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思い出の詰まったマクドナルドが閉店した

30年の歴史に幕。通い続けた近所のマクドナルドが、昨日閉店した。

ぼくはこの街に引っ越してきて、4年間お世話になった。クルーの皆さんはいつも親切にしてくださった。せめてもの御礼に、「今までお世話になりました」と、顔馴染みのクルーの方を見つけては和菓子(銀座甘楽の銀六餅)を配った。

引っ越してきた2018年の当初は、ソフトバンク本社での仕事が始まったばかりで、ぼくは汐留に通っていた。その後2019年になり、突然難病になってしまった。まともに電車に乗れないため、半年間の闘病生活中、外出できたのはほぼ駅前のマックだけだった。ひとりで家にいても、気持ちが塞ぎ込んでしまう。だから、誰とも話さないにしても、せめてマックの賑やかな店内で読書しようと決めた。たくさんの本を読んだ。ぼくはこのお店に救われた。スーツ姿でスマホゲームに夢中のサラリーマン、ひとりごとを言うおじいさん、子連れのママたち、保険の営業から元気いっぱいの女子高生たちまで、小さな店内では毎日様々な人間模様があった。ぼくもまたよく通うお客さんにとっては、「いっつもあの席で何時間も本を読んでいる男性」だったかもしれない。

何冊の本を、このお店で読んだだろう

あるいは、クルーの方にとっては、「いつもブラックのコーヒーだけを頼む人」だっただろう。

「お砂糖とミルクは」
「なしでいいです」

毎日そう言い続けるうち、クルーの方は何も言わずにブラックで出してくれるようになった。やがて、店の外にぼくの姿が見えた瞬間、まだ注文もする前からコーヒーを入れ始めるクルーの方が増えた。ぼくはパブロフの犬を思い出した。

しかしそうなってから、ぼくは心理的に、コーヒーのブラックしか頼めなくなった。違う注文をしたときの反応が怖くなってしまった。

ときどきは、砂糖とミルクを入れたい気分のときもあった。でもぼくの顔を見て、「あ、おはようございます!はい、ブラックですね」と差し出されると、それすらも言えなかった。「ありがとうございます」と受け取ることしかできず、しばらくそれで悩んだ時期があった。

やがて、意を決して「今日は砂糖とミルクをもらってもいいですか?」と緊張しながら言ったときがあった。「えー!? なんと珍しい!」とオーバーに驚かれた。そういう、チェーン店らしからぬ反応が嬉しかった。ぼくはホッとし、それ以降はちゃんと自分の欲しいものを言えるようになった。それでもだいたいコーヒーのブラックだったけど。

クルーの方々にとって、ぼくはずっと「謎の人」だったと思う。半日以上をマックで過ごしていたことも珍しくなかったから、「この人、仕事してるのかな」って思われたとしても不思議ではない。でもぼくは、このマックで多くの原稿やnoteを書き、たくさんのインタビュー記事を添削した。

2020年、ライターさんにコンサルをするようになったとき、最初の生徒さんである池田アユリさんとは、よく深夜、ほとんどお客さんがいない時間帯にこのマックから電話していた。22時頃から電話を始めて、閉店時間の24時まで続くこともあった。添削やコンサルを通して、「良い文章とは何か」についてぼくが感じているものを、徹底的に池田さんに伝えた。電話越しに、彼女が必死にメモを取る音が聞こえてきた。やがて彼女には、閉店間際の「蛍の光」が聞こえてきたという。ああいう青春のような熱い時間を、大人になってから味わえたのは幸せなことだった。

一年以上、川崎のコワーキングスペースに通っていた時期もあったのだが、また今年の春から、マックによく通うようになった。

昨年、フジテレビの「奇跡体験! アンビリバボー」に出演したすぐあと、女性のクルーから「あの、もしかしてテレビに出ていませんでしたか?」と声をかけられた。「やっぱり! 本当に感動しました〜。いつもご利用ありがとうございます」。その頃から、徐々にスタッフさんとの距離が縮まっていった。朝、いつもいた男性クルーのKさんは、「モバイルオーダー125番は、、、中村さん、おはようございまーす!」と元気な挨拶ともにコーヒーを渡してくれた。対面での人との交流が少なかったぼくにとって、それは貴重な人とのつながりだった。他にも何人か、挨拶する仲になれた方がいる。

閉店のお知らせは、あまりにも急だった。こんなに通い続けたマックが、「今月25日に閉店してしまう」と知って、若干混乱した。近所のマッサージ屋さんの方も、「中村さん、あのマックなくなったらどこ行くんですか」と心配してくれた。たいしたカフェもない街なのに、駅前にあったケンタッキー、ドトール、そしてマックが2ヶ月間のうちに全部閉店してしまったから、一気に不便になってしまった(多分、しばらくは歩いて10分のところにある別のマックをよく利用することになる)。

最終日、「もうこの人たちからコーヒーを受け取れるのは最後なんだなあ」としみじみ思いながら、ブラックコーヒーを受け取った。コーヒーを差し出してくれるシーンの写真を撮らせてもらった。良い思い出だ。

夜もまたマックに来た。20時前、蛍の光が流れ始めた。何人かのお客さんが、記念に店内の写真を撮っていた。ぼくも、最後にひとりになったあと、誰もいないがらんとした店内の写真を撮った。もう二度と、この空間に立ち入ることはない。今までお世話になりました。

思い出が詰まった店内

店長の挨拶で、マクドナルドは閉店した。30年も続いたお店なのに、最後はあっさりだった。シフトの入っていなかったクルーたちが、続々と集まってきた。最後にいちばんお世話になったKさんと記念写真を撮った。

Kさんと記念写真

全国どこにでもあるけど、ぼくにとって特別なマクドナルドだった。寂しいけど、思い残すことなし!

クルーの皆さん、今まで親切にしてくれてありがとうございました。お元気で!

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