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なぜどの世界史の教科書も「アテネ」と「スパルタ」しか扱わないのか?〜ポリスの与太話〜

こんにちは、皆さんは高校などで世界史を学んだことはあるでしょうか?
世界史を学ばれた方なら必ず通るのが「古代ギリシア」です。
少ししかやってない!という人も古代ギリシアというフレーズについては覚えているでしょう。

○アテネとスパルタ

古代ギリシアについて学ぶことはそう多くはありませんが、だいたいどの教科書にもこのようなことが書いてあると思います。

古代ギリシア人たちは、それぞれ都市国家(ポリス)を建設し、交流を行いながらもしばしば戦争を行った

皆さんは、この文から「ああ、なるほど。古代のギリシアには”ポリス”と呼ばれる都市国家が沢山あって、それらが色々な形で関わっていたんだ」と読み取ったでしょう。
世界史に興味津々の人なら「どんなポリスがあって、どんな人たちが生活していたんだろう?」と思われるかもしれません。
なんといってもポリスの数は大小200程度もあった! といわれていますからね。

それでワクワクしながらページを捲るとまず出てくるのが「アテネ」について。
古代ギリシアにおいて民主制をいち早く確立させ、デロス同盟の盟主となったポリスの雄です。そのポリスの大きさは現在の佐賀県ほどもあったと言われています。

なるほどな、と思いながら次に進むと待っているのは「スパルタ」というポリス。
全ての市民が「スパルタ式」という言葉が残るほど苛烈な訓練を積んでおり、軍国主義的な立場を貫いたポリスでした。
このポリスも非常に広く、広島県と同じくらい広かったと言います。

大抵の教科書では、ここでポリスの紹介が終わります。
あれ?2個しか紹介しないの?200あるって聞いていたんだけど、全体の1/100だけなの?と思うことでしょう。

うむ、ポリスを200個全部やるのは大変だから、その中からこれら2つだけをピックアップしてくれたのかな?
じゃあ、他の教科書はどうなんだろうか、と思って見てみると、なんと、どの教科書でも扱っているのは「アテネ」と「スパルタ」のみ。
高校履修範囲の関係でこれらのポリスだけに統一したのかな?と思って図書館などに調べに言っても、「アテネ」「スパルタ」以外の情報はなかなか出てきません。
これは一体どういうことでしょうか?今日はこの、世界史の勉強に関する与太話を紹介します。

○消えた真実

そもそも、「アテネ」や「スパルタ」などのポリスについて、今まで人々はどのように歴史を受け継いできたのでしょうか?
少しでもこのあたりの歴史を勉強された方なら、ギリシアの「暗黒時代」についてご存知なはずです。
古代ギリシアは、B.C.1200年頃から「暗黒時代」と呼ばれる「文字による記録が一切残っていない時代」が400年ほど続いており、突然アテネやスパルタの時代に突入するのでした。

しかも、暗黒時代に入る前の文明で用いられていた文字(線文字Aなど)は未だに解読されていないものさえあります。
古代の情報を得るというのは並大抵の努力では成り立ちません。

一体どうしてアテネやスパルタの時代から、しかも、やけに政治に関して詳細な記述がされるのでしょうか?
その鍵は、同じくギリシアの1人の天才にありました。

「アリストテレス」という名を聞いたことがあるでしょうか?
かのプラトンの弟子にしてアレクサンドロス大王の師を務めた古代の賢人で、哲学を中心とした様々な分野について著述を残しております。

彼は政治学にも長けており、なんと「アテネ」や「スパルタ」を含んだ158にも及ぶ国々について国制誌を記したと言われています。
しかし、これはローマとの争いの中で大部分が散逸してしまったというのです。
失われた知識は多く、この中に古代に存在していた様々なポリスについての著述も含まれていたようでした。
アテネについての記述も、実は一度失われています。

それではどうして現代にアテネについての著述が伝わっているのかというと、19世紀の末頃にエジプトからアテネに関する本(「アテナイ人の国制」)のほぼ完全なパピルス写本が発見され、解読されたのです。
これにより、古代ギリシア研究は大きく歩みを進めることとなりました。

なんで200個あるポリスのうち、2つしか扱わないのかがお分かり頂けたかと思います。
このように、古代においてはアリストテレスが政治史を中心として、多くのポリスを含む国々に関しての著述を記していたのでした。

しかし、戦火の中でこれらは大部分が失われてしまい、運良く現代にまで詳細伝わっているのが「アテネ」や「スパルタ」などの一部のポリスなのです。
なので、今の教科書では比較的研究がよく進んでおり、大規模な都市国家として君臨していた「アテネ」と「スパルタ」について取り上げられているのですね。

○まとめ

いかがでしたか?アテネ・スパルタ以外は「扱わない」のではなく「扱えない」ということが意外に思われた方もいらっしゃると思います。

このように、ちょっとした古代については歴史書が散逸しているために歴史自体が失われてしまうということもしばしばあります。
みなさんが「どうしてこれ以外については出てこないの?」と思ったことについて、もしかしたら、学びたくても学べない! 、そんな背景があるのかもしれません。
ひょっとすると、明日見ようと思っていた本やwebサイトも、明日には永遠に失われているかも……?
触れた知識は一期一会ですから、どれも大事に学び取るようにしましょうね。

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