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北見・常呂の旅(6) 「思い立つ旅」の素晴らしさ

旅の最終日。以前お仕事で関わっていたから、という理由を抜きにしても、ぼくはドーミーインというホテルが好きだ。それは、全国ほとんどのドーミーインに天然温泉の大浴場があるからである。

網走のドーミーインもそうで、サウナや水風呂まであった。朝、屋上の露天風呂に入って驚いたのは、雪に覆われた知床連峰が姿を現していたことだ。前日は曇り空で何も見えなかったから、「こんなにハッキリ見えるんだ」と驚いた。想像していた以上に雄大な景色だった。

10時にチェックアウトし、網走の「シーニック・カフェ」で2時間ほど仕事をした。ここはガラス工房「流氷硝子館」に併設されたカフェで、コーヒーや水はここで作っている美しいグラスで飲める。

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窓からは海と雪が見えて、しばらくすると網走流氷観光砕氷船「おーろら」が目の前を通り過ぎた。今年はもうシーズンが終わってしまったが、いつか流氷も見たい。

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ささやかに網走の土地を感じながら、原稿の修正と、請求書の送付を行った。2時間ほど経ち、隣の「道の駅」で名物の「網走ちゃんぽん」を食べた。ホタテとアサリの出汁が沁みるうまさだった。

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朝の知床の景色が忘れられず、どうしてもちゃんと眺めたかった。空港へ向かうまでに少しだけ時間があったので、昨日訪れた「オホーツク流氷館」の展望台へ向かった。昨日は曇ってて何もわからなかったけど、あそこからなら、よく見えるんじゃないか。

それは大正解だった。最後にこの景色を眺められて良かった。

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憧れの知床。今度は、あそこに行ってみたい。

そして女満別空港まで30分のドライブ。レンタカーを返却し、15時40分発の飛行機で東京に戻ってきた。

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6日ぶりに帰宅すると、郵便受けに雑誌が届いていた。

それは全日空の機内誌『翼の王国』の2015年12月号。実は旅に出る日の朝、中古で注文しておいたものだった。

どうしてかわからないが、旅の当日、早朝に目覚めて、ふと思い出したのだ。昔、機内誌で素晴らしいエッセイを読んだことを。

それはイルカを追い求めて旅をする話だった。書き手の男性は、突然イルカと泳ぎたくなり、思いつきでロサンゼルスへ向かう。しかし、そこにイルカはおらず、気付けばイルカのことを忘れてカリフォルニアやオレゴン州をジープで旅をしていた。

だが、あるとき怒りが爆発する。

「俺は、イルカと泳ぎたいのである」と。

旅の目的を思い出した彼は、「ハワイでならイルカと泳げる」という情報を得て、最終的にはハワイ島で実際にイルカと泳ぐことができた。

彼は最後にこう締めくくる。

「きっかけは『イルカと泳ぎたい』だけだったのだが、とんだ冒険をすることになった。思い出深い、思い立つ旅である。

知らない土地に、なんの準備もせずに向かう旅は刺激的だ。宿はあるのだろうか、どんな人間と出会うのだろうか、不安と好奇心が自分の感覚を研ぎ澄まさせる。

頭を空っぽにして、フィジカルを通して体験する旅を忘れてはいけない。思い立った時にそこに行く、あの快感は忘れることができない」

旅心を掻き立てる、素晴らしいエッセイだ。

「俺は、イルカと泳ぎたいのである」

この言葉と感覚に、当時まだ会社員だったぼくは、機上で深く共感した。それから7年近く経っているのに、なぜか北見へ向かう日に、あのエッセイの記憶と感動が蘇ってきたのである。

そして改めて読み直した今、その理由がわかった。

「ぼくは、カーリングがしたいのである」

その一心で、北見へ向かった。彼と同じじゃないか。そして念願のカーリング体験ができた。実際にやってみると思った以上に難しかったが、それでも楽しかった。カーリングをやれた。それで旅の目的は果たせた。イルカと泳ぐことができた彼と同じように、この快感は計り知れない。ぼくの右手はカーリングストーンの重さを覚えている。ぼくの右足は蹴り台を踏み出したときスーっと進む心地良さを覚えている。それは一週間前にはなかったものだ。

旅の目的は、たったひとつあればいい。昔、ある女性から「ウニが食べたくて北海道の積丹半島まで行った」という話を聞いた。

「積丹半島のウニがおいしいって聞いたんです。小樽の先の。でも私、免許を持ってないから、鉄道とバスを乗り継いで」

「それで、ウニは食べられたの?」

「食べました! 積丹半島の宿で、獲れたてのウニを、こんなに!」

積丹半島のウニは本当においしかったと、満足そうに話していた表情をぼくは忘れられない。彼女もまた、たったひとつの旅の目的を果たした。以来、ぼくもいつか積丹半島でウニを食べたいと思っている。人の行動には、次の誰かの行動を生む、そういう不思議な強い力がある。

北見を訪れて良かった。いろんな人との出会いがあった。至るところでカーリングやロコ・ソラーレを身近に感じられた。この一連のnoteを読んだ誰かが、北見に興味を持って、訪ねてくれたら嬉しい。北見の方も喜ぶと思う。ぼくもまた、季節を変えて再訪したいと思っている。カーリングだけではない魅力があった。

我妻さん、すずなちゃんをはじめ、現地でお世話になった方々、本当にありがとうございました!またお会いしましょう!

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