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フィンランドの旅(5)

「フィンランドのスーパーに空のペットボトルを持っていくと、お金がもらえる」という話を聞いた。いったい、どういうことなのだろうか?

それを確かめるべく5日目の朝、宿の近くの「Kスーパーマーケット」を訪れた。

ちょうど店舗に入ったとき、大量のペットボトルが入ったビニール袋を持ったおじさんが、店の左奥へ向かっていくのを見かけた。「きっとあっちだ!」と思い、後をついて行った。

すると案の定、ペットボトル回収マシンと思われる大きな機械があり、おじさんがペットボトルを入れようと準備していた。ただ、本数があまりにも多い。

「1本ずつ入れるのを待っていたら何分かかるんだろう?」とぼくが不安そうに眺めているのを察してか、おじさんは「お先にどうぞ」と目配せしてくれた。「キートス!(ありがとう)」

空のペットボトルを入れてボタンを押すだけ

500mlのペットボトルを4本、順に機械へ投入すると、画面に「0.8ユーロ」と表示された。そしてボタンを押すと、0.8ユーロ分のレシートが出てきた。つまり1本あたり0.2ユーロ。このレシートを買い物時に差し出せば、その金額分割引してくれるというわけだ。0.8ユーロは130円分だから、結構大きい。

そしてなんと、1.5リットルのペットボトルの場合、1本あたり0.4ユーロがもらえるのだ。

大量のペットボトルを集めてきたおじさん

500mlのペットボトルを100本集めれば、20ユーロ(約3200円)になる。だから実際に、市内を回って空のペットボトルを大量に集めて生活する人もいるようだ。

このような仕組みになっているから、フィンランドでは、最終的にはペットボトルが正しくリサイクルされるようになっている。もちろん、ペットボトルを飲み終えた人、みんながみんなスーパーの回収ボックスに入れに行くわけではないだろう。面倒な人もいるはずだ。バッグを持たずに出かけて、ずっと空のペットボトルを手に持っているのも落ち着かない。しかしこの国では、そういう人でも、拾い集める人のことを思って、わざとゴミ箱の中ではなく「ゴミ箱の脇」に置く人も多いそうだ。そうすれば回収しやすくなるから。とくにピクニックなどでそういう光景がよく見られるらしい。

日本では、ゴミを正しく分別したとしても、インセンティブはない。しかしフィンランドのように、「きちんとリサイクルすると得をする」という仕組みにしたら、よりサステナブルな未来に近づくのではないか、と思った。

ちなみに、金券として使えるこのレシートは、その店舗でしか使えないようなので注意してほしい(少なくともKスーパーに関しては)。同じKスーパーでも、別店舗では使えない、ということが店員さんに聞いてわかった。

ところで、フィンランドでは「Kスーパー」と「Sスーパー」が2大スーパーで、ヘルシンキにあるほとんどのスーパーがこのどちらかだった。バリエーションの少なさにうんざりしている人もいるそうだ。日本で言えば、イトーヨーカ堂とイオンの二択しかない、みたいな感じなのだろうか。

これも余談だが、Kスーパーにはムーミンのエコバッグが3.15ユーロで売っていて、いろんな絵柄があってかわいい。お土産におすすめである。

Kスーパーに売っているムーミンのエコバッグ

さて、この日の観光はまず、アテネウム美術館を訪れた。フィンランド最大規模の国立美術館だ。

アテネウム美術館

モネ、ピサロ、シニャックなどの作品を見られたほか、フィンランド美術の名作を楽しめる。それほど印象に残った絵は多くなかったが、雪景色が描かれた絵などはフィンランドらしくて良かった。規模的には、1〜1.5時間あれば十分見られる。

20世紀のアートも多い

しかし、これで20ユーロならば、パリのオルセー美術館は16ユーロで半日〜1日楽しめるうえ、これでもかと名画を堪能できるからすごいなあと思う。治安や公共交通機関の利便性、街歩きのしやすさについてはヘルシンキに軍配が上がるけど、それをものともしないくらい、パリが持つ芸術的資産は圧倒的だと改めて感じたのも事実だった。

トラムの4番線で街の北西へ

その後、トラムの4番線で市内の北西へ向かい、お勧めしていただいた「Max’s cafe」でランチした。人気のカフェのようで、お店は大混雑。確かにおしゃれで素敵なカフェだった。

Max’s cafe

ツナのパンとシナモンロールを食べた。

どれもおいしそう

フィンランドのカフェやレストランでは、よくメニュー名の最後にアルファベット表記がある。VやVEはベジタリアン料理ということだろう。しかしそのほかのアルファベット、M、G、Lの意味がよくわからなかった。

