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舞姫の主人公をぶっ飛ばせ!?〜森鴎外『舞姫』の与太話〜

「舞姫」という小説をご存知でしょうか?
森鴎外による作品で、主人公の手記から体験を追うという仕立てでできています。
文語体で書かれているので、高校生くらいにならないとなかなか読むのは難しいかもしれません。

あらすじを簡単に紹介しておきましょう。
主人公の太田豊太郎は日本帝国の官吏です。仕事の都合でドイツ帝国に留学することになり、仲間とともにドイツへやってきました。

ある日、豊太郎が下宿へ帰ろうとすると、見目麗しい少女がいます。
名をエリスといい、どうやら父の葬儀代が足りずに悲嘆に暮れているようでした。
豊太郎はその金を工面してやり、以後彼女と交際が始まります。
しかし、この交際を怪しみ、妬んだ同僚の讒言により、彼は官職の任を解かれてしまいました。

エリスと同棲しつつ、日々の生活費を必死で稼ぐ豊太郎。
やがてエリスは彼の子を身ごもることとなります。
この頃、友人の相澤に誘われてロシアを訪問、信頼を得ることに成功し、復職の目処も立ちます。友の忠告もあり、ここで豊太郎は日本へ帰国することにしました。

しかし、心配するエリスに彼は真実を告げることができず、心労で人事不省に陥ってしまいます。
その間にエリスは相澤から彼らが日本へ帰国する旨を伝えられますが、ショックのあまりに発狂してしまいます。
「もう治療の望みはない。」そう告げられたことに心残りを感じながらも豊太郎は日本へ帰国します。
相沢謙吉が如き良友は、世にまた得がたかるべし。されど我が脳裡に一点の彼を憎む心、今日までも残れりけり。」(多分、「やれやれ、いい子ちゃんの友達を持つと辛いぜ」というような意味。反省の色ゼロ)というつぶやきを最後に物語は終了する。

とまぁかなり暗い話です。
あらすじをもっとあけすけに言うならば、「日本から留学したエリート豊太郎くんが留学先のドイツで美人の女の子を妊娠させるが、友人からの忠告もあり、女を置いて一人日本に帰国する。なお女はショックのあまり発狂してしまった」という話ですね。酷い物語ですね
今日日なら、新宿歌舞伎町あたりで聞きそうな話ですが、当時はこれが大ヒットしました
ちなみに太田豊太郎くんは森鴎外本人がモデルでは?という説が濃厚です。

さて、ここまで読まれてどんな感情を抱かれたでしょうか?
僕は「豊太郎最低だな!!お前のようなやつは地獄で舌を引っこ抜かれて死んでしまえ!!!」でした。
なんでかって、こいつ、最後のつぶやきをみるとわかるように、全然反省してないんですよね。

それで、これが出された当時にも僕と同じような感情を抱いた人がいました。
まあ、思うだけなら良いのですが、クリエイティビティに溢れた人がいるもので、なんと「太田豊太郎を主人公の無頼漢がボッコボコにする話」を小説として書いた人がいたのです。
今日はそんな、小説『舞姫』にまつわる与太話を紹介します。

○太田豊太郎ボコボコ事件

その作品のタイトルを「蛮カラ奇旅行」といい、作者の名前は星塔小史といいます。
作者の詳細は不明ですが、どうやら東京専門学校(今の早稲田大学)の卒業生とのこと。

「蛮カラ奇旅行」の主人公は島村隼人といい、正統派?の蛮カラ(身なりや言動が粗野で、すぐに手が出てしまう豪快な人)です。
とにかく荒っぽい人だと思っていればよいでしょう。
で、そんな喧嘩っ早い性格なので、腕っぷしがメチャクチャに強い。

島村くんは柔術の達人で、打撃も、武器の扱いまで何でもござれのケンカ超人。
とにかくハイカラ(カッコつけてスカしたやつ)が大嫌いなやべーやつです。

それで、この小説のストーリーですが、「島村くんと仲間たちが世界各地を旅しながら気に食わないハイカラ野郎や悪いやつを手当たりしだいにぶっ飛ばす」というそれだけです。

そもそもなんでこんな発想に至ったかですが、島村くんはある日「ハイカラとはなんだろう?」と考えました。
島村くんの基準でいうと、ハイカラというのは「西洋人のマネをする人」でした。
今でいうと何でもかんでも「インスタセレブのマネをする人」とか「K-POPアイドルのマネをする人」くらいですかね。

で、どうにかしてハイカラを絶滅させたい島村くんですが、彼はひらめくのです。
ハイカラが西洋人のコピーなら、大元の西洋人を全員殴り倒せばハイカラは全員いなくなるのでは?
相当に狂った結論ですが、彼は旅に出ることにしました。
気に食わないスカした連中を皆殺しにするための旅に

何を言っているのか分からないと思いますが、こういう小説なので我慢してください。
もう終わるので。

それでまぁ、世界中を回って島村くんと気の合う仲間たちを集めながら、気に食わない連中をボコボコにする旅をしていたわけですが、終盤に日本に帰ってきます。
そして、太田豊太郎がモデルになっていると思われる「織部欽哉」というエリートの青年と揉めるのですが、そこで織部くんをやっぱりピシャリとしたたか殴り飛ばします。
そうすると、織部くんは当然ながら茫然自失とします。そして、なぜかエリスの病気までいい感じに治ります

……とまぁこんな感じで、この後にみんなでバンザイして終わるという、頭のネジが3本くらい取れている感じのする、非常にスピード感あふれる小説なのですね。
ちなみに僕は好きですよ、この疾走感と言うか、誰もが何も考えていない感じ

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ちなみにこの小説を紹介する、こんな本も売っていたりするので、こちらも是非チェックしてみてください。
「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本

○まとめ

いかがでしたでしょうか?今日は「舞姫」の主人公太田豊太郎がボコボコにされる痛快アクション小説が存在するということを紹介しました!
まぁ創作なので文句を言っては仕方ないのですが、それでもこういった形でフラストレーションを発散できる人なのだから、蛮カラとはいってもそれなりに知性に溢れた人が書いたのではないかなと思います。
相当昔ですから、もう作者は存命ではないでしょうが、存命であるのならぜひ話を伺ってみたい限りですね。