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急行列車が轟音とともに通りすぎる

急行列車が轟音とともに通りすぎる

まもなく扉が閉まり
電鈴の余韻のなかを普通電車が動きだした

レールの長さは心臓の鼓動
拍動を打ち、急き、眠りにおちてゆく

耳が伝えるその単純なループ

客車の揺れはゆりかご、そして朽ちる棺
墓下の眠りの絶対沈黙に埋もれてゆく

背と尻が伝えるその単調な流転

運転手のうしろのガラスを軽くたたいた
彼は影、手招きし、運転席に私がすわる

カーブの先にあらわれたトンネル
軌道を行く安心が計器や表示灯を融解させる

黒いつむじ風が巻きあがりレールを切り曲げる
立ちあがった私をどおと高く放りあげる

暗い星を取り巻く薄い蒼き空が
そっと受けとめ狭い大地へもどす

円を描いて落ちつつ駅を探す電車に
雷鳴が血色の炎を吹きつける

魂が黄色い地に散り
篝火となってただよう

白い水が魂をひろい
洞窟の闇をゆく河にひとつまたひとつ流してゆく

無くなる河の先は滝
夜に輝く都市の上に落流し、前が下となる

電車は無事だが
運転席は映画館 明滅する光に酔う

これは暖かい座席が見せる夢
速度をあげた電車は翼をもつ怪鳥

鳥はガラスの林に突っ込む
銀の欠片や焼かれた牛があたり風防が砕け散る

鳥は鉄石の山を翼で叩き
青い数字の壁に穴をあけた

操縦席をみたした紙束を赤い銑が焼き尽くし
燃え舞う剣が鳥の骨すべてを切り刻んだ

骨の数多の隕石が夜の雲を微かに照らし
火と蒸気をあげる腕を持つ暗い太陽に飛び込んだ

有機物はすべて煤となり
裁きへの恐れ、塩基配列の記憶も失われた

私は私が夢をみていることに気づいていた

驚くことはない、すぐに目をさますだろう

電車の扉がシュンと閉まり
運転士のかけ声とともに普通電車が動きだした

【AN0CDB0】

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