味ないわ」



顧客が今いるフェーズに合わないリサーチをやろうとしていた

そう思った私がやったことは、顧客である製薬企業がどのような流れで新規事業立ち上げをしていて、その中で患者さんに提供するアプリがどのようなものかを整理することでした。

製薬企業の事業構築の流れの仮説を可視化

これまで顧客とコミュニケーションをしていく中で得られた断片的な情報からフローを可視化しました。

製薬企業のビジネスの主軸は、もちろん薬を製造して販売すること。
そして、医師から処方される薬は、医師から処方してもらえるように先生の第一想起を獲得し、患者さんに適切に医師から処方され、患者さんが適切に服用してくれるようにするためにはどうしたらよいか、戦略を立てていく。
顧客内では、この戦略に則して患者さんの治療をサポートするためのアプリを作ろう、という意思決定までに、すでに何度も患者調査を実施しており、その結果を受けてアプリで解決したい問題を定義し、予算までつけ、そして問い合わせがきているのではないか。

あくまで仮説的なフローですが、この状況であれば確かに、リサーチの目的もすり合わない。顧客としては、「なんで既に決まったことを掘り返すんだ?」となるし、社内で改めて話を通さないといけない。そうなると「いやいやいや、そうじゃなくって…!」となるのも理解できます。

私が抱いた違和感や整理した顧客の事業構築の流れの仮説、その中で今まで提案していたリサーチがこのプロセスのどの位置づけられるのか、セールスメンバーとも共有しました。
そして、確かに根本に対しての問いかけとても重要ではあるのですが、まずは顧客の仮説である患者さんが抱える問題やアプリの機能を実現しましょう。そして、リリース後に、その仮説が正しかったのか、正しくなければなにが本当の問題なのかを、ユーザーの反応を見て検証するまでのプランを提案していきましょう、と社内に提案をしました。

ユーザーが抱える解くべき問題を探索するのは事業企画のフェーズで、顧客が求めているのは企画したアプリの検証だった、ということを説明

ただ一方で顧客が定義した問題が「本当に問題か?」という点に関しては、課題が残り続けます。
これに関しては、長期的な視点で、顧客への啓蒙活動や顧客から自社の見え方やブランディングを強化していかなければならない、ということも改めて伝えました。

【まとめ】適切なリサーチをするために、今どのフェーズにいるのかを捉えるのが大事

振り返って見ると、問題を探索する目的のリサーチと解決方法を検証する目的のリサーチではやることが全く異なることは理解していたものの、フェーズを捉えることへの意識が薄かったように感じます。

当然、フェーズが異なればリサーチの目的も大きく異なります。クライアントワークのデザイナーやリサーチャーにとっては、顧客の事業全体を捉えて、今どこにいるのか、どこに進もうとしているのかを見極めた上でのリサーチ設計が非常に重要だな痛感させられました。

また、私はこれまでいくつかのデザイン会社で同様にクライアントワークを行っていたのですが、そのときと比べると、コンサルティングやクライアントワークを1つのプロダクトとして捉えるという視点が大きく変わったなと実感しています。
この出来事を振り返ると、UXデザインやHCDの考え方にもあるように顧客(ユーザー)の反応を見ながら顧客理解を深め、どこに問題やニーズがあるのかを見出し、新たなソリューションの仮説を立てることができたと考えています。

新たな仮説も生まれたので、次のステップとしてこの仮説を検証をしていこうと思います。


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