末尾にアルファベットが書かれた看板をよく見かける

「これらのアルファベットはどういう意味ですか?」と店員さんに尋ねてみた。

「Vはべジタリアン、Mはミルクフリー、Gはグルテンフリー、Lはラクトースフリーという意味よ」

なるほど。多くのカフェ・レストランでこういうことが徹底されているとしたら、アレルギーを持つ人や、どんな嗜好や主義の人であっても、公平に食を楽しめる社会、ということを意味するだろうか。

13時から見学予約していた「アアルト自邸」を訪れた。20世紀を代表する建築家でありデザイナーであったアルヴァ・アールト(1898-1976)が、1936年から暮らしていた家である。

アアルト自邸の外観
リビング
仕事場
アアルトの執務デスク

ここは見学が1時間と決まっている。まず最初の30分は、ガイドさんとともに各部屋を回りながら英語での説明を聞く。後半の30分は、自由に見学できる。

ガイドさんが英語で説明してくれる

説明は半分くらいしか理解できなかったが、家の細部にいろいろなこだわりが施されていることはわかった。リビングルームの大きな窓や、椅子やライトが素敵だった。

ユニークなライト
アアルトの代表作であるイッタラの花瓶

見学が終わり、今度は「アアルト・アトリエ」へ行くのだが、15時半からの予約時間まで少しだけ時間が余った。外をぶらぶらしていると、見事に凍ったフィンランド湾に目を奪われた。歩いている人もいたので、ぼくも歩いてみた。開放的で、気持ちが良かった。ツルツルと滑って、フィギュアスケーターになった気分だ。

凍ったフィンランド湾

「アアルト・アトリエ」が完成したのは、自邸の完成から約20年後の1955年のことだ。自邸はアアルトがデザインオフィスとしても利用していたが、従業員が増えるに従い手狭になったため、家の近くにこのアトリエを建てた。自邸とアトリエで、全部で30〜40人ほどが働いていたという。

アアルト・アトリエ

素敵な間取りの部屋があった。そこではアールトが設計した様々な椅子に座れて、プロトタイプとして作ったという珍しい形のライトをたくさん見られた。

座り心地の良い椅子
アアルトが製作したいろんな種類の椅子が並ぶ

こちらのアトリエも自邸と同様、30分ガイドさんが説明してくれ、残りの30分で自由見学という形だった。

社員たちの作業スペース
独特の窓
ダイニング

そのあと、トラム4番線の「Töölön halli」駅で降り、ガイドブックに載っていた図書館「Töölö Library」を訪れた。下から見上げたときに目のように見える螺旋階段が特徴的だった。

Töölö Libraryの螺旋階段と天井

また、自習室の学生たちの静けさにも驚かされた。ぼくは常々、北欧は「大人な国」だと感じる。6年前にスウェーデンのルンド大学を訪れた際も、似たような光景を見た。日本の図書館では、自習室にいる学生たちが、友達にちょっかいを出したり、ヒソヒソ話したりする場面をよく見かけるが、そういう雰囲気がまるでなく、みなそれぞれ自分の世界に集中しているのである。圧倒される静けさだった。

自習室のあまりの静けさに驚いた

クラシック音楽好きとしては、ぜひこの近くにある「シベリウス公園」を訪れたかったのだが、なんと工事中で中に入れなかった。柵越しにカメラをズームインして、なんとかこの公園のオブジェだけは写真に収めた。

シベリウス公園

シベリウスはフィンランドを代表する作曲家である。交響詩『フィンランディア』やヴァイオリン協奏曲、交響曲第2番などが代表作で、高校や大学時代によく聴いた。このほか、交響曲第5番の第1楽章が、フィンランドの深い森と澄んだ空気を感じられて好きだ。

カフェ・レガッタ

人気の「カフェ・レガッタ」は、シベリウス公園のすぐ向かい、凍りついたフィンランド湾のほとりにあった。1890年にできた元漁師小屋を改装したカフェとのことで、赤い小屋がかわいらしい。

大行列ができていた

日曜のためか、多くの若者で賑わっていた。ここへやってきたのは、スタバで仲良くなった店員さん(昨夏フィンランドを訪ねた)が、「ここのシナモンロールがいちばんおいしかったです」と教えてくれたから。言われたとおり、シナモンロールも、ホットチョコレートも、どちらもおいしかった。

シナモンロールとホットチョコレート

お店の窓からは、印象的な光景を見られた。コンパスのような形のソリで遊ぶ子どもたち。いかにも冬のフィンランドらしい。

ぐるぐると回るソリ

そしてここから眺める夕日が綺麗だった。

フィンランド湾の夕暮れ

夜はエスプラナーディ通りの「Restaurant Vaelsa」というイタリアンでピザを食べた。ピザしか頼まないことにイタリア人のおじさんは「前菜は?」「デザートは?」「いらないのか? なんてこった」と不満そうだったが、テーブルにやってくるたびに「グラッツィエ」と言ってたら「プレーゴ」と機嫌を取り戻してくれた。

マルゲリータ。おいしかった

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