こわい想い出

八話目

小さい頃、親が古い家を買って暮らしていた時期があった。
当時は子供部屋などなく、妹も含め親子4人で寝室で寝ていた。
若い頃の父親はいたずらが好きらしく、夜、僕や妹が寝る前に、ちょっと来いと居間に呼ぶことがあった。
そこには寝る前に顔にパックを貼り付けた母親がいた。
幼い僕は、母親の顔がなくなったと本気で泣いて怖がった記憶がある。

大人になって、妹に子どもができ、互いの小さい頃の昔の想い出話を語る機会があった。
僕がこの話をすると、妹も幼いながらに記憶にあったらしく、
あったあった。お兄ちゃんが泣いてたの覚えてる。私も訳わかんないまま、つられて泣いちゃったよ。
そう言われて、妹が泣いてたのは、母のあのパック姿を見て泣いた訳ではなかったのか。と今になって知った。
続けて妹はこんなことを言う。

私もお父さんにやられたことあるよ。
お母さんとお風呂に入ってるときにさ、お父さん、窓から顔出して、すごい怖い顔して覗き込んできたりしたことあったよ。

ん?
私の記憶では風呂場にある窓は、明かり取り用の横に細長い窓で、くもりガラスなので、覗こうとしても顔半分くらいしか見えないはず。
しかも風呂場があった場所は、隣地の境界の塀に近くて、雑草が生い茂っていて、子どもの感覚でも狭くて人が入るようなスペースがなかったと記憶している。
ましてや小さい頃は、母と妹が風呂に入っているとかは、だいたい父親は私と一緒に居間でテレビを見ていたように覚えている。

怖い顔ってどんな感じ?
私が聞くと、妹は、
うーん、具体的なことはハッキリと覚えてないんだけど、とにかく怖いって記憶だけ覚えてるんだよね。

ちなみに私はそんなものは見たことない。
そもそも、風呂場があった場所の記憶ははっきり覚えているが、そこで風呂に入った記憶が全くないのである。



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