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【見世物経済】アボリジニの現実(オーストラリア/シドニー)

オーストラリア・シドニーのシンボル、オペラハウスを目指して海沿いを歩いていると、聞いたことのない重低音が遠くの方から聞こえてきた。目を凝らすと、身体中に白いペイントをした上半身裸の男達が、細長い棒に口を当てながら、ブーメランを叩いて音を出していた。

1. 大 8

オーストラリアの先住民アボリジニとの初めての出会いだった。細長い棒はディジュリドゥというアボリジニ独特の木の笛で、聞いたことのない音楽を奏でてている。ブーメランを持って西洋人と記念撮影をしている。絵、楽器、CD、を販売する小さなブースもある。異次元に迷い込んできたかのような光景に、僕は足を止めずにはいられなかった。

半年前からこの仕事をしている。週6日勤務で1日2~7ドル、多いときは100ドルほど稼ぐそうだ。
「なんでこの仕事始めたの?」
「アボリジニ文化を広めたくてさ」
「お金よりも大切なものってなに?」
「アボリジニ文化だよ」
「あなたにとって神って?」
「Baiame(注釈:アボリジニ神話に出てくる創造神)だよ」

彼の物怖じしない凜とした態度と、自分の文化に誇りを持って仕事に取り組む姿が、カッコよかった。
しかし同時に気にかかったのは、彼らの笑顔のなさだった。こちらがカメラを向けたときも演奏するときも笑顔がない。お客さんと記念撮影する時は営業スマイルを見せるが、つくり笑顔という感じだ。とても楽しんでやっているようには見えなかった。彼の皮一枚裏のところに張り詰めたナニカを感じた。それがなんなのかは遠慮して直接聞けなかった。でも、そのナニカが僕の全身にピリピリ伝わってくる。彼らの背後に潜むナニカこそ、アボリジニの歴史だと僕は直じた。

オーストラリアの豊かな自然と共に生きてきた原住民アボリジニたちは、いまや絶滅の危機に瀕するほど減少しているという。彼らの歩んできた歴史の過酷さや痛みは僕の想像を絶する。オーストラリア・ケアンズにあるジャプカイ・アボリジニ・カルチャーパークの壁面には 「私たちの土地は取られました。私たちの文化は壊されました。私たちの子どもは奪われました。でも私たちはまだここで生きています(Our land was taken. Our culture broken. Our children stolen. But we are still here.)」と書かれていた。苦難を乗り越え、いまも生きる彼らと「見世物」路上ワークを通じてしか触れ合えない現実があった。


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